第2話

心地よい風が頬を撫でる。この風は一体どこからやってきたのか、それを知るものは少なくともここにはいないだろう。俺らはこの世界について、知らないことが多すぎる。もっとも、知ったところでどうにもならないので、そもそも知ろうともしない人が大半だ。


だから、こんな授業も何の意味もない。




「おい、流鏑馬やぶさめ。聞いてるかー?」


名指しで注意を受け、俺は窓の外から黒板へ視線を移した。


“楽園について”


黒板にはそう書かれている。





“楽園”。この世界に残された最後の生活地帯。三年前、この“楽園”は近々崩壊することが明らかになった。なんでも、この世界を維持する機械を開発した科学者が亡くなってしまったらしい。20年というのはその機械の寿命らしい。誰か他の人が手入れとか出来ねぇのかよ、とも思ったが、自然を科学技術で作り出すことなんて簡単に出来ることじゃない。



「“楽園”の外には、放射能に対応した生物が生存しており、彼らは世界崩壊以前に存在していたどの生物ともその性質は異なっている。現在も復興のために様々な研究が行われているが、その糸口は一向に掴めていない。尚、“楽園”を造り上げた機械だが、これの開発者は設計図などの情報は一切残しておらず、“楽園”の維持は長くてもあと17年であるとされている。」




誰でも知ってるようなこの授業に何の意味があるんだ。俺はまた窓の外へ目を向ける。


青い空に浮かぶ真っ白な雲。これらは全て人が作り出した幻にしかすぎない。


こんな授業をしなくたって、俺の将来はもう決まっている。


外に行く。“楽園”の外へ。



俺は少なくとも残り17年をのんびり過ごす気なんてないのだ。


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