第71話
「ウロボロス様が空腹でいらっしゃる! 村人共は速やかに食糧を持ってこい!」
村人の報告により村の入口へとやってくると、そんな声が聞こえてきた。
村の入口には三匹のオークが手に槍を持って叫んでいた。
醜悪な顔つきで、見た目も汚く離れてるはずなのに異臭がしそうだった。
「……あいつらが、ウロボロスの部下と名乗る者達です」
「えー、私あんなの部下にした覚えないモガモガ」
村長の言葉にウロボロスが不満を漏らそうとしたので、俺は慌てて彼女の口をふさぐ。
「ムクロ君、どうかしたのかい?」
「いや、何でもない! 何でもないから気にしなくていいよ!」
ディオンに尋ねられると、俺はブンブンと首を振って誤魔化す。
まったく! ややこしくなるから余計な事言うなよ!
「……ぷはっ! もう、ムクロちゃんッたら急に何するのよぉ」
俺が手を放してやると、ウロボロスは頬を膨らませて不満げに言う。
「何するじゃないでしょうが……! あんたは今、ラミアって名前でウロボロスとは無関係でしょ? それが、自分から正体バレるような事言ってどうすんの!」
俺が小声でそう指摘すると、ウロボロスはハッとしたような表情を浮かべる。
「ごめんなさい。うっかりしてたわ……でも、あんな不潔そうなのが私の部下だって思われるのが我慢できなくて……」
まあ、その気持ちは分からなくもない。
奴らはなんというか……生理的に受け付けない見た目なのだ。
下卑た笑みを浮かべ、弱者に強く当たる。俺が嫌いなタイプである。
「ムクロ君、彼らはどうする? ここでやってしまうかい?」
「そうだな……」
ディオンの言葉に、俺は顎に手を当て考え込む。
ここで倒してしまうのは簡単だ。
現在この村には過剰戦力とも言うべき奴らが揃っているしな。
ぶっちゃけ殺してしまっても、俺の魔法でゾンビ化させて偽ウロボロスの元まで案内させればいい。
……だが、オークに限らず動物系の種族は基本的に鼻が良い。
ゾンビの死臭に気づいて、警戒してどこかに逃げられてしまっては意味が無い。
偽ウロボロスがどの程度の実力者なのかは分からないしな。
まあ、そういうわけで……、
「村の人達には悪いが、一旦言う事を聞いてもらう。それで、奴らの後をこっそりつけていこうと思う」
結局は、これが一番安定した作戦だろう。
奴らから距離をとって後をつけ、住処についたら一気に強襲という感じだ。
「……ふむ、了解した。というわけだ、村長殿。こんな事を頼むのは非常に心苦しいのだが、一先ずは彼らの言う通りにしてほしい。取られた食糧は必ず取り返すと約束するから」
「ディオンさんがそうおっしゃるなら……分かりました。村の者達にもそう伝えます」
村長はそう言うと、オーク達の方へと向かう。
「さて、こっからは人員を割こうと思う。この中で探知魔法が得意なのは?」
俺が尋ねると、ウロボロスとファブリスが手を上げる。
「なら、俺とウロ……ラミア、ディオンが尾行組。他のメンバーは、この村を守ってくれ」
「俺もついて行かなくていいのか?」
「ファブリスは、この村に待機して他に敵が居ないか探知魔法を使ってほしい。部下があいつらだけとも限らないしな」
「なるほど。分かった」
偽ウロボロスがどれくらいの強さか分からないので、出来るだけ足手まといは置いていきたいというのも本音ではあるがな。
俺とウロボロスで充分だろうが、念には念を入れて唯一の一等級であるディオンも連れて行こうってわけだ。
「ムクロ兄様、私は?」
「アウラも村に残って皆の手伝いをしてほしい。アウラは癒し枠だからな、皆の心の清涼剤役だ」
「私、癒し枠なの?」
「ああ、アウラがこの村に残ってくれると皆が癒される」
「……えへへ、それじゃあ村に残るよ。そして、皆を癒してあげる!」
俺の言葉を聞くと、アウラは照れくさそうに笑いながら頷く。
うん、可愛い。これで癒されない奴はまず居ないだろう。
「ディオン様、ムクロ様。奴らに食糧を渡し終えました」
俺達がこれからについて話し合っていると、村長が戻ってくる。
「ご苦労様。奴らは?」
「はい。馬車に食糧を乗せて帰っていきました。特にディオン様達に気づいた様子は無かったです」
馬車か。まあ、食糧を手に持って移動するわけにもいかないからな。
しかし、同じく馬車で追いかけるとなると結構距離をあけないと駄目だな……。
「ウロ……じゃなかった、ラミアの探知魔法って範囲どれくらいだっけか」
「えっとねー、半径5㎞くらいなら余裕だよぉ」
「5、5㎞だと!?」
ウロボロスの言葉にファブリスが驚く。
「どうかしたか?」
別に5㎞くらいならそんなに驚く事じゃないと思うんだが。
「ばっかお前、普通の奴の探知魔法っていうのは普通範囲は広くても半径500mなんだよ。それが十倍って……はっきり言って異常だぞ?」
「そうですね。まずそんな広範囲に掛けられる探知魔法は、私ですら知りません」
ファブリスに続いてジルもそんな事を言う。
まじかよ、そんな規格外だったのか……。良かった、聞かれたのがディオン達で。
「まあほら……あれだ。俺の仲間だからって事で」
「ああ……なんかもう、それで納得できてしまうよ」
「だな……」
と、こんな感じであっさりと納得してしまうからだ。
俺の正体を知ってると、説明も楽で助かる。
「よし、皆が納得したところで、奴らが範囲ギリギリまで移動したら尾行を開始しよう。各自、それまでに準備を怠らないように」
俺の言葉に、彼女達は一様に頷くのだった。
さてさて……偽ウロボロスははたしてどんな奴なのかねえ。
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