第5話 山羊の道
振り返る
背が少し高めで細身の女子生徒が立っていた。
ちょっと鋭利な感じのする美人さんだ。
一昔前の化粧品のCMにいたような。
つけているバッチから見ると補助魔法科。
A組では見ていない顔だからB組か。
でも学年的には上のような気がする。
先輩かな。
「あなたはこの人混みというか勧誘合戦を通りたくない、違いますか」
「そうですけれど」
と思わず本音を言ってしまう。
「ならこっちに通れる場所がありますよ」
彼女はそう言うと歩き出した。
私の方を確認しようともしない。
どうしようか、ちょっと迷う。
ついて行ったのは好奇心だ。
本当に通れる場所があるのかとか、この人は何者なのかとか。
彼女は特に説明もせず、校舎の一番端の出口から外へ出る。
そしてさらに門とは逆の山側へ。
「こっちに道があるんですか」
「厳密には獣道みたいなものですけれどね。私は山羊の道と言っていますけれど」
彼女はそう言って塀の切れる処まで来た。
なぜ塀が切れるかというと岩があるからだ。
ここからは岩と山が塀代わりになっている。
「ここは通れないように見えますけれど、実はこっちから行けば通れるのですわ」
そう言って彼女はすっと岩に足を置いた。
よく見ると岩の所々に踏み跡みたいな場所がある。
よく見ないとわからないけれど。
私は彼女の行くとおり、足がかかる部分を順に登っていく。
別に手をかけるとかその必要も無い。
普通に歩く姿勢で足場だけ彼女と同じように注意して。
あっさり岩を越えて向こう側へ。
着いたのは女子寮の裏だ。
「ここならもう問題無いでしょう」
確かにそうだ。
寮の自室で休んでもいいし、寮の門から外に出てもいい。
でも懸念事項が1つ。
「寮監の教官方からは怒られたりしないですか」
「女子なら文句は言いませんわ。ここを通ったのも魔法で把握済みでしょうし。男子が通ると雷が落ちるそうですけれどね。この場合の雷は比喩ではありませんわ」
なるほど。
さすが魔法学校だ。
いろいろと納得してしまう。
「それでは私はこれで」
彼女はそう言うとまた別の方向の崖へ。
思わずつい聞いてしまう。
「これから何処に行かれるんですか」
「この上にマンションが3軒建っているのですけれどね。その1軒に用事がありまして。ここから門を通ると大回りですので、こちらの崖から行くのですわ」
そう言ってまるで普通の階段を歩くようにすいすいと上って行ってしまった。
ちょっとあっけにとられて見てしまって。
そして彼女が歩き出した崖に近づいてみる。
確かによく見ると足場になりそうな場所が所々にある。
上手くコースを選べばあんな感じに普通に歩いてもいけるのだろう。
でも私がそれを出来るかというと自信が無い。
崖も寮の4階分位の高さがあるし。
うーん、凄いというか変というか。
何者だろう。
きっと上級生だろうとは思うけれど。
こんな裏道を知っているからには。
まあ実際助かった。
彼女のことを考えながら私は寮の自室へと歩いて行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます