まだ五歳の幼い俺は、村の外れにある山道を一人泣きながらとぼとぼ歩いている。

 身体は傷だらけだったし、口内は血の味で満ちていた。村のガキどもからリンチされたのだ。

 ガキどもは同い年にも関わらず、「お前なんか死んじまえ」「この悪魔の子が!」「気持ち悪いんだよ!」と好き勝手に罵り、怖がって無抵抗な俺を平気で殴りつけたし蹴りつけた。

「あいつら、殺す。いつか絶対殺す」俺は呪詛を吐きつつも、やはり涙は止められなかった。

 俺はこんな憂鬱を少しでも晴らすために、いつもの遊びに興じることにした。

 まず木の根元に行き、手で土を掘った。

 そうすると、土の中に潜んでいたミミズがうじゃうじゃ出てくる。

 俺はそのミミズを両手いっぱいになるくらいまで捕まえると、速足でその山道のさらに外れたところにある湖へと向かう。

 広々とした大きな湖だ。水はとても澄んでいて、湖の中で泳ぐ魚や水棲の昆虫なんかがよく見えるほど透明な水質だった。

 俺はミミズの一匹を、その湖の中に放り込む。

 ミミズはたちまちのうちに水の中でのたうち回り、溺れる。

 溺れるミミズには顔がついている。イーカの顔だ。そのミミズはイーカも顔をしている。

 苦悶の表情を浮かべて、苦しみもがいているイーカの顔だ。

 あれ? この頃の俺はまだイーカに出会ってなかったよな? まぁいい、まぁいいよ、別に。

 そのミミズが溺れ死に切らないうちに、もう二匹のミミズを湖の中に投入する。

 この二匹のミミズはそれぞれアーモスとダカンの顔をしている。アーモスミミズは随分と間抜けな顔をして溺れている。ダカンミミズはなんか表情までぼやけている。

 数匹ずつ投下するのもなんだか煩わしく、両手に集めていたミミズを一気にすべて湖へ。

 ミミズたちは皆各々村人の顔になる。先程俺をいじめたガキども。靴屋のハンス。少しも食べ物を恵んでくれなかった魚屋のヨージと肉屋のサーベと八百屋のイクライン。これみよがしに俺や俺の両親の悪い噂を広めた村娘のスミス。放任主義のクソ村長。その他色々。

 どいつもこいつも俺を虐げ、苦しめた連中だった。

 そいつらが今俺の手によって苦しんでいる。俺の口元から自然に笑みが零れた。

「ほらほらっ、溺れろ溺れろっ」

 俺はそう囃し立てながら、木の棒でのたうつミミズどもを突っつき回す。

 一匹、また一匹と、溺れ死んだ村人顔のミミズたちは湖の底へと沈んでいった。

 初めはくすくす程度の笑い声が、気づけばげらげらと山中に響くほど大きくなる。

 最後の一匹が溺れ死んで湖の底に沈み切るまで、俺の口から笑い声は絶えなかった。

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