進が、満面の笑みを浮かべてクラスに戻って来た。


「お、オッケーもらったのか……?」


「そう! そうなんだよ!」


「ほ、本当にか? お前のことだから、聞き間違いとか、夢だったとかじゃないのか?」


「何度も確認したし、頬も赤くなるくらいつねったよ! でも、聞き間違いでも夢でもなかったんだよ!」


 告白が成功したのかと勘違いしてしまうほど舞い上がる進を、俺は素直な喜びで見ることができなかった。


 それくらい動揺していたし。


 焦りを感じ始めていた。


「そ、そうなのか……」


 さすがにあんな提案を呑まれるとは、思っていなかった。ことのほか、羽根さんは楽しそうなことに首を突っ込む、お茶目な一面があったらしい。


 それはさすがに、想定外だった。


 予想を超え。


 常軌を逸していた。


 こんなことになるなら、軽はずみにも進に「してみればいい」なんて言うんじゃなかった……。


 俺はいまだ小躍りを続ける進に目を向ける。


 友達になって長いが、こいつは恋になんて一切興味を見せなかった。

 男が好きなのかと思っていた時期もあったほどだ。

 恋バナなんてついこの間までしたことがなかったし、(抜けてるところは多々あるが)女の前でテンパるなんてキャラでもなかった。


 でも、それもこれも全部、「だった」ということなのだろう。


 全ては過去形で。


 今は、現在進行形なのだ。


 進は恋に興味を持って。

 恋バナもするようになって。

 好きな人もできて。

 立派な恋愛をしているのだ。


 ……でも。


 でも。


「なんで……」


 ずっと一緒に、過ごしてきたのに。


「進のことがこんなにも、好きなのに……」


 を選んで、くれなかったの――。


 穂純優樹。


 


 恋に落ちて、一一年。

 いまだに想いは実らず。


 伝わってもいなかった。

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