第70話
「三ヵ月くらい前……かな。そいつは急に現れたらしい」
ディオンと再会した俺は、あの後村長の家に集まって話を聞いていた。
ディオンの他にも、ファブリス、ジル、イニャスが居て懐かしく感じる。
「そいつは、この村に来るなり食料を要求してきました。勿論、モンスターなんぞに渡せる食料なぞある訳が無いので断りましたよ。……しかし、断るやいなやそいつはいきなり暴れ出したんです」
村長……と言うには若く見える男が、当時の状況を思い出しながら説明する。
「私達も、もちろん抵抗しました。先代の村長だった父を筆頭に村の大人達は、果敢に奴に挑みましたが……全員、喰われてしまいました。それで、息子の私が村長をやってるってわけです」
「喰われた?」
「はい、文字通りそのまま丸呑みです。当然……そんなものを目の前で見てしまった我々は戦意を喪失。奴の申し出を全て受けるしかなかったんです」
ああ、まぁ……普通はそんなの見ちゃったら繊維喪失……もとい戦意喪失するわなぁ。
それにしても、人を喰うのか……。
「それで、この三ヵ月間搾取され続け、ついにギルドに依頼。ボク達に話が回ってきたってわけだ」
「なんでも、そいつは
ディオンの話を引き継ぐように弓を背負った軽装のファブリスがそう説明する。
俺が顎に手を当てながらチラリとウロボロスの方を見ると、彼女もどう反応したらいいのやらといった感じだった。
「まあ、本当に七罪の一人なら勝てないかもしれないですが……ね」
黒髪ロングの眼鏡美人(イケメン)のジルが、こちらをチラリと見ながらそう言う。
「偽者……だと?」
「私はそう思いますね。わざわざ七罪の一人を名乗るって言うのは、少し腕に覚えのある者なら結構やる手口なんですよ」
へー、そうなんだ。
虎の威を借りる狐というか、まぁ強い肩書き持ってれば本当にしろ嘘にしろ少なからずビビるからな。
「実際の所、ムクロさんも偽者だと思っているのでしょう?」
まあな。だって、本物が俺の隣に居るし。
そもそも、三ヵ月前ならウロボロスはグルメディアに居たはずだ。
しかも、一ヵ月間はドラッグのジジイに捕まってたし、こんな事が出来るはずもない。
「えーと、ちなみに……その暴食さんはどんな見た目なんです?」
「そ、そうですね……一言で言えばオーク……ですかね」
ウロボロスの見た目にビビりながらも村長が答える。
まあ、ウロボロスの外見はビビるよな。蛇の種族なんて居ないわけだし。
ていうか……、
「間違いなく偽者だな」
俺の言葉に、ウロボロスとアウラがしきりに頷く。
「……っかー! やっぱり偽者か! まあ、そんな簡単に七罪なんか居るわけないんだよなぁ」
俺の言葉に、ファブリスが頭を掻きながら言う。俺を目の前にしておいて言うセリフではないわな。
もし、実は本物が俺の隣に居ますって言ったらどうなるんだろう。
まず間違いなく大混乱だろうな。……ちょっと見てみたい気もするが、流石にそれは外道かなって思うので自重することにする。
「そ、そもそも……わ、私達じゃ……ほ、本物には勝てない、よ」
と、ファブリスの言葉に反応して全身鎧の少女が答える。
確か……エルフのイニャスだったか。相変わらず暑そうな鎧を着ている。
まあ、エルフ狩りが横行しているこの世界では迂闊に正体もばらせないからな。
そういう意味では、ある意味七罪と同じと言えるかもしれない。
「まあ、それは……あの一件で嫌という程実感したからね。だが、偽者ならば我々でも勝てるかもしれない。いや、勝つべきだ。でないと、他にも被害が広がってしまうからね」
ディオンはそう言いながら、グッと握りこぶしを作る。
相変わらず正義感の塊みたいな性格だな。
闇に堕ちた身としては非常に眩しくもあり、脆くも見える。
「ちなみに、その偽者はなんて名乗ってたんだ?」
「うん? ウロボロスって名乗ってたかな。まあ、だからこそ真偽を確かめる必要があったんだ。ムクロ君が偽者っていうならそうなんだろうけどね」
なるほど、名前くらいは知ってたって事か。
しかし、似顔絵付きの手配書が出回ってる中で堂々と名乗るとは大した奴である。
まあ、この世界には写真が無いし人伝で描くしかないから、実物と異なる可能性もあるしな。
実際、師匠なんか普通に顔出ししてるのにバレてないし、ウロボロスも気づかれている様子が微塵も無い。
「なるほどなぁ……」
「あの、少しよろしいですか?」
俺が状況を整理していると、村長がおずおずと話しかけてくる。
「どうしました?」
「先程から気になっていたのですが……あの、そちらの半透明な少女と下半身が蛇の方は……そのう、安全なのでしょうか? あ、いえ! ディオンさん達のお知り合いにそんな事を言うのは失礼だって分かってるのですが、村を預かる身ですので……」
あー、そういえば有耶無耶になって結局紹介してなかったな。
「そういえば、ボク達もまだ知らないな。それに、レムレス君はどうしたんだい?」
「ああ、そういえばあの無表情メイド居ないな。ついに愛想つかされたか?」
ついにってなんだよ、ついにって。
失礼な事言うと、無い胸揉んで大きくしてやろうか。
「レムレスは訳があって俺とは別行動中だ。それで、こっちの幽霊の方がアウラ」
「アウラです! よろしくお願いします」
俺が紹介すると、アウラは元気よく挨拶しペコリと頭を下げる。
その様子を見た面々は、なんだか和んだような表情を浮かべる。
まあ、幽霊とはいえアウラは無邪気で可愛らしいからな。その様子に和むのも納得がいく。見た目は、半透明な所以外人間と変わらないし。
問題は、ウロボロスの方である。
「んで、こっちは……」
「初めましてー、ラミアって言います。見ての通り、私は人間ではないんですが、ムクロちゃんに命を助けてもらってから一緒に旅してるの。私、人間が好きだから怖がらなくていいわよぉ」
俺がどう紹介したものか悩んでいると、ウロボロスが機転を利かせて自己紹介をする。
ラミアか……蛇繋がりとしてはアリな名前だな。
それに経緯も一応間違ってはいない。ドラッグから助けて一緒に旅をしているわけだし。
嘘を信じさせるには多少の真実を混ぜるって奴だな。
「なるほど、そういう経緯があったのか。まあ、ムクロ君ならそれくらいやってのけるだろうな」
自分達も体験をしているせいか、あっさりと信じるディオン達。
普段の行いって、大事だね。
「村長殿。ムクロ君は信用できる方だ。他の者達も信用してと思う」
「はぁ、ディオンさんがそう仰られるのでしたら信じます。ムクロさんも一等級のようですしね。……気分を害してしまったのなら申し訳ありません」
「ああいえ、疑う事は大事ですから気になさらずに。それがトップの務めですから」
頭を下げる村長に対し、俺は気にしてないと笑顔で答える。
実際、俺達全員人外だしその内に二人は指名手配されてるからな。特級レベルの危険集団だ。
まあ、敵対する気は無いけどな。
「それでは、話が落ち着いた所で村の皆に状況を報告……」
「大変です!」
村長が立ち上がろうとしたところで、一人の村人が慌てながら家に入ってくる。
「どうした?」
「ぼ、暴食の……ウロボロスの部下と名乗る奴らがまた現れました!」
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