第66話

「ムクロ兄様あぁぁぁぁ!」


 城の中に入ると、奥からアウラが文字通り飛んできて俺に抱き着いて来る。

 スカッ。そして、そんな音が聞こえてきそうな程、アウラは俺の体を綺麗にすり抜けた。

 ……まぁ、霊体だしね。

 しょうがないよ、だからそんなしょげた顔すんなって。

 顔文字のショボーンみたいな顔になってるぞ。

 

「……とりあえず、あれだ。ただいま」


「おかえり……なさい」


 微妙な空気の中、頬を掻きながらただいまと言うと、アウラはぎこちないながらも笑みを浮かべて答えるのだった。



「しっかし、まさか帰ってきたら知らない顔が三人も増えてるとは思わなかったぞ。しかも、その内の二人は七罪だし」


 現状を把握するために、城内にある会議室のような場所に集まるとアルバが口を開く。


「この場に七罪が三人も居るとか過剰戦力ってレベルじゃねーぞ。もしかして、この国が今、最強戦力国家なんじゃねーのか?」


 いやぁ、それはどうだろうなぁ。

 俺は魔法オンリーなので、闇属性対策をされたら詰むし師匠もいくら強いとはいえ、数で押されると厳しい。

 ウロボロスに至っては、そもそも戦いがあんまり好きじゃないからな。

 大国が徒党を組めば、あっさり攻め落とされてしまうだろう。


「戦力は高いかもしれんが、国として考えれば足りんだろうな」


 師匠も同じ考えだったのか、そう言う。


「ですね。私もそれほど強いわけではありませんし……」


「私も七分割されてるからなぁ」


 レムレスやアグナも同じような事を言う。

 まあ、そもそも他国に喧嘩吹っ掛けるわけじゃないから、戦力とか関係ないんだけどね?

 この国の場所だって、ここに国があるって知らなければ結界の効果で見つけられないわけだし。


「……」


「さっきから黙ってるけど、どうした?」


 俺達が雑談をしていると、インフォが先程から黙ってるのが気になったので尋ねてみる。


「いやね……さっき、そこの赤毛のイケメン君をアルバと呼んでいただろう?」


「確かに呼んでたような気がする。つーか、そんな名前だっけ? エロバとかアホバじゃなかったっけか」


「喧嘩売ってるのか? 買うぞ、こら」


 何やらアルバが青筋立てて怒っているが、何で怒っているのか理由が分からないのでスルーさせてもらう。

 

「それで土魔法使い……と。まさか、ここであの魔法学園の学園長に会えるなんてね」


「知ってるのか? インフォ」


「まあ、有名だよ……彼は。色んな意味でね」


「確かに有名よねぇ……色んな意味で」


 インフォの言葉にウロボロスが賛同する。

 その色んな意味、というのに何が含まれているのか非常に気になるところではあるが、聞いたら聞いたでかなり面倒そうだ。

 だから俺は、気にはなるがあえて聞かないことにした。俺って賢い。


「ふっふっふ。ま! 俺くらいになると、名前くらいは知られてるからな」


 そんな俺の気持ちも露知らず、インフォとウロボロスに知られていた事で鼻高々になっていた。

 折れてしまえば良いのに、そんな鼻。



「――とまぁ、そんな訳でゴーレムの核が壊れてたんだわ。土魔法使いにとって、ゴーレムは専門分野だしちゃちゃっと直したんだよ」


「なるほど、それで試運転も兼ねて街の修復か」

  

 俺の言葉にアルバはコクリと頷く。


「うむ、ご苦労。もう帰っていいぞ」


「てめぇは、何でそういう事しか言えないかなぁ?」


 だって、イケメン嫌いだもん。


「大変お疲れ様でした、アルバ様。この通り、マスターは大変ツンデレでいらっっしゃいます。心の内では、鼻水をぶっ放すほど喜んでおりますのでご安心ください」


 誰がツンデレやっちゅーねん。それに、男のツンデレとか誰に需要あるんだよ、誰に。


「男のツンデレとか誰得だっつーの……」


 アルバも呆れたように言っている。

 まさか、奴と意見が合うとはな。

 

 あ、そうそう。ちなみにアグナとアウラの妹キャラコンビは城内の探検に出かけている。

 大人達の会話で飽きていたから、遊びに行っていいと許可したのだ。

 モンスターの気配とかも感じないし、よっぽどの事が無い限りはあの二人なら大抵は対処できるだろう。

 むしろ、二人に絡んだ相手の方が心配になるレベルである。


「……まぁいい。俺もそろそろ学園の方に戻らないといけないからな。スケルトン野郎にいつまでも付き合ってる暇はない」


 誰がスケルトン野郎だこいつめ。


「一応、ゴーレムは全部直してあるが、扱い方は分かるか?」


「あ、それなら私が出来るよぉ」


 アルバの言葉を聞いて、ウロボロスが手を上げながら答える。

 流石は『飢餓の叡智』。ゴーレムの操作まで知ってるとは流石である。

 困った時のウロボロスえもんである。……語呂悪いな。

 

「アンタは……そうか、暴食の。じゃあ、大丈夫だな」


 どうやら、アルバもウロボロスの二つ名は知っていたようで納得したように頷く。


「そんじゃ、またな。気が向いたら遊びに来るぜ」


 アルバはそう言うと、ヒラヒラと手を振りながら去っていく。


「……よし、それじゃあ次のお題だ」


「もう進めるんかい。もう少し、余韻とか無いのか?」


 アルバの姿が完全に見えなくなったのを見計らって話を進めると、師匠が呆れながらツッコんでくる。

 余韻? そんなものある訳が無い。

 美少女とかならまだしも、何故俺がイケメンに対して余韻を感じなければいけないのか甚だ疑問である。


「……まあ、ある意味お前らしいと言えるな」


「わーい、師匠に褒められた」


「褒められてないわよぉ、ムクロちゃん」


「褒められてませんね、マスター」


 ウロボロスとレムレスにツッコまれてしまった。


「こほん。それで次の話なんだが……奴に会いに行こうと思う」


「奴……ですか?」


 俺の言葉に、レムレスが首を傾げる。


「ああ。俺は現在、タマモの馬鹿の行方を探っている」


 主にぶん殴る為に。あと、魔人について聞きだす為に。


「だが、タマモの行方は依然と知れない」


「時間さえ貰えれば、私が探しても良いけども?」


「もちろん、インフォにも他の七罪の行方を捜してもらうが、俺達も並行して探そうと思うんだ」


「それで、ムクロちゃん。奴って言うのは?」


「多分……タマモの行方を知ってそうな確率が一番高い奴だ」


「まさか……」


 師匠は、何となく俺が誰の事を指しているのか理解し苦渋の表情を浮かべる。

 まあ、気持ちは分からなくもない。

 あいつと普通に接せられるのはウロボロスとタマモ、そして色ボケだけだ。

 

傲慢の王ロード・オブ・プライド……リュウホウに会いに行こうと思う」


 俺は師匠の言葉に頷きながら、そう答えるのだった。

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