14
雨の中、僕はビニール傘を差して、校庭の隅に一人で立っていた。
彼女が落下した無機質なコンクリートの上には、様々な献花、お供えものが並んでいた。そこに、彼女の痕跡はない。血の跡一つ、髪の毛の一本だって残っていない。
ただたくさんの人の彼女への思いが、形となって集まっているだけだ。
「たとえ死んでも、その人は人々の心の中で生きている、か……」
確かに、そう言えるかもしれない。
だが、僕は、
「そんなわけ、ないだろ……!」
怒った。久方ぶりに、怒った。板降たちにどんな仕打ちを受けても怒らなかった、この僕が。
怒りに、声を震わせた。
「死んでしまった人は、どうしたって死んでるんだよ……! 僕の心に残ってるのは僕が作り上げた君で、君そのものじゃない!」
僕は叫ぶ。
「君のおかげで、目が覚めたよ。やっぱり僕はあのとき、自死を選ぶべきじゃなかった!」
僕は叫ぶ。
「天国とか地獄とか、関係ないんだよ! 死んでしまえば、どのみち、この世界からいなくなってしまうのは変わらないから! 声を交わすことも、触れあうこともできなくなるから!」
僕は叫ぶ。
「だから、だからこそ! 死は訪れなきゃいけないものなんだ! 死は、選ぶものじゃない!」
僕は叫ぶ。
「残されたやつがどう思うと思ってるんだ! ああ、そうだったよ。君には、もうそれを考えることすらできないんだったね!」
僕は叫ぶ。
「自殺を選ぶのが、君の正解だったのか? それだけしか、方法はなかったのかよ! 馬鹿らしい、馬鹿らし過ぎる! 他でもない、君が言ったんじゃないか! 両親に相談できなくても、児童相談所とか! 警察だとか!」
僕は叫ぶ。
「なにより……僕がいただろ! なんだよ、幻滅するかと思ったって! するわけないだろ! 僕を一体、なんだと思ってたんだ! そんなに、心が狭い人間に見えたのか! そんなに、頼りない男に見えたのか!」
わかっている。僕は君がなぜその選択をできなかったのか、僕にはわかる。
それでも、僕は叫ぶ。
「僕に全てを丸投げして、一人で逃げやがって! 僕にどうしろって言うんだ! 僕は一体、どうすればいいんだ!」
それも、わかっている。僕がなにをするべきなのか。手遅になってしまったこの悲劇を、どう背負っていけばいいのか。
でも、
「君は強いよ……だって、こうして、死を選ぶことができたんだから。間違ってはいても、それは君が強い心を持っていた証左なんだよ……」
僕は、
僕は、
「君のように、強くはないんだよ……」
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