そのうち、俺は自分を勇者として送り出した国を制圧した。

 まず俺が生まれ育った村を襲撃したのは、単純に俺の私怨だった。

 俺から逃げ惑う村人どもの姿は、幼い頃に溺れさせたミミズよりも滑稽で、哀れで、弱弱しくて、とても胸が晴れるような気分を俺に味合わせてくれた。

 俺はあえて恨みがそんなにないやつから、恨みの強いやつの順に狙って殺していった。

 最後に残ったのは、俺が特に恨んでいるやつら。クソ村長。お喋りな村娘のスミス(すでにババア)。魚屋のヨージ。肉屋のサーベ。八百屋のイクライン。靴屋のハンス。俺をいじめていたガキ(すでに大人)。

 こいつらを魔物に命じて縛り上げ、村長の順から首を斬っていた。

 わざと力を抜き、すぱっと首が胴から切り離されずに苦痛を延々と味わう目にたっぷり遭わせてやった。

 あまりにも痛みと苦しさに、やられたやつは声を大にして、びゃあびゃあ泣き叫びながら死んでいった。

 後に殺されることが確定している連中はそれに震え上がり、顔面から耳の先まで蒼白しながら、がくがくと恐怖と怯えで縮こまっていた。

 途中で靴屋のハンスが逃げようとしたが、すぐに周りに待機していた魔物に殺された。

 惜しい、俺の手で殺したかったのに、と少し残念だったが、まぁ死んだならざまぁみろだ。

 気を取り直して、俺は最後の一人まで拷問兼処刑を楽しみ抜いた。

 村人を全員殺害した後、あまりの快感に射精していたことは、魔王には内緒だった。

 さて、この村を殲滅したならこの国にもう用はない。さっさと国王の城を制圧しよう。

 俺は魔物どもを引き連れて、俺を勇者として送り出した国王の城へと向かった。

 道中であの幼い頃によくミミズを溺れさせていた湖に行き当たり、つい懐かしさに駆られて、当時と同じように土から掘り出したミミズを湖の中に放り込んだ。

 村人どもを皆殺しにした後では刺激がなく、またミミズに村人の顔がついているようにも見えなかったが、あの頃の思い出に浸ることができ、いつまでも微笑みを浮かべて眺めることができた。

 辛いことばかりだった私の幼い頃にとって、やはりこの湖でミミズを溺れさせている瞬間は、生活の中で最も安らかになれて至福の一時だったのだ、と改めて実感した。

 俺は一時間ほどそこにいると、名残惜しかったが、国王の城に再び向かった。

 魔物たちに街を襲わせ、混乱に乗じ、一気に城内へと攻め込んだ。

 城内では護衛や騎士が城を守ろうと俺に立ち向かってきたが、一人残らず俺に掠り傷すら残せなかった。

 大して苦労することもなく、王座のある部屋に突入できた。

「お、お前は――ゆ、勇者、だと?」

 国王は玉座にしがみつくように座り、その上で真っ青な顔をしてがくがく震えていた。

 俺の顔を見るなりいっそ狼狽し、目を白黒させて驚いた。

 俺は構わずに祭壇を駆け上がり、王座へと上がった。

 俺を歓迎したときですら俺を見下ろした国王は、俺に見下ろされていた。

「う、ううう、裏切ったのか! こ、ここ、こんなことしてただで済むと思って――」

「つべこべ言わずに降伏しろ。そうしたら話は終わりだ」

「だ、誰が魔王の手なんぞに堕ちるものか!」

「変なとこで意地を張るんじゃねぇよ、クソ国王」

 俺は国王の鼻先に剣を突きつけた。国王は「ひぃっ」と情けない声を出した。

「――降伏するな?」

「こ、こ、降伏します――」

 国王は両手を上げ、歯を打ち鳴らし、股間を濡らしながら俺に屈した。

 こうして俺の故郷の国も、魔王の配下に納まった。

 俺には復讐ができ、あの湖にも再び行け、非常に満足のいく制圧だった。

 それからも色んな国を制圧した。暑い国、寒い国、広大な砂漠がある国、氷に覆われた国、ジャングルが鬱蒼と生い茂る国、小さい国、大きい国、人口の多い国、人口の少ない国、土地の広い国、土地の狭い国、経済力のある裕福な国、経済力のない貧乏な国、戦争に強い国、戦争に弱い国、治安の良い国、治安の悪い国、様々な国を支配した。

 しかし、故郷の国を制圧したときのような満足感を得ることはできなかった。

 人を斬り殺しまくっていると、ふと人を斬るという行為が馬鹿らしいことのように思える瞬間があったが、また次に人を斬ったときには忘れていた。

 そうやって、俺は魔物を斬るために作られた伝説の剣を、人の血で汚し続けた。

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