第83話

「今、リュウホウ様を呼んでくるからここで待っていろ」

「断る!」

「いや、待ってろよ! いいか? 絶対待ってろよ? 動くなよ?」


 それはフリかな? そんな事言われたら動き回りたくなっちゃうじゃないか。

 まぁ、本当に動き回ったら余計なトラブルが起こりそうだから大人しくしておくが。

 

「いいか? 本当にそこで大人しくしてろよ?」


 龍華族の男は、最後にダメ押しでフラグを立てていくと奥へと入っていく。

 俺達は今、龍華族の一番デカイ建物に通されている。

 建物も中華的で、カンフー映画が好きだった俺は映画の中に入り込んだようで少しだけワクワクする。

 アウラも、初めて見る建物を興味深そうにキョロキョロと見回していた。


「そう、オレだ!」


 俺達が縛られながらしばらく待機していると、奥の扉が勢いよく開け放たれ一人の男が現れる。

 袖なしの拳法着? みたいなのを着ており、服には金色の龍があしらわれていて金を掛けた感がバリバリ出ていて正直趣味が悪い。

 肝心の男の方は、赤い髪を逆立てており、こめかみのあたりに二本の龍の角が生えている。

 俺には劣るがイケメンの部類に入り、傲岸不遜というか自身に満ち溢れた表情を浮かべている。

 ……うん、まったく変わってねーな、あいつ。


「我と書いてオレと読め! そう、我が……我こそが龍華族の長で傲慢の王ロード・オブ・プライドのリュウホウだ!」


 赤毛の龍華族……リュウホウは、聞いてもいないのにペラペラと自己紹介をする。

 相変わらずうぜぇ。


「我の友を名乗る者が居るから誰かと思えば、そこの貧弱な骨と豊満おっぱいはまさしく我の友のムクロとウロボロスではないか」


 貧弱な骨って言うなや、これでも気にしてるんだぞ。


「うふふ、久しぶりねぇ。リュウホウちゃん。変わってないようで安心したわぁ」


 しかし、豊満おっぱいなんていうセクハラ真っ盛りな言葉にもウロボロスは慈母の如き笑みを浮かべる。

 ……女神かな?


「ふん、ウロボロスも相変わらず美しいではないか。我の嫁になる事を許すぞ!」

「ふふふ、考えておくわねぇ」


 リュウホウの身勝手なセリフにも、ウロボロスは笑みを浮かべながら軽く受け流す。

 ……そう、リュウホウは美人を見ればとりあえず求婚するのだ。

 王である自分にふさわしいから、嫁にしてやってもいいぞって感じでな。

 当然、師匠にも求婚したことがあるのだが憤怒の王である師匠は傲慢の王であるリュウホウと滅茶苦茶に相性が悪い。

 過去に、それで地形が変わるほどの大喧嘩をしたこともあるくらいだ。

 あの悲劇は、もう二度と繰り返してはいけないので師匠には別行動を取ってもらったという訳だ。

 ちなみに、その場所ではぺんぺん草の一本も生えないくらいの不毛な大地と化している。

 

「それで、貴様は相変わらず骨だな」

「意味分かんねーよ」


 そして男にはこの態度である。

 ……俺があまり会いたくない理由が少しでも分かって貰えただろうか。

 こいつは、ウザいのだ。それも尋常じゃないくらいに。

 ウザいけど、七罪の一人だけあって強いのがまた性質が悪い。


「それで? そこの幽霊少女は何者だ? 我の友に居なかった気がするが」

「ああ、この子はアウラ。……ちょっと事情があって一緒に行動してるんだ」

「よ、よろしくお願いします」


 俺が紹介すると、アウラはおずおずと頭を下げる。

 どうやら、先程までのリュウホウの態度に気圧されているようだった。


「ふむ……見た目は及第点だが、流石に幼すぎるな。もう少し年齢を重ねたら、我のもとに嫁ぐことを許そう」


 いや、結構年取ってるんだけどね。幽霊だから見た目が変わらないだけで。

 ……なんてことは、リュウホウに教えてやらない。絶対に面倒な事になるから。


「え……っと」

「ああ、その馬鹿の言葉は聞き流しといていいよ。いちいち真に受けてると疲れるから」

「う、うん」


 困ったようにこちらを見るアウラに、俺はそう言う。

 実際、リュウホウの言葉は聞き流すのが一番だしな。

 師匠はそれが出来ずに喧嘩になってしまうが。


「それで? 何故、貴様らは縄で縛られているのだ?」

「いや、お前んとこの奴らに縛られたんだよ。ドラゴ族の手先だろうつってな。なぁ、一体何があったんだ?」


 俺の言葉に、リュウホウは神妙な顔つきになると顎に手を添える。


「うむ、それなんだがな……実は」

「リュウホウ様! ドラゴ族がまた攻めて来ました!」


 リュウホウが口を開こうとした時、外から男が慌てた様子でそう告げる。

 

「ええい、我が折角旧友と話している時に無粋な連中め」


 男の言葉を聞いたリュウホウは、あからさまに不機嫌そうな顔になると盛大に舌打ちをする。


「ムクロ、手伝え!」

「そんな急に言われてもなぁ……ほら、縛られてるし?」


 俺は今、捕虜というかまぁそんな感じなので迂闊に動くわけにもいかない。

 いやー、残念だなぁ。出来れば手伝ってあげたいんだけどなぁー!

 縛られてるから無理だわー。っかー! 本当に残念だ。


「おい、そこの貧弱スケルトンの縄をほどけ」

「し、しかし……」

「我が命令してるのだ。ほどけ」


 渋る部下に向かってリュウホウがジロリと睨めば、男は慌てながら俺の縄をほどく。

 ……くそ、ほどかなくても良かったのに。これじゃ、サボる理由が無くなってしまうではないか。


「うむ、それで動けるな?」

「……はい」

「私はどうすればいいのかしら?」

「ウロボロスは、ここで大人しくていろ。女を働かせるなど我の沽券に関わるからな」

「ふふ、了解」


 同じく縄を解いてもらったウロボロスは、そう言って笑みを浮かべる。


「それでは行くぞ、ムクロ」

「それはいいけど、いい加減事情を説明してくれないか?」

「これが終わったらいくらでも説明してやる。まずは、ドラゴ族を一掃する必要がある」


 リュウホウは、臣下から剣を受け取りながらそう言う。

 色々気になる事はあるが、ドラゴ族を何とかしないと聞けそうにない。

 まったく、少しは空気を読んでほしいものだ。



「……なあ、リュウホウ」

「なんだ?」


 外に出た俺は、目の前の光景を見ながらリュウホウに尋ねる。


「あいつら、なんだか魔法武器を持ってるように見えるんだけど」

「そうだな」


 そうだなってお前……。

 目の前の西洋の鎧を身にまとったドラゴ族らしき奴らは、全員武器を装備していた。

 ロングソード、ロングスピア、弓矢にハルバードと武器自体は様々だが、そのどれもがそれなりに強力な魔力を帯びていた。

 そして武器を振るう度に炎や氷、雷などが発せられている。

 それに加えて、奴らが装備している鎧からも魔力を感じた。おそらくは、魔法や物理ダメージ軽減の効果が付与されているのだろう。

 攻めてきているドラゴ族は、全部で三十人程。

 それだけの数の魔法武器や魔法防具を用意するのは並大抵の労力では無い。


「奴ら、どこで仕入れたのかあのように魔法装備に身を固めていてな。いくら、最強の我とてあれだけの数は少々骨が折れる。しかも、奴らは一度倒してもすぐに復活してまた攻めてくるというわけだ。だから、ムクロ」

「はいはい、手伝えっていうんでしょ。分かったよ」


 俺は、もはや内心諦めながら投げやりに答える。

 

「それでこそ我の友だ。貴様を信じていたぞ」


 リュウホウはそう言うと、満足そうに笑う。

 ……そんな事言うのはズルいだろう。


「そんじゃまぁ……久しぶりの共闘といきますかね」


 俺は溜め息をつきながらも迫りくるドラゴ族にリュウホウと共に向かうのだった。

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