第78話
「うおぉ……めっちゃ眠い……」
「耐えなきゃダメよ、ムクロちゃん。もう一度寝ちゃったら、多分起きれなくなっちゃうわよぉ」
イニャスの住んでた村に突入した俺達は、ウロボロスの結界のお蔭で辛うじて寝ずに済んでいる。
結界を張っているにもかかわらず、めちゃくちゃ眠い。
それだけでなく、気を張って無ければ途端に無気力になってしまいそうだった。
「むいー……ちょっと眠い、かも」
「わ、私も……です」
アウラとイニャスは、そう言って眠そうに目をこするが、俺よりも平気そうに見える。
「ウロボロスもそうだけど……お前ら、何でそんな平気そうなんだよ。俺なんか、気を抜いたらすぐに寝ちゃいそうだってのに……」
効果に個人差があると仮定しても、俺ばかりがこんなに辛いのはおかしい。
「多分なんだけど……性格的に怠け者の方が効きやすいんじゃないかしらぁ」
「……それは、俺が怠け者だって事か?」
こんなに頑張っているのに失礼な事を言うウロボロスである。
まったく……あんまり失礼な事言うとその豊満な胸を揉むぞ、この野郎。
もっとも、ウロボロスなら困ったような顔をしつつも受け入れそうだからやらないが。
受け入れられてしまったら、それこそドツボに入ってしまう。
それに、レムレスに知られた時にどうなるか分かったもんじゃないしな。
「まあ、ムクロちゃんは怠惰を司ってるくらいだしねぇ……」
俺がそんな事を考えている間にも、彼女はフォローせずにトドメを刺してくる。
「ム、ムクロ兄様は怠け者じゃないよ! だって、私を頑張って助けてくれたんだもん」
「わ、私だってアウラちゃんと……お、同じですぅ。こうして、て、手を貸してくれるわけですし」
ウロボロスの言葉に俺が軽くへこんでいると、アウラとイニャスがフォローしてくれる。
うう……優しさが身に沁みるぜ。
嬉しすぎてこのまま寝ちゃい……そう……だ。
「ムクロちゃん。寝ちゃダメよ?」
俺がウトウトし始めると、ウロボロスが尻尾ビンタをかましてくる。
思ったより強い力ではたいたのか、首が思わず取れてしまった。
「ひっ!?」
俺の首があっさり取れたのを見て、イニャスは思わず後ずさる。
「おっと、いかんいかん。助かったよ、ウロボロス」
尻尾ビンタの衝撃で目が覚めた俺は、落ちた頭を拾い上げてポジションを調整しながら元の位置に収める。
「しっかし……黒幕ってのは、どこに居るんだ? 周りを見ても寝てるエルフしか見当たらんぞ」
俺は改めてキョロキョロと周りを見渡す。
村は、どこにでもあるような集落といった感じだった。違う所と言えば、あちこちで倒れている奴らの耳が例外なく尖っている事くらいか。
まあ、エルフの集落なのだから当然と言えば当然か。
「も、もう……ど、どこかに行っちゃったんですかね……」
「うーん、それは無いと思うわよぉ?」
イニャスの言葉にウロボロスが答える。
「この手の魔法は、術者を中心に展開されるタイプだからもし、そいつが離れたらこの呪いも解けるはずよぉ」
「そうなると、やっぱこの村のどこかに隠れてるって事か……」
とはいえ、まるで見当がつかない。
初めて来る土地というのもあるが、異常な眠気と襲い掛かる倦怠感にまともな思考が出来ないのだ。
表にこそ出してないが、多分皆も似たような物だろう。
単純な戦力で言えば、大抵の奴には負けない自信があるが……こういう搦め手で来られると少々キツい。
「イニャス……なんか心当たりは無いか? どこに隠れてそう、とか」
「こ、心当たり……ですかぁ?」
俺の質問に対し、イニャスは頬に手を当てながらウーンと悩む。
「そうねぇ、例えば……魔力が集まる場所、とかがあれば多分そこかしらねぇ。こういう魔法を持続的に使うには、そういった場所がぴったりだし」
「あ、そ、それだったら……多分、あ、あそこです」
ウロボロスの言葉を聞いて、何かに思い当ったのかイニャスはとある方向を指差す。
「わー、おっきいー」
イニャスの指差した方向を見ると、アウラは感嘆の声を漏らす。
俺も同じようにそちらを見れば、アウラが感心した理由も分かるというもの。
先程までは近くを見るので精一杯だったので気づかなかったが、目の前には上まで見上げるような巨大な大樹があった。
「あ、あれは……神樹って言って……わ、私達のま、守り神みたいなものですぅ。あ、あそこは中にほ、祠があって魔力がじゅ、充満してるんですぅ……」
「なるほど。私も噂には聞いてたけど、あれが神樹なのね。……うん、確かに居るとしたらあそこでしょうねぇ」
と、ウロボロスは納得したようにウンウンと頷く。
「なら、さっさと行こうぜ。俺……今にも寝そうで本格的にやばい」
「そうね。私の結界もそんなに長く保つわけじゃないし、急ぎましょうか」
ウロボロスの言葉に全員が頷くと、俺達は神樹に向かって急ぐのだった。
◆
眠気を堪え、俺達は何とか神樹の根元までやってきた。
「はー、近くで見るとホント、でっけーな」
どんくらいの高さがあるんだろうな。
イニャスに聞いても、高さは分からなかったが樹齢は数千年らしい。
それを聞いたら、そりゃこんなに大きくもなるわなと、俺は納得した。
「ほ、祠の入口はこ、こっちですぅ」
俺が神樹に感心してると、イニャスが指を差す。
イニャスの案内に従って進めば、そこには木製の大きな両開きの扉が備え付けられていた。
「あ、あれ……?」
「どうしたの? イニャスお姉ちゃん」
首を傾げるイニャスに対し、アウラが不思議そうに尋ねる。
「あ、あのね……いつもは、ここに鍵が掛かってるんだけど……」
と、イニャスは言うが扉には錠前も何もなく少しだけ開いていた。
「こりゃあ……」
「当たりかもねぇ」
俺の言葉に続いて、ウロボロスがそう言う。
そんじゃ……入ってみますかね。
ていうか、まじでさっさとケリつけないとホントに不味い。
俺は、今にも寝そうなのを堪えながら扉を開ける。
中は予想よりも広く、暖かな空気が流れ込んでくる。
……そして、目の前にはスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている獏が居た。
普通の獏なら、まぁ和まなくもないが……目の前の獏は……めちゃくちゃデカかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます