6
それから俺と魔王は、世界の征服に勤しんだ。
俺は魔物たちを引き連れ、先陣を切って街や村を襲撃した。
逃げ惑うやつらを片っ端から斬り殺していくのは、とても胸が躍った。
女や子供などの弱いやつを殺せば、その鳴き声や叫び声や悲鳴が心地よく鼓膜を揺らした。
屈強な男を殺せば、剣を突き刺したときの歯応えがある感触が堪らなかった。
熟練の戦士も騎士も、手強い魔物どもを次々と倒してきた俺には勝てなかった。
村の長や国王どもは、最終的に俺、ひいては魔王に降伏せざるを得なかった。
魔王と俺はそうやって、どんどん侵略範囲を広げていった。
大抵のやつは俺が勇者であることに気付いた。
「ゆ、勇者様、何で――」
全員そんな感じのことを呟いて死んでいった。
大体言い終わらないうちに殺すから、最後まで話は聞かなかった。
ただたまに急所を斬り損ねることもあって、とある男は俺に斬り付けられた腹部を抑えながら、「この裏切り者がっ!」と俺に向かって叫んだ。
「裏切るも何も元から仲間じゃねぇよ」と唾と一緒に吐き捨て、改めて殺した。
中には俺を勇者だと気づかないやつや、元から知らないやつもいた。
そういうやつは大抵がみすぼらしい格好をした貧乏人だった。
俺と似た境遇のやつも多くいたに違いない。だが、俺はそいつらも殺した。
俺は殺すやつを差別しなかった。農夫も、商人も、木こりも、騎士も、戦士も、魔導士も、僧侶も、貴族も、乞食も、男も、女も、子供も、老人も、白痴も、皆等しく殺した。
普通の剣ならば数人斬り殺したところで、刃は零れるわ、人間の血液や油がべっとりと纏わりついて使い物にならなくなるが、不思議と伝説の剣は何十人を一気に斬り殺そうと、まるで新品のような輝きを放ち続けていた。そのため、俺は無遠慮に人を斬ることができた。
一つの国を制圧するたびに、俺と魔王は城の中で祝杯を挙げた。
「いやー、勇者よ、今回もよくやってくれた」
魔王は嬉しそうに頬を緩ませ、鳥の丸焼きにかぶりついた。
「お前は特に何もしてないな、魔王」
俺が少し皮肉を言うと、魔王は照れるように頭を掻いた。
「お前が強すぎて、私の出る幕がないんだよ」
「まぁいいさ。魔王の名前と存在だけがあればな」
俺は血のように赤いワインを喉に流し込みながら、ほくそ笑んだ。
そういえば、ふと今更ながら聞きそびれていることを思い出す。
「なぁ、魔王」
「うん? 何だ?」
「何で俺に世界の半分をやるなんて言ったんだ? 罠でもなかったようだし」
「今更だな」
「今更だが、今まで訊いていなかったからな」
「・・・・・・」
魔王は唐突に黙った。黙られたら余計に気になる。
「何だよ、何で黙ってんだ。今更隠すこともないだろ。教えてくれよ」
「――あれだよ、こいつなら私の世界征服の戦力になると思ったからだ」
「何だ、その適当な理由。もっと他にあるだろ」
「ただの勘みたいなものだったのだ。それにほら、実際に戦力になっているではないか」
「――なーんか、はぐらかされてる感じがするな」
「気のせいだ、気のせい」
魔王は誤魔化すように手を振り、パンを噛み千切った。
俺は釈然とはしなかったが、それ以上は追及もしなかった。
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