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まったくもって突然だけれど、
寒河江は僕のクラスメートで、この学校で五本の指に入る美人だが、同時に絶対に付き合いたくない女子ランキング一位の座を獲得もしている非常に希有な存在だ。
曰く、高嶺の花すぎて近づくことすら遠慮される。曰く、性格がきつすぎて仲良くなれそうにない。曰く、言葉の暴力でボコボコにされたことがあるので二度と近づきたくない。
およそそんな理由……美しすぎる、もしくは性格がきつすぎる、といったところから、彼女は多くの人から距離をとられている。
しかし、彼女はそんなことを気にしているそぶりは見せない。
そもそも、彼女は画家を目指していて、甘々な青春ストーリーに首を突っ込んでいる場合ではないという事情もあるらしい。僕は彼女の作品を見たことはないが、その実力はとても素晴らしいものだと聞いている。又聞きだが。
そんなこんなで、彼女は近づきがたく、また、近づきたくないクールビューティーな美人画家の卵という印象を、ほとんどの人が持っていると言っていい。
そして、ここからが重要なことだが、彼女はこの特異な存在であるがゆえに、スクールカーストにそもそも食い込んでいない。派閥に属していないことから低いともいえるし、トップにも真っ向から立ち向かえる性格であることから高いとも言える。そして、多くの人と繋がりがないことからも、彼女はスクールカーストと無縁と言うことができるのだ。
そのことを踏まえて、僕は今日、二つの驚きに見舞われていた。
一つは、寒河江がいじめに遭っていたこと。
放課後、徐々にエスカレートしてきている僕の制裁という名のいじめ(思い出したくもない)から解放された後、あまり人に見られたくない姿をしていた僕は、人気のないルートを通っていた。 そこで、見てしまったのだ。
寒河江は、女子のトップグループ、轟あやめ組に土下座をしていたのだ。ご丁寧に、その頭には轟の足が置かれていた。
絹のように滑らかだったロングの黒髪は砂で所々汚れており、精巧な人形のように透き通っていた白い肌は青ざめてむしろ不健康そうになっていた。その端正な顔は、地面に伏せられてしまっていて窺うことができない。
対して、轟はウェーブのかかった金髪のショートボブに、小さなハートがあしらわれたピアス。ネックレスやブレスレッドがギラリと光り、爪にはごてごてとしたネイルが施されていた。まさしく、女王といった様相だった。
使い古された、よくあるいじめの典型的パターンだが、実際にやられるとたまったものじゃない。かろうじて残っている自尊心をずたずたにされ、心を粉々に砕かれてしまう。
僕は物陰にこそっと隠れて、遠巻きにその様子を見ていた。距離があるので声は聞こえないが、そのいじめの程度を見ることくらいはできた。
颯爽と助けにいく、なんてヒロイックな真似ができるほど僕には勇気がないし、なによりこんな姿で彼女たちの前に出ても、火に油を注ぐ形で、僕も寒河江もよりいじめ倒されることは間違いなかった。
じっと黙って土下座を続ける寒河江に、愉悦の笑みを浮かべる轟。そして、寒河江に嘲笑を向ける数人の取り巻きたち。
僕は残念ながらミステリーの名探偵ではなかったので、話を聞かずして状況を把握することは不可能だったけれど、寒河江が轟たちにいじめられている、という事実だけは把握することができた。
そして、しばらく時間が経ち――
「見苦しいところを見せてしまったわね、中居向くん……」
「いえ、気にしてないですから……」
とある公園のベンチでお話をしていた。
驚きその二だった。
というか本当にどうしてだ。
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