「恋愛下手は高嶺の花と」(New、駄作になった)

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「これ、落としたよ?」


 夕暮れ時の学校。焼けるよなオレンジ色の夕日が照らす廊下に、その声は響いた。

 鼓膜まで一瞬で清められるような、美しい音。その音に引きつけられてと振り返ってみると、今度は目の水晶体まで清められるような感覚に陥った。

 なめらかな線を描く亜麻色のポニーテール。夕日に照らされてなお失われない肌の白色。スポーツをしているのかシュッと締まった健康的な肢体。くりっとした目に、琥珀色の瞳。……。


 僕は心を奪われた。

 奪われて、魅せられた。

 ときめく暇もなく、一瞬で。

 彼女の瞳の奥底に捕らわれ、また抜け出せないほどに。


「はい、どーぞ」


 落としたのは黒のボールペンだった。彼女は、溌剌とした笑みを見せながら、僕の手にそっとボールペンを握り込ませた。

 肌と肌が触れあう。

 温もりと柔らかさが伝わってきて、僕の胸の鼓動は、ドクンッ、と一気に加速する。


「じゃあね! 気をつけて!」


 上気する頬。オーバーヒートする頭。高鳴る鼓動。震える手。


 僕の人としての機能は完全に停止してしまって、頭の中に残るのは、彼女の笑顔と手の感触だけになってしまった。

 彼女が去っていった方向をただ呆然と見つめるばかりで、僕は「ありがとう」の一言も言えなかった。


 暮れなずむ街、夕暮れ時の学校。焼けるようなオレンジ色の夕日が照らす廊下で、僕は、今なら重力に逆らうことができそうなくらいの高揚感に見舞われていた。


 ああ、そうか。


 これが、人生初の恋にして、人生初の一目惚れになるのか。

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