第7話 チートの証明
ふと。
綱島先輩はにやりと笑った。
「私独りが例外ではない、という証拠が歩いてきました。なのでちょっと悪戯してみますわ」
今度は腕を大きく後に伸ばし、明らかに全力での投球モーションで。
ゴルフボールを投げた。
そしてちょうどその場所に。
廊下右側からちょっと色黒の留学生らしい女子学生がさしかかり……
横も見ずにふっと右手を上げてボールを受け取った。
「危ないです、沙知」
「このようにチート過ぎて球技は成立しないのですわ。という説明です。すみませんね、エイダ」
「そういう事ですか」
エイダと呼ばれた先輩はにこりと笑う。
「ただ危ないからこれは没収です」
そう言って右手でぎゅっと握りつぶした。
次に手を開いた時には。
ゴルフボールだったものが潰れている。
敗れて変形した表面の白い層と潰れてちぎれたピンク色の中身が見えた。
ゴルフボールを握りつぶす握力とはどれだけ必要なのだろうか。
思わずまわりがシーンとしてしまう。
「エイダ、やり過ぎ!慣れない新入生は引いちゃうでしょう」
「すまないです。ちょっと加減を間違えました」
何かあんまりだ。
でもこれ位は先輩たちにとっては大した事では無い様子。
「と、こんな感じに攻撃魔法科のエースはもっとチートですというお話でした」
しれっとそう言って、そしてまた綱島先輩は歩き出す。
「さて、次は外ですわ」
そう言って階段下を右に曲がり外に出た。
ちょっと斜めに歩くとすぐにそこそこ大きな建物がある。
中の左側は漁船とかバイクとかママチャリっぽい自転車が停められていて、右側は鉄工所みたいなスペースになっている。
「ここは学生会の工房ですわ。攻撃魔法科で使う刀とか、他の科で使う杖の一部とかを作っています。まあ見たとおり、実態は魔法工学科の学生会幹部が好き勝手にしている場所ですけれど」
確かにそんな感じだ。
ただ確かあの漁船、空を飛ぶってWebやはんどぶっくに書いてあったよな。
ここは台地の上だから、そうでもしなければ海に出られないだろうけれど。
「ここにある乗り物って、みんな空を飛ぶんですか」
やっぱり質問した人がいた。
「今ここで空を飛べるものはそこの漁船だけですわ。あとは役員の日常用です。漁船は魚祭りで必要な魚を捕ったりする時に使います。残念ながら私は操縦に自信が無いので飛行実演は……1分程お待ち下さい」
その言葉のすぐ後。
私達が出てきた校舎の出口から男子生徒中心の一群が出てくる。
これは魔法工学科のグループだろう。
魔法工学科だけ男子の方が女子より多いらしいから。
「ちょうど良かった、朗人君。この飛行漁船の実演してくれないかしら」
「どうせ工房の説明でしたしね、いいですよ」
朗人君と呼ばれた細身の彼はそう言って漁船の方へ。
「そんな訳で飛行漁船の飛行実演をします。こっちの組は魔法工学科B組かな。魔法工学科と補助魔法科両方あわせて7人まで。乗ってみたい人!」
ちょっと考えている間に数人がさっと手を上げた。
迷わず上げておくべきだったかな、とちょっと後悔。
そしてそんな事を考えた自分にちょっと驚く。
そういった積極性は私にはあまり無い筈だ。
さっきの質問といい、今日の私はちょっと変な感じ。
そんな訳で。
漁船は7人の新入生と朗人君と呼ばれた学生会役員を乗せて。
まず工房内ですっと1メートル程浮く。
そのまま直進して外に出て、そして一気に上昇。
校舎の屋上より高いところへと上昇する。
「今の三輪朗人君は魔法工学科の2年生です。彼は魔法工学の腕もありますが、学生会では魚祭りの時のような料理イベントの調理役としての出番が多いでしょうか。
入学時は魔法を全く使えなかったのですが、今では工作系魔法とか色々使えるようになっています。
だから今魔法を使えない人でも1年後にはあれくらいは使えるようになるかもしれません。逆に魔法を使える人はよりもっと色々出来るようになりますよ」
魔法工学科の方からおおーっという歓声が上がる。
魔法工学科は魔技高専の学科で唯一、魔法を使えなくても入学可能だ。
実際、魔法を使えない学生の方が多いらしい。
今のはそういう人の希望の声なのだろう。
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