第97話
「……さて、私の鬱憤が多少晴れたところで改めてお聞きします」
「アッハイ」
俺は裏路地で正座をさせられながらコクリと頷く。
流石に人前でボコるという行為はレムレスもダメだと思ったのか、こうして裏路地に連れて来られていたのだ。
死んだ回数は二桁から先は数えていない。
裏路地のあちこちがボッコボコにへこんでいる事から察してほしい。
「何故王都にいらしたのですか? アルケディアでずっと待っていたんですよ?」
「人員の方は大丈夫なのか?」
「大量に奴隷を買いこみましたからね。働きさえすれば賃金と自由が約束されると聞かされた彼らは、現在も喜んで働いているはずです」
まあ、奴隷と言えば大抵がハードすぎる労働だからな。
しかも賃金無しで自由も無い。
それに比べれば、多少仕事がハードだとしても賃金が出て自由もあると聞かされればやる気も出ようというものだ。
「それで、私達なりに体制を整えて整備していたのですが、マスター達の帰りがあまりに遅いために、様子を見に来たというわけです」
「なんで俺達が王都に居るって分かったんだ?」
「女の勘です」
俺の問いに対し、レムレスが食い気味にそう答える。
居場所まで当てるとか女の勘すげぇな。
「さぁ、私は答えましたから次はマスターの番です」
レムレスに促され、俺はこれまでの経緯を話し、今現在はディオン達を待っている、という所まで説明する。
「……なるほど、そのシグマリオンという方を引き取る為に」
「そういう訳で、すれ違いになるのも面倒だしどうしようかって悩んでたんだよ」
「それでしたら、マスターだけここに残っていてください。私が、ウロボロス様達をアルケディアに連れて行きますので」
「いいのか?」
「それくらい構いませんよ。タイ〇ニック号に乗った気持ちでいてください」
沈むじゃねーか。
つーか、そういう地球ネタやめろって。ほら、ウロボロス達が頭にハテナマーク浮かべてんじゃねーか。
「まぁ、ウロボロス達がいいなら俺は構わないけど……」
「私は別にいいわよ~? そろそろ馬車飽きちゃったし」
「ムクロ兄様と離れるのは寂しいけど……アルケディアがどうなってるかも見たいから戻るね」
ウロボロスやアウラは特に問題がないと答え、ジェミニも大丈夫だと答える。
「私はご主人様と一緒に居たいわぁ」
「却下です」
舌なめずりをしながらこちらを見てくるウェルミスだったが、レムレスにぴしゃりと否定されてしまう。
「それでは、ウロボロス様達をお送りしましたら戻ってまいります」
「あ、それだったら戻ってくる時にアグナと……師匠も連れて来てもらえるかな?」
「……分かりました。それでは、失礼いたします」
俺の言葉に、レムレスは特に理由を聞かずペコリと頭を下げる。
こういう時、レムレスは俺の意図を察してくれるから助かる。
これから魔大陸に行くには、なるべく戦闘力に特化した奴が欲しいからな。
ウロボロスは一応七罪の王で強いには強いが、性格があまり戦闘向きではない。
アグナは、七分の一とはいえ邪神であるから居てくれるとかなり助かる。
師匠については……もはや説明するまでもないだろう。
シグマリオンを引き取ったらどうせアルケディアに戻るし、その時に師匠達を連れて行くのも考えたが、これ以上ディオン達が戻ってこないようならこのまま預けて魔大陸に向かう事も視野に入れないとだしな。
俺は、そんな事を考えながら、ウロボロス達を乗せた馬車を見送るのだった。
◆
「お兄ちゃーん!」
それから三日後。
相も変わらずギルドに付属しているカフェテリアでまったりしていると、聞き覚えのある声と共に何かが抱き着いて来る。
「アグナ、久しぶりだな。元気だったか?」
俺は、抱き着いて来た人物……アグナの頭を撫でながら尋ねる。
「うん! ちょー元気だったよ!」
「ちょー元気だったか。そいつは重畳」
「でも……お兄ちゃんと会えなくて、ちょっとだけ寂しかったかな」
「ごめんな? これからは、また一緒だから安心していいから」
「うん!」
俺が頭を撫でたままそう言うと、アグナは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
うむ、やはりアグナは可愛いな!
別にこれは俺がロリコンとかじゃなくて、単純に家族として……妹として可愛いと言っているだけなので、決して犯罪的なアレではない。
「よぉ、馬鹿弟子。元気してたか?」
「師匠。師匠は、相変わらず元気そうで」
俺がアグナとじゃれていると、真紅の甲冑に身を包んだ師匠が話しかけてくる。
「全然元気じゃないぞ。ここ最近国造りとやら暴れ足りないからな。ストレスが溜まって仕方ない。だから、お前に呼ばれてホッとしておるぞ」
師匠は、肩をコキコキ鳴らしながら相変わらずな発言をする。
「内政関係は、ワシは専門外じゃからな。それらはウロボロスに任せてきたわ」
まぁ、そこら辺の事は七罪の王の中でもウロボロスが一番適任だろうなぁ。
しかも、あの母性だから反発しようって気にもならないし。
「それじゃ……早速話を聞こうか?」
俺の向かいにドカッと座って、師匠はそう言う。俺は、レムレスにもした話を師匠にもする。
「……なるほど、タマモは魔大陸に居ったのか。どうりで、こっちで探しても見つからないはずじゃ」
「行き先は魔大陸ですからね。師匠は外せないと思いまして」
魔大陸は、魔族の巣窟でモンスターの強さも半端ではない。
負けるとは思わないが、出来るだけ俺の負担を減らしたいというのが本音である。
「うむうむ、良い判断じゃ! 流石はワシの弟子じゃのう。ワシの事をよく分かっておるわ」
俺の言葉に気を良くした師匠は、腕を組んでウンウンと満足そうに頷く。
……いや、弟子じゃなくても師匠の行動理念はかなり分かりやすいから、少しでも関わった人ならすぐに分かると思う。
「何か言うたか?」
「いーえ、何にも?」
師匠の言葉に、俺はニッコリと笑って返す。
「……まぁ良い。それで? ディオン達が戻ってこないという話じゃったが、ギルドには問い合わせたのか?」
「いえ、それが他人の依頼情報は教えられないという事で、ここで待つしか選択肢が無かったんです」
「あー、そういえばそんな面倒な決まりごとがあったのう。……よし、それじゃ少しここで待っておれ」
師匠はそう言って立ち上がると、カウンターの方へと向かう。
「カーミラさん、何をする気なんでしょうか?」
「さぁ?」
俺達がカフェテリアで傍観していると、何やら偉そうな恰好をした中年の男が慌てて出てきて、師匠にしきりに頭を下げている。
その後、一言二言話したかと思うと、師匠は満足げな顔で戻ってくる。
「喜べムクロ。ディオン達の居場所が分かったぞ。奴らはここから東に向かった先の街に居るらしい」
「どうしてわかったんですか? ていうか、さっきの人は?」
「さっきの奴は、ここのギルドマスターじゃ。昔……ちょっとばかし色々あってのう」
その色々が何か凄く気になるところだが、聞いたところで後悔する気配しかしないので賢明な俺は聞かないことにする。
こうして師匠のお蔭でディオン達の居場所が分かった俺達は東へと向かうのだった。
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