7.不器用な男達

「あれでダメだったら、制御機関の魔法陣を潰さないといけなかったから、助かったよ」


 この王城の魔法陣は、王城を守るためだけに動いているので、破壊しても歴史学者や建築家が泣くだけで、国民は困らない。


 だが制御機関で使われる魔法陣は、国全体の動力を担っている。それを破壊することは、この国のライフラインを断つこととなる。

 それで魔女を止めたとしても、諸外国に知られれば、攻め入られる良い口実となりかねない。


「しかし、自然魔力って凝縮するとあんな状態になるのか……。人間が使っていいものなのかな?」


 少し憂鬱な気持ちで呟いたミソギだったが、それに応えたのは一つの足音だった。


「随分派手に吹き飛ばしたな」


 二人が振り返ると、そこにはホースルが立っていた。


「あんた、なんでいるんだ。気が乗らないから来ないと言ったくせに」

「それは誤解だ。気が乗らないから魔女は倒さないとは言ったが、来ないとは言っていない」

「何でいるんだよ、だから」

「妻が此処のレストランの限定メニューに興味を示したので、連れていく約束をしたんだ。何か問題があるか」

「あるに決まってるだろ!」


 脱力気味に叫んだミソギだったが、ホースルはどこ吹く風だった。


「いるなら手伝え」

「妻を置いて長く離席出来るわけがないだろう。寝ぼけたことを言うな」

「寝ぼけたこと言ってるのはあんただろうが! あんたがやれば、もっと早く片付いただろ!」


 ホースルはきょとんとした顔になったと思うと、辺りを見回して肩を竦めた。


「いや、別に変らないだろう。私は魔法使いと違って自分の力の制御が不得手だからな」

「あぁ、そう。手加減出来ないんじゃなくて、しないの間違いだと思うけど」

「あと、下の連中が騒ぎだしているから、早いとところ立ち去ったほうがいいぞ。王城を壊した罪で軍法会議に掛けられたくはないだろう?」


 平然とした調子で言うホースルに、ミソギは眉を寄せて吐き捨てた。


「あぁ、勿論だよ。あんたと違って俺達は忙しいからね。軍法会議にかけられてる暇はない。……行くよ、大剣」

「え、でも」

「いいから、さっさと来い!」


 とばっちりで怒鳴られたカレードは、苦笑いしながらホースルのほうを見た。


「なぁ、本当に嫁さん連れて来たのか?」

「どういう意味だ」

「嫁さんを愛してるなら、少しでも危険から遠ざけようとするはずだ」

「随分自信たっぷりだな」


 ホースルの言葉にカレードは「勿論」と返す。


「俺だって自分の嫁さんへの愛は負けねぇからな」

「大剣!何してるんだ!」


 先ほどより苛立ちを増した声で呼ばれると、カレードは慌てたようにそちらへと駆けだした。

 残されたホースルは暫く黙って後姿を見送っていたが、やがて踵を返した。


「結婚式の夜に自分で殺したのに、危険も何もないだろう。変わった奴だ」


 誰もいなくなった城壁の上に、瓦礫が虚しく転がる音だけが残った。


END.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る