第12話 引き寄せる

すり寄っていったその人を、

見誤ったと知ったのはすぐのこと。

後味悪く逃げ出したのは、

散々傷ついた後だった。


出会った人たちの名前も思い出せないのは、

あの頃のわたしが招いた諸々だからだ。


離れれば、

遠くに逃げれば、

安全だと思っていた。

安心だと、信じたかった。

終わりを記さず、

伝えることをせず、

ただ忘れられることを祈っていた、

その卑怯な弱さを思い知らせるように、

圧倒的な存在感をもって現れて、

あラわれて、

あらわレて、

こうして視界を鬱ぎながら、

すべての心を塗り潰していく。


そしてわたしは、

必死に目を背けて、

背を縮めて、

また、

逃げ出すんだ。

奪われたものに、

手を伸ばしもせず。

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敏く鈍く(仮) よこもりこもり @hagumu-i

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