第67話

 七罪の一つである傲慢を司る男。それがリュウホウである。

 龍華族と呼ばれる龍の一族を治める長で、文字通り王様である。

 ちなみに、ここで言う龍とは西洋の方では無く中国とかの東洋の竜の方になる。

 もちろん西洋の方の竜人も居る。

 リュウホウの居る場所は、住む場所を変えていなければ山を越えた先に居るはずだ。

 龍華族は険しい環境に住むのが好きな種族だから、人里から離れているのだ。


「それで、リュウホウに会いに行くメンバーなんだけど……師匠は、当然あいつに会うのは嫌ですよね?」


「当たり前だろうが。もしあいつに会ったらワシは龍華族を滅ぼしてしまうかもしれん」


 憤怒の師匠と傲慢のリュウホウは、相性が恐ろしく悪い。

 主に、リュウホウの性格に難がありまくりなので悉く師匠の逆鱗に触れるのだ。

 それらも踏まえると、


「それなら師匠はここの住人探しをお願いします」


 いくらゴーレムが居ると言っても、彼らは単純な命令しか行えない。

 なので、結局人手が必要になるのだ。

 人手に関しては奴隷なりなんなり集めればいいだろう。


「それで、ウロボロスは俺と一緒にリュウホウに会いに行ってほしい」


「はーい、了解でーす」


 俺の言葉に、ウロボロスが間延びした返事をする。

 彼女が居なければ、リュウホウとの会話もままならないし必須である。


「それで、レムレスとアグナは師匠についていってほしい。アグナには後から伝えておく」


「理由をお聞きしても?」


「理由は二つある。一つは……師匠は酷い方向音痴なので同行者が必要だ」


「確かに。ワシ一人で外に出たら、おそらくはこの国に戻ってこれないだろうな」


 俺の言葉を聞いて、師匠はウンウンと納得したように頷く。

 ……自覚してる方向音痴っていうのも中々厄介だな。


「それで、もう一つは何ですか?」


「もう一つは……」


 俺は、はたしてこの理由を言うべきか迷う。

 なんというか、これに関しては完全に俺のエゴなので何か気恥ずかしいのだ。


「マスター……?」


「ああうん……理由、なんだけど……その、お前をリュウホウに会わせたくないんだよ」


 リュウホウは、気の強い女が好みのタイプだ。

 そこへレムレスと出会ってしまったら……あいつは求婚する。まず、間違いなく求婚する。絶対する。

 世の中の女性は、自分に惚れていると豪語する奴なので絶対に会わせられないというわけだ。

 アグナも一緒に同行させる理由は、単純にレムレス一人だと負担が大きいからだ。


「……分かりました。そう言う事でしたら了解です」


 もっと深くツッコんでくるかと思ったが、予想に反してレムレスはあっさりと了承する。


「うん、まぁ……そう言う訳だから頼むよ」


「私はどうしようか?」


「インフォは、さっきも言ったけど七罪、特にタマモについての情報を集めて欲しい。もちろん、報酬ははずむよ」


「ふむ、了解だ。……ふふ、七罪探しなんてワクワクするね」


 俺の指示に対し、インフォは唇の端を歪めて嬉しそうにする。

 なんというか……少し不安だがインフォの情報収集能力は確かなので、彼女に期待するしかない。


「おい、ムクロ。アウラはどうするんだ? 奴は留守番か?」


 師匠の言葉に、俺はしばし考え込む。

 確かに、最初は留守番を考えていたが……それだとアウラがまた一人になってしまう。

 長い時間、彼女は一人だったのであまり寂しい思いはさせたくないな。


「……よし」


 しばらく熟考した後、俺は結論を出すのだった。



「ムクロ兄様ー! 早く早く!」


 翌日、外に出るのがよっぽど嬉しいのかアウラは嬉しそうにそこら辺を飛び回っている。

 悩んだのだが、アウラは俺達と一緒に行くことにした。

 アウラにどっちとついていきたいか聞いたら、俺の方と答えたからだ。

 まあ、ウロボロス用にデカい幌馬車も買ってるし街中ではウロボロスと一緒に隠れてもらえばいいだろう。

 もしくは、ローブを着せるのも良いかもしれない。

 どうやら、意識すれば物にも触れるらしいのでそう言った事も可能なのだ。


「それではマスター、お気をつけていってらっしゃいませ」


「お兄ちゃん、頑張って来てねー!」


 俺がアウラに手を振っていると、レムレスとアグナが話しかけてくる。


「ああ、そっちも頑張れよ。……師匠が色々やらかすかもしれないから、くれぐれも気を付けて」


「聞こえてるぞ、ムクロ」


「すんません!」


 俺がレムレスとアグナにだけ聞こえるように小声で話していると、離れた場所に居るはずの師匠がジロリと睨んできてそう言い放つ。


「……まあいい。何か有益な情報を持ち帰ったら許してやろう」


 どうやら、これは意地でもリュウホウから情報を何かしら持ち帰らないといけなくなったようだ。

 頼むから、何か情報を持っててくれよリュウホウ。


「インフォも頼むな。あ、くれぐれも無理とかはすんなよ。あんたも大事な国民なんだから」


 他の七罪ならともかく、タマモはちょっと嫌な予感がするのだ。

 深入りして命を落としたりしたら、俺が頼んだだけに寝覚めが悪くなる。


「ははは、心配しなくてもそこら辺は弁えてるよ。ま、期待して待ってくれたまえ」


 心配そうにする俺をよそに、インフォは明るく笑いながらそう答える。

 うん、とりあえずは彼女を信じることにしよう。


「よし、それじゃ出発だ」


 俺は御者台に乗り込み手綱を掴む。

 馬車担当だったレムレスが師匠と共に行くので、必然的に俺が御者にならざるを得ない。

 ウロボロスに色々教えてもらったので、まぁ……何とかなるだろう。

 俺はそんな軽い気持ちで馬車を出発させたのだった。

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