第12話 貧乏学生と格安パソコン

 その後お店の前で綱島先輩と別れた。

「帰りはさっきの道は通らない方がいいですわ。下りは足場がよく見えませんから」

 その助言には素直に従う。

 なにせ登りでも1人の時はなかなかわからないくらいの道だし。


 さて。

 スーパーの前を通り学校の近くを通りで寮まで帰る。

 確かにぐるっと回っている感じだな。

 だからショートカットするんだなと思いつつ。


 寮の自分の部屋へと帰って来たけれど。

 この部屋には何も無い。

 テレビは買っていないしパソコンもまだ買っていない。

 スマホは持っていない。

 ないない尽くしだ。


 せめてスマホくらいは買おうかなとは思っている。

 今月は教科書とパソコンを買うから余裕は無いけれど。

 そんな事を思いつつ、せめてひまつぶしになりそうなものを机からあさる。

 今日のオリエンテーションで貰った小冊子が入っていた。

 研究会やサークル等の紹介が載っているものだ。


 確かに暇つぶしに研究会なんかに入ってみてもいいかもな。

 そうすれば嫌でも人付き合いが出来るだろう。

 悲しいかな私の人付き合いのスキルは非常に低い。

 自然に友人が出来たりする可能性はlim(n→+0)といったところだ。


 そんな訳で冊子のページをめくってみる。

 冊子には攻撃魔法系、補助魔法系、魔法工学系という順番で研究会等が掲載されているようだ。


 攻撃魔法系はパス。

 一応私も炎系統の魔法と簡単な身体操作の魔法は使える。

 でもそれを専門職と同じように鍛える気は無い。

 工作系もやったことが無いし今ひとつピンとこない。


 となると補助魔法系統か一般的な文化部系統になる訳だけれども。

 これもまたいいなと思えるものが無いのだ。

 文芸なんで柄ではないし、囲碁将棋など含めてゲーム物にも興味を持てない。

 というか勝敗の価値なんてのがいまいち私にはわからないし。


 補助魔法系統でも面白そうな研究会は見当たらない。

 読心魔法があるのに心理分析する意味は理解できないし、治療魔法研究なんて教科書を読めば充分だ。

 ましてや授業の補習サークルなんて勘弁してくれ。

 それくらい自分でやる物だろう。


 そんな訳で研究会の案内冊子をしまい、学校側の説明資料を代わりに出す。

 教科書や必要な教材等の値段や斡旋等が書いてある資料だ。


 教科書類は結構高い。

 辞書等含めると2万円近い。

 入学準備として奨学金の4月分は10万円上乗せされている。

 それでもかなり厳しそうだ。

 他にも色々揃える物があるし。


 ただ3枚目の紙に。

 パソコンがかなり安い金額で記載されていた。

 恐ろしい事に消費税込みで5,000円だ。


 OSはWindowsでは無いし、筐体も中古らしい。

 それでも2年保証がついている。

 更にワープロと表計算とプレゼンテーションソフト入り、魔法工学生用にPython3のインストール済みとなっている。

 ネット閲覧も当然可能らしい。


 ちゃんと各科の主任教授の”授業でも問題無く使えます”承認コメント入り。

 学校側が配ったものだからコメントが偽物という事も無いだろう。

 Windowsパソコン程の一般性はありませんとか、高速演算が必要な方はお勧めしませんとは書いてはあるけれど。

 ネットそのものは島内無線LANを無料で使えるようだ。

 学校で使用するSNSやメール等設定等の資料もついてくるとの事。


 申込窓口は留学生会か学生会となっている。

 なるほど、きっと貧乏奨学生用だな。

 あとで申し込みに行こう。

 学生会でまた綱島先輩に会えるかな。

 ちらっとそう思いつつ。

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