第10話 絡める
その人達は、指をくれた。
甘い香りのオイルをくれた。
手のひらの温度と、非日常に酔ったふりをする。
自分では触れない場所を、その隅々を、自在に滑る指先。
時々、たぷりとした音がする。
全部をさらけ出すふりをして、扉をひとつだけ開ける。
嘘かも知れない名前は呼べない。
心底欲しいものを、どうか忘れさせてと願う。
錆び付いた声をあげる、ただそれだけの時間を、私はこうして買うのだ。
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