9
恋に落ちた人ならば、一度は考えたことがないだろうか?
想い人ともし付き合えたら、どんなことをしたいか、ということに。
やはりデートには行きたい。映画館、水族館、お洒落なカフェでお茶をするのもいいし、公園に行って遊ぶのもいい。
あとは手をつないだり、ハグしたり、キスしたり……変な話、想い人と触れあいたい。恋人であるということを形として感じたい。
クリスマスや誕生日といったイベントを祝って、思い出を重ねていくのもいい。そして、時間が経った後で、その思い出話に花を咲かせたい。
それに――。
夢想し始めればキリがないが、想い人に求めるものとは、そういう恋人らしさではないだろうか。
優樹にそのことを語ると、
『きも』
と前置きした後、
『私は、そうは思わない――想わないけどな』
と言った。
秋に入って、優樹は雰囲気が変わった。一人称が俺から私に変わったし、野暮ったかったセミロングもかわいらしく纏められたサイドテールになって、途端に女の子らしくなった。
口の悪さは変わらなかったけど。
どういう心境の変化かはわからないが、ともかく優樹は女の子らしさを増し、雰囲気がかなり変わった。そのせいか、今まで圧倒的だった女子人気に加えて、男子人気が爆発的に増した。
今では、羽根さんと一緒なわけでもないのに、お昼時は男子からの視線が痛い。食べづらいことこの上なかった。
閑話休題。
『求めるとしたら、そりゃ居心地だね』
どこかすっきりとした表情で、優樹は言った。
『ああ……まあ確かに進が言うみたいに、デートに行ったりキスしたり……そういった特別感は必要だと思う』
でも、一番大切なのは、一番求めたいのはそんなものじゃないんだよ。
『なんか肩肘張ってないような……自然な居心地。恋人だからって変に気を使われたり、使ったり……そんな関係にはなりたくないからな』
相手に気に入られるために頑張ったり。
逆に嫌われないようにしたり。
いちいち冷められてないかなんて気にしたり。
『そういうのは、嫌だな』
僕は尋ねた。だったらどんな関係がいいと思うのか、と。
すると優樹は、口に手をあてて少し考えると、くすりと微笑んだ。
『親友みたいな関係、かな』
それ、付き合ってる意味なくないか?
『だからこそ、特別感が必要なんだろ?』
それ、矛盾してない?
『さあ? ともかく、私はそう思うね』
僕には難しいな……。
『まあ、進は進らしい理想を求めていけばいいさ』
そうかな……。
『ま、とりあえず』
『おめでとう、進』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます