第68話

白羊宮アリエス部隊が全滅した」


 薄暗い会議室で、一人の男が発した言葉に周りの人間はざわつく。

 ここは、占星十二宮アストロロジカル・サインの拠点で先程発言したのは組織のボスである。


「マジかよ……ドラッグの爺さんは?」


「密偵の話では、投獄されたそうだ」


 ボスの言葉に、軽薄そうな男は「まじかよ」と信じられないとでも言うようにボソリと呟く。


(多分……ご主人様達の仕業ねぇ。グルメディアに行くって言ってたしぃ)


 周りが驚いている中、事情を知っているウェルミスだけは頬杖をしながら傍観している。


「ウェルミス殿は……何やら驚いていないように見えるでござるな?」


「え?」


 時代掛かった喋り方をする男に指摘され、ウェルミスは内心ドキリとする。


「いや、他の者が驚いている中、おぬしだけはまるで“最初から知っていた”かのように落ち着いていたのでな。もしや、何か関係があるのではとな」


「ふふ、女って言うのは感情を簡単に吐露しないものなのよぉ? それに……そんな事を言ったら貴方も随分と冷静じゃないからしらぁ……蟹座キャンサー部隊長のフウマさん?」


 フウマと呼ばれた全身黒ずくめの男は、おかしそうにクククと笑う。


「確かに拙者も内心驚いてはいるが、それを表には出していないでござるな。忍ゆえに動揺を抑える術をもっているのでござるよ」


「なら、私も貴方と同じように感情を抑えているだけ……と納得してくれるかしらぁ?」


「……一先ずは、そういう事にしておこう」


 ウェルミスの言葉を聞いて、フウマはそう言うとそれっきり押し黙る。


(まったく……相変わらず嫌な奴ねぇ。シノビだかなんだか分からないけどフウマの部隊ってどいつもこいつも陰険なのよねぇ)


 フウマの態度に苛立っているウェルミスは、内心でフウマをこきおろす。


「……話を続けるぞ」


 ボスが口を開くと、ざわついていた面々は一斉に静かになる。

 静かになったのを確認し、ボスは満足そうに頷くと言葉を続ける。


「ドラッグ達の部隊を潰した奴らは既に突き止めている。ドラッグに貸し出していた密偵から情報を得ているからな」


「それで……どんな奴が潰したんだ?」


「……七罪の王セブンス・ロード達だ」


 ボスの言葉を聞いて、一旦静かになった会議室は再び騒然とする。


「まさかの、七罪かよ。確か、ウェルミスん時も出張ってこなかったか?」


「驚くのは分かるけど少し黙りなよ」


「んだと?」


 子供っぽい声に注意されると、軽薄そうな男は苛立ちを隠そうとせずに突っかかる。


「まだボスの話は終わっていない。それに……ボスは七罪の王セブンス・ロード“達”って言ったんだ」


 子供の言葉を聞いて、ようやく事態を理解したのか軽薄そうな男は息を呑む。

 そう。七罪の王セブンス・ロードの一人……ではなく達、と言ったのだ。

 それはつまり複数人居たという事を示唆している。

 七罪の王セブンス・ロードが一人居るだけでも一騎当千の力を持っているというのにそれが複数ともなれば、自分達では勝ち目がないと重々承知していた。


「確認できたのは怠惰と憤怒。そして、ドラッグによって捕えられていた暴食の三人だ」


「おいおい、一番厄介な憤怒が居たのかよ。よくそれで精神崩壊だけですんだな、ドラッグの爺さんは」


 憤怒のカーミラの危険度は極悪。それは周知の事実であり、出会ったら何をおいても全力で逃げろと言われているほどだ。

 逆に暴食のウロボロスは温厚で知られ、こちらから手を出さなければ友好的に接してくる仏のような存在で知られている。

 そんなウロボロスを捕えていたと聞いて、事情を知らなかった面々はドラッグの自業自得だと思う事にした。


「ドラッグったら、暴食を監禁してたの? そりゃ、滅ぼされて当たり前じゃん! ばっかじゃないの!」


 子供っぽい声は、事実を知ってドラッグを馬鹿にする。


「まったくだ。それで? 報復はするのかい?」


「今はまだその時ではない……が、いずれはしてもらうつもりだ。例え七罪が相手とはいえ、仲間をやられたとあっては放っておくわけには行かない」


「今はやらないのかい?」


「お前達は、俺の大切な仲間だ。戦力が整ってない現状ではいたずらに兵を失うだけ。俺にはそれが耐えられん」


 ボスの言葉に、周りのメンバーは内心感動する。

 ここに集まったメンバーは、ボスのこの不思議な魅力に惹かれて集まったのだ。


「ねぇねぇ、今ってその七罪達はどこに行ったかって分かるんですか?」


「んだよ、おめー。話聞いてなかったのか? まだ奴らに手は出すなって言われてんじゃねーか」


「やだなー。そういうつもりで聞いたんじゃないよ。ほら、奴らがどこに行ったか分からないとさ。関わらないようにしてても、うっかり関わっちゃったりするかもしれないじゃん?」


 子供の言葉に、軽薄そうな男は一理あるなと納得する。


「……今の所、奴らの行方は分かっていない。もし出会ったら、各自適度に対応しつつ撤退しろ。命を粗末にすることは許さん。お前も良いな?」


「はーい、了解です。『タマモ』様」


 子供の言葉に、ボスであるタマモは満足そうに頷く。


(ムクロにカーミラにウロボロス……か。厄介な三人組が集まったものだ)


 タマモは、かつての仲間達の事を思い出しながら九つの尻尾を軽く揺らす。

 

(昔の仲間とはいえ、俺の目的を邪魔する奴には容赦しない。……が、今は戦力を集めることが先決だ。時が来たら……あいつらを、潰す)

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