日に日に、板降のいじめは悪質なものへと変わっていった。証拠が残らないようないじめ云々と高説をたれたが――今でもその考えは変わらないにしても――それも結果的には楽観的予測になってしまった。


 直接暴力を振るわれることはまだないが……服を汚されたり、文房具が全部壊されていたりと、いじめが、目に見えるような事態になってきていた。


 いつしか僕の背筋は前に傾き、視界に映るのは床の汚れだけになり、声はボソボソと小さいものになってしまっていた。


 僕は、見事、お手本のようないじめられっ子と化していた。


 誰にも相談することができず、隅でじっとして日々を暮らし、上に弄ばれる存在。


 それが、今の僕だ。


 将来のこと、明日のことを最後に考えたのがいつだったか、もう思い出せない。そんなことを考えてしまったら、かろうじて進もうとしている足が、止まってしまいそうになるから。


 明日はなにが待ってるんだろう――


 このまま過ごしていったら、僕の人生はどうなってしまうんだろう――


 足がすくみ、膝が震える。だから僕は思考をシャットアウトさせ、足を引きずるように歩を進める。


 目指すものなんてなにもない。


 生きる意味も、生きる楽しさも僕にはわからない。


 でも、死んだら全部終わってしまう。死してなお、自分の中に残せるものなどなにもない。


 板降たちへの復讐? 確かにできるかもしれない。でも、もがき苦しむ彼らの姿を僕は見ることはできない。きっと、その傍らで母さんは泣いて嘆いて悲しむことだろう。その姿さえも、僕は見届けることはできない。


 そして、板降たちに復讐した満足感も、母さんへの罪悪感も、死んでしまえば等しく感じることはできない。


 自死が生むのは、そんな誰も喜ばない結果だけだ。


 だから、死には逃げない。また、誰にも心配をかけさせやしない。僕は、逃げずに耐え抜いて見せる。


僕はその思いだけを胸に、毎日を生きていた。

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