第9話 パンとケーキと豆大福

 パンというから昨日買い出しに行ったパン屋かなと予想。

 そしてやっぱりそのパン屋だった。

 先輩が慣れた感じでカゴにパンを次々に取っていく。


「甘いもので苦手なものはあるかしら」

「特に無いです」

 先輩は頷いてレジの方へ。


「これとあと、ザッハトルテ2ピース。中で食べるからお皿でお願いします」

「はいはい」

 昨日のお姉さんがそう軽く返事をしてケーキを出す。

 返事の様子からどうも顔見知りのようだ。

 まあ狭い島だからそうなるだろうけれど。


 パン6個とケーキ2個。

 それをちょっと大きめのお盆に載せる。

 これだけ買うとさすがに結構な金額。

 私の1週間分の食費(予定)くらいだ。


「やっぱり出しますよ」

「大丈夫ですよ。3年にもなるとそれなりに余裕が出来ますから」

 あっさりそう言われてしまう。

 そしてお店のお姉さんはパンとケーキが載ったお盆を持って何故か奥の方へ。


「さて、こっちです」

 綱島先輩は何故か商品を受け取りもしないでお店から出た。

 お店が入っているのはスーパーとか役場と同じ建物の中。

 綱島先輩は役場側の入口から中に入り、お店の裏手方向の扉を開ける。


「さっきのお店の裏側ですよ。ここは私のバイト先の工場を兼ねていますので」

 好奇心満々で中に入ってみる。


 工場と言うには簡素なスペースだ。

 作業台らしき大きいテーブルと段ボールがいくつか。

 物はそこそこあるけれど綺麗に片付いている。

 工場という言葉に連想されるような油とか埃とかそういう汚れは一切無い。

 恐ろしい程徹底して掃除されている感じだ。

 そして作業台にさっき買ったパンとケーキがお盆ごと置いてあった。


「ここってパンとかお菓子の工場では無いですよね」

 置いてあるものが全く違う。


「ええ、ここは魔法部品の工場です。まあ工場と言うよりは作業場ですね」

「ものすごく綺麗に掃除されているんですね」

 それを聞いた綱島先輩が肩をすくめた。

「魔法で掃除しているだけなんですけれどね。何でも燃やして二酸化炭素って。気化しないケイ素系統はまとめてガラス玉にするそうですけれども」


 その魔法は私もある程度使える。

 中学の時、ちょっとばかりの脅し目的も兼ねて使った掃除魔法だ。

 要は埃とかちりとか専門に掃除する魔法。

 対象の大きささえうまく限定してやれば難しい魔法では無い。

 中学1年当時の私でもネット上の知識だけで習得できる程度。


 田舎ではいじめ防止の脅し代わりに使った。

 でもここで使う分には単なる実用魔法という事か。

 何かちょっとばかり嬉しくなる。


 綱島先輩は置いてあった冷蔵庫から紅茶のペットボトルを2本取り出した。

「パンだけだと喉が渇くしどうぞ。安いときにまとめて買っているから心配しないで下さいね」

 もうここまできたらお言葉に甘えてしまおう。

 甘えてばっかりだけれども。


 パンは昨日買った棒パンのクランベリーバージョンの他に

  ○ ミルククリーム

  ○ あんぱん

  ○ パンオレザン

  ○ スコーン

  ○ 黒パンのハムチーズサンド

という感じ。

 それにチョコレートケーキまでつけている。

 何故か注文していない豆大福までついている。


「豆大福はもうすぐ固くなりそうだから、という事でおまけだよ」

 表のパン屋の方からお姉さんの声がした。

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