第11話 ヤマアラシの距離感覚
さらっと。
それでいてぐさっと。
綱島先輩の言葉は私に突き刺さった。
「ただ、
それにここの人達は皆さん、あまり人に無茶はしませんしね」
それはどういう意味だろう。
先輩は私の表情からその疑問を読み取ったらしい。
「そうですね、色々な解釈がありますけれど。
ここの住民は半数以上が何らかの魔法を持っています。
魔力を感じなくても実際には魔法使いなんて人も少なくありません。
そういう意味では普通の人よりトゲだらけですね。
近づきすぎると刺さってしまいそうな。
でもお互いとげを持っているのを知っているからこそ。
逆に適切な距離というのを保てるのかもしれません。
自分と同じくらい相手も危ういと知っているから。
ヤマアラシのジレンマの変化球的なお話ですけれどね。
でもたいていの人はそこまでしなくても何処かで気づくんですよ。
今のこの距離が居心地がいいと。
そう、それが今のこの島の状態。
ある程度以上は無茶はしない。
そんなルールが徹底した世界。
困った事にこの状態に慣れるとなかなか居心地いいのです。
それだからここは
しれっとそんな事を言って大福を口に運ぶ。
何か色々私のことを目の前の先輩に見破られているような気がする。
確かに私は逃げてきた。
面倒くさくて理解してくれない田舎から。
それをわかった上で、大丈夫、ここは心配ないよと言ってくれている気がする。
気のせいだろうか。
それとも魔法で私の状態を気づいたのだろうか。
まあそのあたりは聞いても応えたくなければ答えないだろう。
逆に聞かなくても必要なら教えてくれそうな気がする。
つまりその質問は無意味。
ならば少し質問を変えて。
「先輩は今日、何故私に声をかけてくれたんですか」
「こういうときは、月並みの答で返すものですわ。例えば、
『あのときの貴方の姿が、知っていた誰かに似ていたから』
なんて感じで」
さらっと逃げられた。
一筋縄ではいかない。
「ただ個人的な提案としては、明日はちょっと趣向を変えてみてもいいかなと思いますわ。クラスの噂話に耳を傾けたり、あえて正門にたむろしている研究会の連中の話を聞いてあげたりとか。
大丈夫、ここに合格するような人は皆成績優秀ですし、7割以上は魔法使いですから。まあそれでも浮いてしまう人もいますけれどね。それはそれであまり問題にならないのです。何分こんな環境なので」
私は理解した。
先輩はきっとこの事を言いたくて、私を食事に誘ったんだ。
お節介だけれどどうしても言いたくて。
「でも補助魔法科系の研究会は正直、ぱっとしたものが無いかもしれませんね。学科の性質上どうしても研究室に比べるとレベルが落ちますし。そのあたりは攻撃魔法科系統や魔法工学系統の研究会に勝てないところです。あのあたりはセンス次第で研究室以上を狙えるところもありますしね」
「すみません。何か本当に有り難うございます」
頭を下げる。
本音で相手に頭を下げるのは久しぶりだ。
要領としてはよく使ったけれども。
「お礼は無用ですわ。私は単に一人で夕食を食べるのが寂しかっただけですから。
それに人と食べるという理由なら、少しくらい贅沢をしてもいいだろう。と自分に言い訳ができますしね。具体的に言うとこのチョコケーキ、今日は食べたい気分だったのです」
そう言って先輩はチョコレートケーキの皿をひとつこちらによこした。
これだけは1人ずつ1個だ。
パンも無くなったので確かにケーキのお時間。
「白いクリームは砂糖無しの甘くないものです。ケーキ本体がかなり甘いので口直し用ですね。私はこのケーキが好きで、時々頼んでしまうんです。でも学生には贅沢だから、今回のように何か理由をつけて」
どれどれ。
食べてみると確かに容赦無い甘さ。
ただ甘さの質が色々違うのとチョコ本体が美味しいのと。
そして甘み無しのクリームがいい感じなのとで。
結果的にはとっても美味しくなっている。
「確かにこれははまりますよね」
「でしょう」
先輩は微笑んだ。
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