第75話
「で?」
「えーとですね、何と言いますか……つまり、九尾の男がどこに行ったかまでは分からないんですよ……」
偽ウロボロスは、正座をしながら申し訳なさそうにそう言う。
甦らせた後、あれだけ大口を叩いておいてディオンにあっさりやられたのがすっかり堪えたのか、すっかりしおらしくなっている。
「そもそも、どういう経緯でタマモちゃんと出会ったの~?」
「どういう経緯……というかなんというか、ですね。大体、察しはついていると思いますが、私は元々普通のオークだったんです。本名はシグマリオンって言います」
随分カッコいい名前だな、おい。
「それで、モンスターとしての本能に従って生活してたんですが、ある日ふらりとどこからか九尾の男が現れてこう言ったんです。『力が欲しくないか?』と」
「力?」
「ええ。私も最初は不思議に思ったんですが、まあ、今よりももっと楽な生活が送れると聞いたんで、頷いたんです。そこからは、貴方達も知っている通り私は魔人となって、『悪食』の特性を手に入れ……」
暴食を名乗ったって訳か。
……しかし、経緯は分かったが相変わらずタマモの行動理由が分からんな。
「奴が、次にどこに行くとかそういう話はしてなかったか?」
「いえ、そういう話は特に……あ」
シグマリオンは、何かを思い出したのか短く声を上げる。
「どうした?」
「いえね、確証はないんですが独り言を喋ってたんですよ。次は、あいつの所だなって」
「あいつ? 確かにそう言ってたんだな?」
俺がそう尋ねると、シグマリオンはこくりと頷く。
「あいつ……ねぇ」
「ムクロ君は、何か心当たりがあるのかい?」
俺が顎に手を添えて考え込んでいると、ディオンが話しかけてくる。
「いんや……今は思いつかないな。ウロボロスは、何かあるか?」
「えっとねー、私の予想で良い?」
どうやら、ウロボロスは心当たりがあるようだった。
今はタマモの手がかりが無いから、予想も出良いから欲しいところである。
「多分なんだけど……リュウホウちゃんの所じゃないかなって」
「リュウホウの所?」
「うん。今の場所から考えて、タマモちゃんがあいつって呼ぶ人物で尚且つ居場所がはっきりしているってなると、リュウホウちゃんくらいかなって」
ウロボロスの言葉に、俺はなるほどと納得する。
確かに、方向的にはリュウホウの所に向かったって考えるのが妥当だな。
タマモとリュウホウは、それなりに仲が良かったし。
「じゃあ、急げばタマモに会えるかもって事だな」
「それは難しいかも。ほら、そこのシグマリオンちゃんが魔人になった時期を考えると」
あー、そうか。
タマモがどうやって移動しているか分からないが、既にリュウホウの所を旅立っている可能性がある。
……だが、少なくともリュウホウを訪れているだろうから、このまま奴の所へ行ってタマモの場所を聞きだすのも良いだろう。
元々、そのつもりだったしな。
「あのー、結局私の情報は役に立ったんでしょうか?」
「ああ、役に立ったぞ。サンキューな」
俺が礼を言うと、シグマリオンはホッと胸をなでおろす。
「よし、聞きたい事も聞いたし……さっさと移動するか」
「こいつの処遇はどうするんだい?」
俺達が村に戻ろうとすると、ディオンがシグマリオンを見ながら話しかけてくる。
「あー……」
タマモの事に気を取られて忘れてたが、そうだよな。
こいつの処遇を決めないといけなかった。
一応、悪事を働く素振りは見せないが……だからといって無罪放免というわけにもいかない。
仮にも人を喰っちまってるわけだしな。
「お前はどうしたい? もっかい死ぬか?」
「そんな! 折角蘇ったのに死にたくないですよ! どうせなら、死なないで償う方法を選びたいです」
俺の言葉に、シグマリオンは慌てながらそう叫ぶ。
まあ、わざわざ自分から死にたいって言う奴は居ないしな。
ならどうするか……。
「だったら……あの村で、しばらく罪を償うというのはどうだい?」
俺がシグマリオンの処遇について考えているとディオンが口を開く。
「何?」
「彼が悪事を働いた村は、あそこだけだ。ならば、彼の罪はあの村で償うべきだと思う。もちろん、あそこの住人は彼をそう簡単に許さないだろうし、彼にとっても過酷な状況になるだろう。だからこそ、より真摯に……真剣に罪を償えると思うんだ」
ディオンの言い分も分かるが、身内を殺した相手を村に置きたがるだろうか。
「良いんじゃない、ムクロちゃん」
「ウロボロス?」
俺が悩んでいると、ウロボロスが話しかけてくる。
「シグマリオンちゃんを倒したのはディオンちゃんだもの。つまり、勝者はディオンちゃんだから、彼女に決定権があると思うの」
まあ、言われてみれば確かにそうか。
「ただ、ディオンちゃん。貴女の言葉はただの理想よ。そう簡単に上手く行かないっていうのは、覚悟しておきなさいね?」
「それは……もちろんだ。きっと、皆が納得するような展開にしてみる。……シグマリオン。君も、それで構わないな?」
「はい! それは勿論! 誠心誠意、本気で罪を償わせていただきます!」
ディオンの言葉に、シグマリオンはぺこぺこと頭を下げながら答える。
……当人同士がそれで納得するなら、それでいいか。
あとは、村人達だがそれもディオンが何とかしてくれることだろう。
俺達はシグマリオンを連れ、村へと戻るのだった。
◆
「……何ですって?」
村に帰って来て、村長にシグマリオンの処遇について話すと彼は表情をこわばらせる。
仇を村に住まわせろというのだから、当然の反応だ。
「貴方達の気持ちも痛い程分かる! ……だが、だからといって罪を償わせる機会を潰してしまうというのはボクには出来ないんだ。頼む! ボクの顔に免じて、彼に罪を償わせる機会を与えてやってはいただけないだろうか! 勿論、しばらくはボクも監督者としてこの村に滞在し、君達の安全は保障すると誓う!」
ディオンはそう叫ぶと、土下座をし頭を地面にこすりつける。
「そ、そんな! 一等級冒険者様である貴女が土下座をする必要はありませんよ!」
村長は、慌てたようにディオンを起き上がらせる。
「では……」
「しょ、正直納得はできません。……が、彼を処刑したところで、死んだ人達が戻ってくるわけではありません。ならば、生きて償わせた方が死んだ人達への弔いにもなるでしょう。……ディオン様の申し入れを受け入れます」
ふむ、どうやら上手くいきそうではあるな。
「……まったく、うちの大将はとんだ甘ちゃんだねぇ」
俺の隣で、二人のやりとりを見ていたファブリスがポツリと呟く。
「まあ、そこがディオンの良い所だろうよ」
自分の正義を貫き通す。今の時代では、珍しい心の持ち主だ。
「そうなんだけどさ。だが、俺としては危なっかしくも見えるんだよな。いつか、あの綺麗すぎる性格が仇になるような気がしてよ」
「それを補佐するのが仲間の役目だろう?」
「カカッ、違いねーや」
俺の言葉に、ファブリスは愉快そうに笑う。
ディオンの性格は、美徳ではあるが良からぬ輩に付け入れられる隙でもある。
そんな隙をサポートするのが仲間だ。
ファブリス達が居れば、そこら辺は大丈夫だろう。
「ムクロ君」
俺がファブリスと話していると、ディオンがやってくる。
「話はついたのか?」
「ああ、お蔭様でな。シグマリオンの監視もあるので、しばらくはこの村に滞在することになった」
「なら、ここでお別れってわけだ。また、どこかで会えるといいな」
俺がそう言うと、ディオンは何となく微妙そうな表情を浮かべる。
「それなんだが……非常に……ひじょーに申し訳ないんだが、君にお願いがあるんだ」
「お願い?」
何だかまた凄いめんどくさそうな雰囲気を感じ取りつつも、俺は尋ね返す。
「しばらくの間、イニャスを預かっていてはくれないか?」
神妙な顔つきで、ディオンはそう言うのだった。
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