第91話

「君の事はボスから聞いてたからね。これくらいの対策はさせてもらおうよ。ねぇ、ジェミニ?」

「そうだね。君は不死に加えて、対象を即死させる手段も持っているからね。封じさせてもらうよ。ねぇ、ジェミニ?」


 双子どもは、剣と盾を構えながらそんな事を言い放つ。

 くそ、タマモめ……余計な事教えやがって。

 不死殺しと闇属性の魔法を封じるとか、俺を確実に殺しにかかってきてやがる。

 盾はともかく、剣の方は本気でマズい。

 俺の場合、ストックタイプの不死で死ぬと、ストックしてある命を消費して復活する。

 しかし、不死殺しで殺された場合……いくらストックがあっても問答無用で全て無くなり一発昇天だ。

 そして俺は脳天の宝玉を壊されたらアウトという紙装甲。

 とりあえず、剣だけでもなんとかしなきゃなぁ……。


万物貫く漆黒の矢ディザスト・アロー


 一先ず、俺は剣を持ってる方のジェミニに向かって闇の矢を放つ。

 

「無駄だよ」


 しかし、闇の矢は再び何かに阻まれるかのようにぶつかり消え失せる。

 

「ふむ……」


 俺は、それでもめげずに何度も万物貫く漆黒の矢ディザスト・アローを様々な方向から放つ。


「ははは、無駄無駄。僕の盾は、全方位に結界が張られているからね。死角なんてないよ。ねぇ、ジェミニ」

「そうだね。しかも、君がこの結界の中に入れば、たちどころに昇天さ」


 つまり、闇属性というのはアンデッドとか闇関係もアウトという事か。

 奴らの間合いに入って、強烈なのをぶっ放そうとも思ったがそれも不可能らしい。

 とりあえず、奴の結界の範囲は分かったから、それに近づかないように気を付けなければ。


「ムクロ、どけ!」

「ばよえーん!?」


 俺がどうしたもんか考えていると、リュウホウの叫び声と共に衝撃が俺を襲う。

 衝撃はすさまじく、俺は一度死んで復活する。


「おい、リュウホウ。何すんだよ」

「だからどけと言っただろう。我がどけと言ったら、すぐにどくのが自然の摂理だ」


 うるせーよ。あんな急に言われて、師匠ならともかく俺が動けるわけねーだろうが。

 俺はバリバリの後衛職なんだぞ。


「リュウウウウホウウウウウ!」

「うっは、なんだあれ」


 俺が心の中で抗議していると、何やら化物チックな奴が向こうで叫んでいる。

 体長は、三メートル程で筋肉が不自然に盛り上がっていて、血管もぶちきれるんじゃないかと思う程浮かび上がっている。

 はっきり言ってグロキモかった。


「……あれは、リンドブルムだ」

「まじ? なんで、あんなんなってんの?」


 俺が尋ねると、リュウホウはリンドブルムだった物が持っている斧に目を向ける。

 最初見た時は普通の両刃斧だったそれは、今やリンドブルムと一体化しまるで生物のように鼓動していた。


「アレとリンドブルムが一体化してから、奴の体があんな風になったのだ」


 なるほど、呪い系の魔導具か。

 そういう物は、使用者に絶大な能力を与えるが、えげつないデメリットがある。

 リンドブルムのは……さしずめ、武器に精神をのっとられるとかそんなところだろう。

 実際、奴の目は虚ろで焦点があっていない。

 おそらくは、リュウホウを倒したいというリンドブルムの恨みだけで行動している。


「……なるほど、不死殺しか」


 リュウホウは、ちらりと双子の方を見れば呟いた。


「知ってんのか?」

「一応は、な。……で、どうするのだ? 貴様が泣いて懇願するなら、相手を交換してもいいのだぞ?」


 リュウホウは、こちらを見ながら超絶上から目線でそう言い放つ。


「そんな事言ってるけど、お前……単純にリンドブルムの相手したくないだけだろ」

「そんな事無いぞ? あくまで、私の慈悲だ。不死殺し相手では、貴様はあまりにも不利すぎるからな」


 リュウホウはそう言うが、奴の目は明らかに泳いでいる。

 ……まぁ、気持ちは分からんでもないが。


「ガアアアアアア!」


 会話している間も、リンドブルムは無茶苦茶に暴れ回っている。その様子は、完全にバーサーカーで、出来れば俺も相手したくないタイプだ。

 師匠を思い出すし。


「まあ、それも正直考えたが……多分、あいつらはリュウホウに代わったら代わったで、お前用の武器を用意するだろうよ」


 竜殺しとかな。

 むしろ、不死殺しよりも武器の種類が豊富なのでより性質が悪いだろう。

 豊富な理由は、単純に不死種よりも竜種のモンスターの方が多いから、自然と増えたに過ぎない。

 だったら、相手は変えない方がいいだろう。


「だから、お前は素直にリンドブルムを相手しててくれ。ぶっちゃけ、俺は奴と戦いたくない。それで、ちょっと頼みたい事が……」

「……ふん、後からやっぱりこっちがいいと言ってもダメだからな」


 リュウホウは、俺の提案を聞いた後、そう吐き捨てると暴れ回っているリンドブルムの方へと向かう。

 まあ、奴なら何とかなるだろう。


「お話は終わった?」

「結局、僕達の相手は君でいいのかな?」


 俺とリュウホウの会話が終わった頃を見計らって、双子達が話しかけてくる。 

 黙って見てたのは、俺達を舐めているからだろう。

 自分達の方が強者だと信じてるからこその余裕である。


「ああ、待ってくれてありがとうよ。お前らの相手は俺で大丈夫だ」

「そう? 素直に代わってもらえば良かったのに。ねぇ、ジェミニ?」 

「そうだね。僕達の装備には、君じゃ勝てないからね。ねぇ、ジェミニ?」


 双子はそんな事を言うと、こちらを見ながら小ばかにしたように笑う。


「いやいや、分からんぞ? 俺は伊達に七罪の王じゃないぞ。お前達の知らない攻撃とかするかもしれないじゃん」

「あはは、無理無理! 君が闇属性の魔法しか使えないのは知ってるんだから!」

「そうそう! だから、君が僕達に攻撃することは不可能なんだよ。そして、こっちに不死殺しがある以上、僕達の勝ちは揺るがないよ」


 双子は、俺の言葉を一蹴するとケラケラと笑い続ける。

 ……確かに、俺は闇属性の魔法しか使えないので奴らに直接攻撃する事は出来ないだろう。

 だが……何も直接攻撃するだけが魔法じゃない。


「……そろそろかな」

「何が? 死ぬ覚悟がそろそろ出来たって事?」

「だったら、苦しませずに一撃で殺してあああああ!?」


 双子のセリフは最後まで発せられることは無く、悲鳴に変わる。

 それもそのはず、先程まで彼らが立っていた地面が急に崩れ出したのだから。


「い、一体何が……」

「わ、分からないよ……」

「よぉ、いいザマだな」


 俺は、大穴に落ちた双子を見下ろしながら声を掛ける。


「……もしかして、君の仕業?」

「……一体、何をやったの?」

「何って、普通に魔法を使っただけさ」

「馬鹿な! 僕の盾は、闇魔法を防ぐんだぞ!」


 俺が正直に答えてやると、双子の片割れは信じられないといった感じで叫ぶ。

 確かに、奴らの盾は強力だ。

 だが、それはあくまで魔法に対してであって物理的なものには意味が無い。

 それを踏まえて俺が行った事は至極簡単だ。

 虚無なる寙ブラック・ホールを奴らの真下に発生させ、土を吸い込んで空洞にしたのだ。

 本来、土があるはずの場所に土が無くなった事で内側からどんどん崩れて良き、奴らの立っている場所が脆くなり支えきれなくなって落ちたという訳だ。

 虚無なる寙ブラック・ホールは、はるか下に発生させたので結界の範囲外。

 しかも、穴自体は魔法じゃないので結界にも引っかからない。

 方法が方法だけに時間が掛かるのだけがネックだったのだが、奴らが余裕ぶっこいて俺とリュウホウのやり取りを傍観してたのが敗因である。


「だ、だけど、いくら穴に落としたところで僕達にダメージはほとんどない!」

「そうだよ。僕達に掛かれば、こんな穴くらいすぐに這い出て……」

「悠長にそれを俺が待ってると思う?」

「なに……?」

「一体、何を……」


 俺の言葉に、双子は訝し気な表情をする。

 折角落とし穴に嵌めたのに、わざわざそこから這い出るのを待つほど俺は気が長くない。


「リュウホウ! リンドブルムをここに投げ込め!」

「まったく……貴様は無茶振りを……おおおおおおおお!」


 リュウホウは、血管が破けそうな程の咆哮を上げながらリンドブルムをぶん回すと、そのまま俺のつくった大穴へと放り込む。


「ガア……アアアアア!」


 暴れるリンドブルムだったが、それでも純粋な力ではリュウホウの方が上で大穴に投げ込まれると双子達の上へと落ちていく。


「ばっ……!」

「なっ……!」


 双子達は、目の前の状況に驚き対処が遅れるとそのままリンドブルムの巨体に押しつぶされるのだった。

 

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