12

 結局、一日中空回りが続いた。


 最終的に羽根さんの希望でホラー映画を見ることになり、僕は絶叫をこらえるのに必死で、内容を一つも頭に入れることができなかった。

 そのせいで、羽根さんに感想を聞かれても、曖昧に笑って、「おもしろかったよ」としか答えることができなかった。


 映画の後はゲームセンターに行って遊び、カフェに行ってお茶をした。


 しかし、どれもうまくいった気がしなかった。


 ゲームセンターに行ったのはいいものの、普段から訪れていない僕はおろおろするばかりで、羽根さんに引っ張られていただけだった。

 カフェに行っても、僕は緊張するばかりで、気の利いた話なんて一つも出来やしなかった。


 なんとか彼氏らしく振る舞おうとしたけれど。

 彼氏らしくできたことなんて一つもなかった。


 そして、別れ際。


 送っていった羽根さんの家の最寄り駅で、彼女はバイバイと手を振ってくれた。

 疲れたような、でもなんとかかわいらしく見せようという笑みで。


 「今日、楽しかった?」とは、聞けなかった。


 面倒くさい男と思われたくなかったから、やめた。

 そんな小さな恐怖に、僕は負けてしまった。


 だからなのだろうか。

 いや――だからこそ。


 お互いに本音で語り合うこともなく。


 不満を喧嘩してぶつけ合うこともなく。


 小さな気遣いが積み重なっていって。


 いつしか、「付き合う」ってなんなのかわからなくなって。


 上っ面だけのデートを繰り返して。


 だらだらと「恋人」を続けて。


 いつしかそれが「疲れ」になって。


 それでも僕らは、間違ったままで。


 そして。


「……ねえ、進くん」


「……うん」


「私たち、別れた方がいいと思うの」


「……そうかな」


「進くんだって、もう疲れちゃってるでしょ? 私たち、付き合って一年になるけどさ――恋人らしいこと、なにもしてこなかったじゃない」


「……そうかな」


「付き合ってる意味ないし……恋人ってなんなのかも、わかんなくなっちゃったし……もう、お互い距離を置いた方がいいと思うんだ」


「……うん」


「突然ごめんね……今まで、ありがと」



 彼女がもう、僕に冷めてしまっていることは、知っていた。


 だから僕が思ったのは、最後くらい本音で語ってくれればよかったのにという、悲しさだった。


 変な優しさなんていらないから。


 彼女の本心が聞きたかった。


 その一歩で、どこか解放されたような脱力感を僕は感じていた。


 彼女のことは好きだったけれど。

 恋人という関係には、やはり僕も疲れていたのかもしれない。


 ああ、そして。


 僕だって、彼女に本心を少しもさらそうとはしていなかったんだ。

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