第74話
「おい、ディオン。大丈夫か?」
「あ、ああ……すまない」
真っ二つになった奴らを尻目にディオンを抱き起すと、彼女は申し訳なさそうに言う。
「さっきの技は?」
「あれは、自分の光属性を利用した技なんだ。自分自身を光に変え、全てを斬り裂くボクのとっておきさ」
要は光速で相手に攻撃するって事か。
……それってかなりチートじゃねーか? 光速で動かれたら流石に俺や師匠でも対策出来んぞ。
「……とはいえ、使うには条件があるし……いざ使っても殆ど体力を持ってかれるからこの有様さ。一日に一回だけ使える奥義、とだけ言っておこうか」
「それって、俺達が最初に会った時には?」
「使えなかったよ。あれから、ボクだって頑張ったのさ……」
俺の言葉に対し、ディオンは力なく笑いながらそう答える。
一体、どれほどの鍛錬を積めば条件付きとはいえこれほどの技を身につけることができるのだろうか。
「ボクの事は良いんだ……それよりも、さっきの事について詳しく教えてくれないか?」
さっきの事……というのは、そこで倒れている仮初の魔人の事だろう。
「そうだな……どこから話せばいいのやら……」
俺は顎に手を添えながら、以前遭遇した蟻の魔人の事について話す。
その時も、タマモらしき人物が力を与えた、という事も一緒に。
「そんな事があったんだね……」
俺の説明が終わると、ウロボロスは神妙な顔つきで頷く。
「タマモは、他人に力を与える能力なんか持ってなかったと思うけど……ウロボロスは何か知ってるか?」
「うーん、私の知る限りだとタマモちゃんにそんな能力は無かったはずだよぉ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今、そこの女性をウロボロスと呼ばなかったかい?」
俺とウロボロスがタマモについて話していると、ディオンが慌てながら割り込んでくる。
……やべ、ついうっかり本名で呼んじまった。
ウロボロスも普通に返事しちゃったから誤魔化せないだろうなぁ。
「あー……うっかり返事しちゃったわねぇ」
ウロボロスも、特に慌ててはいないがアラアラと少し困ったような表情でそう言う。
「こほん……まあ、薄々見当はついてるかもしれないけど、私が本物のウロボロスよぉ? 村では、余計な混乱が起きないように隠してたの、ごめんなさいね?」
「…………はは、何というかもうどっからツッコんでいいか分からないね」
もっと驚くかと思いきや、ディオンは意外と冷静な様子でそう言う。
「随分冷静だな」
「まぁ、君の仲間だって考えたら本物の暴食っていうのも納得できるさ」
はたして、それはどういう意味なのか詳しく聞きたいところだが……俺が精神的にへこむ未来しか見えないので聞かないことにしておく。
君子、危うきに近寄らずとかそんな感じである。
「まあ、ウロボロスさんについては理解したよ。ちなみにこれは村の人には隠しておいた方が良いかい?」
「そうねー、あんまり怖がらせたくないからお願いできるかしらぁ?」
ウロボロスがそう答えると、ディオンは「了解した」と頷く。
こういう素直な点は、ディオンの美徳ではあるな。
もっとも、素直過ぎるのは欠点にもなり得るが。
「それで、さっきの続きなんだけどタマモ……というのは、あのタマモで良いのかい?」
「ああ、俺達の仲間……七罪の一人で強欲を司るタマモで間違いないぞ」
「そうか、やはり生きていたんだな。死んでは居ないと思っていたが」
「ん? どういうことだ?」
ディオンの言葉に何か引っかかりを覚えた俺は、彼女に尋ねる。
「タマモを退け、世界征服の夢を打ち砕いたのは誰か知っているかい?」
えーっと、確か最初の街でそんな話を聞いたな。確か、名前は……、
「カルディナ……だっけか」
俺の言葉に、ディオンはコクリと頷く。
良かった、合ってたか。名前についてはチラッと聞いただけなので少し不安だったが合ってて良かった。
「世間ではかつて邪神を封印した五英雄の再来とも言われている英雄カルディナ。……彼女は、ボクの母だ」
「はぁ⁉」
ディオンの言葉を聞いて、今度は俺が驚く番だった。
「あー、確かにどこか面影があるわねぇ」
驚く俺とは逆に、ウロボロスは納得したような面持ちで頷く。
「母に会った事があるのか?」
「まあ、ちょっとばかりね。貴女のお母様……カルディナちゃんも貴女に似て凄く綺麗な方だったわよ? それに気高く強い魂を持っていたわ」
「はは、そう言って貰えるとボクも鼻が高いよ」
ディオンは、恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながらそう言う。
……なるほど、英雄の娘か。
彼女くらいの若さでどうして一等級になれたのか疑問だったが、英雄の娘ともなれば納得だ。
昇級の際に娘補正は多少はあったかもしれないが、その血筋であるならば才能などを受け継いでいてもおかしくない。
タマモを退けた母親の血を引くならば、ディオンも最終的には俺達くらいに強くなる可能性もあるな。
「カルディナちゃんはお元気?」
「ああ、嫌になるくらい元気だよ。母の知り合いというのなら、是非一度会いに来てくれ」
「ええ、勿論よぉ」
と、タマモの事そっちのけで女子(?)二人がガールズトークに花を咲かせている。
「あの、お二人さん。仲良くお話しするのは良いんですけど、あの偽ボロスから話聞かないと」
カテゴリはモンスターである以上、これ以上放っておくと消えてしまう。
「あ、そうだったな。すまない……母の知り合いと聞いてつい」
まあ、良いんですけどね。
……しっかしまぁ、綺麗に真っ二つだな。
これほど綺麗な断面は中々お目に掛かれない。
蘇生方法は、普通に蘇生とゾンビ化の二つがあるがどちらにしようか……。
うん、普通の蘇生だな。
ゾンビ化の方は、こちらに従順なのは良いがあまり頭が良くなく簡単な質問にしか答えられない。
ちなみに、レムレスは特別な方法でゾンビにしているので別扱いだ。
かといって、この豚野郎にレムレスと同じ方法を施す気は無い。
だって、レムレスと豚が同列って何か嫌じゃん。
というわけで、俺は情報を引き出すべく豚をサクッと蘇らせるのだった。
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