第3話

「イツキー!」


帰り道、幼馴染が名前を呼びながら駆け寄ってくる。


「んだよ、トーマ」


「帰るの早すぎだよ!ってか今日の最後の授業、ぼーっとしすぎだろ」


「あんな授業真面目にきくもんじゃねぇよ…誰でも知ってるっつの。」


「それはお前が本読みあさってるからだろーが、普通あんなディープなとこまで知るかよ」


「そーかよ。」



さっきの授業の時にはカッコつけてたが、俺は、実は人よりこの世界に興味を持っている。幼い頃から“楽園”についての本を読みあさっていたのだ。まぁそれでも分からないことは多すぎるのだが。



だから、外へ行きたいのだ。


この目で世界を見たいのだ。






…しかし、このことはまだ、幼馴染であるコイツにしか話していない。ほかの奴らが聞いたら馬鹿だと茶化されるに決まっているし、親になんて言おうものなら、外はおろか、これから一生家から出してもらえないなんてことになりかねない。


だから、今はじっと機を待っているのだ。



「…で、どう?まだ気は変わってないの?」


「変わんねぇよ。お前こそ、一生“楽園”にいるつもりかよ」


「大半の人はそのつもりだと思うよ」


「つっまんねぇ。あと17年だぞ?長くても俺ら34までしか生きられねぇんだぞ?」


「はぁ…まぁ、将来について考えてはいるよ。僕らももう高2だしさ」


「おう、考えとけ」



高校2年、17歳。つまりもう人生の折り返し地点というわけだ。“楽園”の最期まで生きていればの話だが。


「…俺は絶対、狗の組に入隊する。」


「それもう何回も聞いた。」


「このつまんねぇ檻から抜け出す」


「それも何回も聞いたよ。親は?なんて言ってんの」


「…まだ言ってねぇ」


「は!?馬鹿かよ…絶対反対されるよ」


「分かってんだそんなこと!!俺の人生なのによぉ、まったく」


「そりゃ誰だって、そう簡単に子供を外になんてやらないよ。」


狗の組。それは、“楽園”の外へ出て、世界復興の糸口を探している軍隊だ。毎年1回、外への遠征を行っているが、未だに大きな収穫は得られていないため、世間からは自殺志願者の集まりだと言われている。



「…別に、何の収穫もないわけではないのにな。」


「まぁ、復興に関して言うとほぼないようなもんだけどね。いたずらに外へ出ようとして外の化け物たちが中に入ることを恐れて、いっそ出入口なんてなくしちゃえっていう人もいるみたいだし。」


「どいつもこいつも引きこもりかよ。」


「命が大事なんだよ、みんなさ」


そもそもコイツはどう考えているんだ。今のところ俺と狗の組に入隊する意思はないみたいだが…



まぁ、そんなこと考えても仕方ないか。


俺の家が近づいてくる。




「じゃ、また明日な」


「おー、お前早めに親に言っときなよ」


「わあってるよ」



俺は家の前で、遠ざかっていく幼馴染の背中を見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わりのない本 へき @mugo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る