恋に落ちた人ならば、一度は考えたことがないだろうか?


 想い人ともし付き合えたら、どんなことをしたいか、ということに。


 やはりデートには行きたい。映画館、水族館、お洒落なカフェでお茶をするのもいいし、公園に行って遊ぶのもいい。

 あとは手をつないだり、ハグしたり、キスしたり……変な話、想い人と触れあいたい。恋人であるということを形として感じたい。

 クリスマスや誕生日といったイベントを祝って、思い出を重ねていくのもいい。そして、時間が経った後で、その思い出話に花を咲かせたい。


 それに――。


 夢想し始めればキリがないが、想い人に求めるものとは、そういう恋人らしさではないだろうか。


 優樹にそのことを語ると、


『きも』


 と前置きした後、


『私は、そうは思わない――想わないけどな』


 と言った。


 秋に入って、優樹は雰囲気が変わった。一人称が俺から私に変わったし、野暮ったかったセミロングもかわいらしく纏められたサイドテールになって、途端に女の子らしくなった。

 口の悪さは変わらなかったけど。


 どういう心境の変化かはわからないが、ともかく優樹は女の子らしさを増し、雰囲気がかなり変わった。そのせいか、今まで圧倒的だった女子人気に加えて、男子人気が爆発的に増した。

 今では、羽根さんと一緒なわけでもないのに、お昼時は男子からの視線が痛い。食べづらいことこの上なかった。


 閑話休題。


『求めるとしたら、そりゃ居心地だね』


 どこかすっきりとした表情で、優樹は言った。


『ああ……まあ確かに進が言うみたいに、デートに行ったりキスしたり……そういった特別感は必要だと思う』


 でも、一番大切なのは、一番求めたいのはそんなものじゃないんだよ。


『なんか肩肘張ってないような……自然な居心地。恋人だからって変に気を使われたり、使ったり……そんな関係にはなりたくないからな』


 相手に気に入られるために頑張ったり。


 逆に嫌われないようにしたり。


 いちいち冷められてないかなんて気にしたり。


『そういうのは、嫌だな』


 僕は尋ねた。だったらどんな関係がいいと思うのか、と。

 すると優樹は、口に手をあてて少し考えると、くすりと微笑んだ。


『親友みたいな関係、かな』


 それ、付き合ってる意味なくないか?


『だからこそ、特別感が必要なんだろ?』


 それ、矛盾してない?


『さあ? ともかく、私はそう思うね』


 僕には難しいな……。


『まあ、進は進らしい理想を求めていけばいいさ』


 そうかな……。


『ま、とりあえず』




『おめでとう、進』 



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