4
『あはは……えっと、ごめんね』
何度もリフレインし、木霊し、繰り返される言葉。もはやゲシュタルト崩壊が起きそうなほど、その言葉は呪いのように僕の頭の中でぐるぐると回り続けていた。
「ははっ……ごめんね、か……」
「お前、マジで気持ち悪いぞ……それに鬱陶しいし、じめったいし。虫だな。振られ虫」
「振られ虫でいいよ、僕は……」
今朝、完全に自業自得だがものの見事に振られ、僕は一日中ショックに打ちひしがれていた。
それが長引いて今、夕食も食べずに自室に引きこもった僕はその悲しさを、ベッドの上に寝転がって味わい続けていた。
ちなみに、優樹は僕を心配して来てくれたようだったが、僕のあまりのじめったさに辟易している。
「ああ……僕の馬鹿野郎……重要なところで、どうしていつもしくじるんだ……!」
「お前、中学の文化祭でも台詞ミスって舞台台無しにしてたよな」
「ちょ、やめてよ! なんで傷ついてるやつのトラウマえぐるような真似するんだ――あああ! 蘇る悪夢!」
「泣いてたな、文化祭実行委員」
「今はそんな話どうでもいいんだよ! これは僕が羽根さん無残にも振られた話で――って、ああ! 新たに刻まれたトラウマがリフレイン……!」
「……馬鹿だな」
呆れてものも言えない様子だった。
「ったく……まあ、正直、お前が突然告白し出した時は驚いたけど……これでわかったろ? 羽根さんは高嶺の花すぎるし、進は今日のことで警戒されちゃったから無理だって」
「やっぱり、そうかな……」
僕は、正面に立ったときの羽根さんの戸惑った姿を思い出す。どう考えても、僕の印象はいいものではないだろう。
「はあ……なんであんなこと言っちゃったんだろ……」
後悔が胸の痛みとなって、僕をじりじりと責め立てる。その痛みを振り払うように身もだえるも、消えそうにない。
「心中お察しするが……まあ、元気出せよ。進は、その……いいやつだと思うからさ。きっと、他で彼女できるって」
「いやー、そんなわけないってー……」
そもそもの問題、僕はしばらく羽根さんのことを忘れられないような気がする。振られたばかりだからかもしれないが、想いを寄せていた期間があまりにも短かったため、諦めきれない気持ちがかなり強い。
自分の中に、羽根貴音という想い人が、いまだ強く根付いていた。
まだ、僕は……。
…………。
「ほんとに、もう無理なのかな……」
「え?」
「いや、その……これから、距離を縮めていくのは、本当に無理なのかなって……」
「それは……」
「もう、チャンスはないのかな……」
羽根さんの困り顔を思い出し、嘆息する。
どうしたって無理なのだろうか。
やはり、住む世界が違ったのだろうか。
分不相応にも。
恋なんてして。
「……なあ、進」
優樹の声に、僕は体を起こした。
「……どうしたの?」
「……俺は、その、人柄のいい進なら、いつか受け入れてもらえる時がくると思う。でも、それは茨の道だぞ? 印象がマイナスな状態からスタートして幸せな未来にたどり着けるとは、俺は……思えない、かな」
「そっか……」
優樹の言葉を胸にとめ、僕はもう一度考える。
このまま、彼女に想いを寄せ続けるべきか。
素直に諦めるべきか。
……。
――いや、アホらしい。
こんなことを考え続けても、なんにもならない。
初めから、不可能に近いことはわかっていたのに。
なにを今更。
悲しむことがあると言うのだろう。
「……うん、よし」
「どうした?」
「うだうだ考えるのは、やめる。僕のやりたいようにすることにするよ」
「……やりたいようにするってのは?」
「そりゃもちろん――」
「――昨日は、すいません」
「あ、うん。こっちこそ、ごめんね?」
翌日、朝のSHRの前。僕は羽根さんの教室に訪れて、彼女のもとへ向かっていた。
マイナスからでもいい。ただ、スタート地点に立ちたいがために。
「それで、なんですけど!」
「う、うん」
「昨日言った通り、僕、羽根さんのことが好きなんですが!」
「うん、ありがとう……?」
「それで、昨日振られたんですけど……僕、諦めきれなくてですね!」
「う、うん? そうなの?」
「はい! それで、羽根さんがよければなんですが……アタック的なものを、続けさせてほしいと思うのです! 迷惑でなければ!」
「うん……え、ええ!?」
「やっぱり、駄目ですかね!」
「ちょ、ちょっと待って! それ、私が許可出すの?」
「ぜひ、いただきたく!」
「で、でも……ええ? ちょっと未経験のことすぎて頭回らないんだけど……」
「ゆっくり考えてくださって、結構ですから!」
「……」
羽根さんは、目をまん丸にさせて固まったかと思うと、すぐに「あははは!」と笑い出した。
「ど、どうしました……?」
「いや、真霜くん、おもしろいね! そんなこと、好きな女子に正面切って言うことじゃないよ!」
「や、やっぱそうですよね」
「でもまあ、うん。いいよ」
羽根さんは、僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「まだ真霜くんのことはよく知らないから、お付き合いすることはできないけど、アタックしてくるのは……うん、上等だよ!」
「――かかってこい! ……なんてね♪」
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