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 俺は北の世界の城を捨て、魔王の城で住むようになった。

 当然魔王の城の隣には、『決闘場』と『拷問場』の建設を開始させていた。

 それが出来るまでの退屈凌ぎに、さっそく南の世界の罪人どもを、大量に魔王の城に連れてきた。

 その罪人に片っ端から拷問をかけて遊んだが、ある違和感に気付いた。

 楽しくない。いくら罪人を殺しても、まったく楽しくないのだ。

 無理に楽しもうと笑い声を立ててみても、酷く空々しく、むしろさらに白けてどうしようもない。

 それどころか虚しさのような感情が胸に溢れてきて、拷問をする気もなくなった。

「もういい。今日はここらへんでもういい。俺はもう休む」

 そういって奥の広い自室へと引っ込み、ベッドの淵に腰かけてぼんやりとした。

 身体も精神もずっと若いままで、元気も体力もありあまり、刺激を欲しているはずだった。

 それなのに、胸のうちの虚無感は勢力範囲を拡大し続けているのだった。

 ただ、政治のやり方は変えなかった。

 世界の人間どもには、厳しい税を取り立てた。どれだけ市民の生活が圧迫されようが知ったことではない。

 北の世界同様、言論の自由は与えず、俺に少しでも不利になるようなことをのたまう輩はすぐさまひっ捕らえた。

 じきに、南の世界も北の世界のような暗い空気と感情が渦巻く場所へと変わっていった。

 これがいい。これが俺の望む世界だ、と俺は城の展望台から街を見下ろし、肩を落として歩く人々を見下しながら満足感に浸った。

 満足感に浸っているにも関わらず、やはり胸の内に貼り付いた虚無感は剥せなかった。

 まるで皮膚の一部になったように、ぴったりくっついていた。どれだけ高笑いしようと、誰かの首を刎ねようと、決して消えなかった。

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