第65話

「やぁやぁ待たせたね」


 三日後、街の入口で待機しているとインフォが大きな荷物を持ってやってくる。


「凄い荷物の量だな」


「まぁね。新しい場所に住むってなったらこれくらいは必要さ。それに、まだ国というか街として全然機能してないんだろ? だったら、備えあれば憂いなしって訳さ」


 確かに、今アルケディアはまだ何にも手を付けてないからな。

 色々準備しても無駄にはならないだろう。


「というか、随分デカい馬車だね」


 インフォは荷物を降ろしながら、目の前にある大きな幌馬車を見上げて感嘆の息を漏らす。

 以前の馬車と違うのには理由がある。

 それはウロボロスだ。彼女は、グルメディアの冒険者やギルドの間ではかなりの有名人なのでどこかに隠れる必要があるのだ。

 そこで、行商人なんかが使う一番大きいサイズの馬車に買い替えたのだ。

 結構な値段がしたが、仲間の為ならば惜しくない。おかげでウロボロスが中に入っても、まだスペースに余裕がある。

 ちなみに、馬に関しては一頭だけでは流石に無理があるのでもう一頭買ってある。

 ……どうでも良いが幌馬車に仲間を入れて旅するとか、日本のRPGであったなぁ。そして、微妙なステータスだと馬車要員となって馬車から出ることなくゲームをクリアしてしまうのだ。

 ちなみに俺は、ステータス度外視で見た目でパーティを決めるタイプである。

 主人公が男だと、高確率で主人公以外が女になる。

 あれ? 今の状況、割とそうじゃね?


「お兄ちゃん、またエッチな事考えてるでしょ」


「これだからスケベトンは」


「スケベトンって何だよ。……いや、やっぱ説明しなくていいや」


「スケベトンというのはですね、スケルトンとスケベを掛け合わせて……」


「説明しなくて良いって言っただろうが! それに俺はスケルトンじゃねーわ!」


 しなくていいと言ったのに、シレッとした顔で説明を続けるレムレスに俺はツッコミを入れる。


「あっはっは! 君達、相変わらず愉快だねぇ」


「ホント。仲が良くて羨ましいわねぇ」


 俺とレムレス達のやり取りを見てインフォは笑い、ウロボロスは上半身だけ外に出して微笑ましそうに呟く。


「ほらお前ら。漫才してなくて良いからさっさと行くぞ。アウラとやらが待っているんだろう?」


 師匠が呆れながらそう言うと、そういえばそうだったと思いだす。

 用事が済んだら早く帰ると約束していたし、さっさと帰る事にしよう。

 ……もう一人、誰かがアルケディアで待ってたような気がするが、思い出せないなら大した人物じゃないだろう、うん。


「そんじゃま、出発しますか。レムレス、御者は頼んだ」


「了解いたしました」


 俺達は、馬車に乗り込むと御者席に乗り込んだレムレスに頼む。

 馬車の中にはクッションみたいなものを床に敷き詰めているので寝っ転がるとかなり快適だ。

 むしろ、買い替える前よりも乗り心地が良いかもしれない。

 俺が馬車内を満喫していると、手綱の叩く音と馬の嘶きが聞こえ馬車が動き出すのだった。



 それからは、特に何かしらのトラブルも無く俺達はアルケディアへとたどり着く。

 結界があるから無事に辿り着けるか心配だったが、一度住人として登録されてるからか、難なく帰る事が出来た。


「へー、こんな所にあったんだねぇ。割と目立つところにあるのに見つからなかったってのは、流石魔導国家って感じだね」


 街に入ると、インフォは目を輝かせながら感心したように言う。


「うーん……?」


「ムクロちゃん、どうかしたの?」


 感心しているインフォの横で腕組みをしながら唸っていると、ウロボロスが話しかけてくる。


「いやね、随分街並みが綺麗になってるなぁって思ってさ」


「……確かに綺麗になってますね」


「あ、本当だ。なんか、綺麗になってる」


 俺の言葉に反応し、レムレスとアグナも頷く。

 俺達が出発する前は、建物も道もボロボロでいかにも廃都って感じだったんだが、今は多少綺麗になっている。

 道もほとんど整備されておりかなり移動しやすい。

 内心疑問に思いながらも城に向かって進んでいると、全長三メートル程はありそうな土の人形……所謂ゴーレムがこちらへとやってくる。

 

「てめぇら、ようやく帰って来やがったな!」


 すわ敵襲か!? と身構えた俺達だったが、そこへゴーレムの肩の辺りに人影が現れる。

 そいつは、赤毛のイケメンで土属性のアルバだった。


「あー……そういえば、お前にゴーレムの事頼んでたな。すまん、すっかり忘れてたわ」


「ああ? 忘れてただと? よーし、その喧嘩買おうじゃねーか。人が折角街をここまで復興してやったのに恩を仇で返しやがって」


 あ、なんだ。アルバがここまで修繕してくれたのか。

 この街にどれくらいのゴーレムが居たかは分からないが、ここまで修繕を進めるなんて流石は魔法学園の学園長っていった所か。


「ほお、土魔法使いか。中々強そうだな……どれ、ワシとちっとばかし戦ってみないか?」


「ふむふむ、結構美形だね。外見は年齢通りじゃないみたいだけど……一応人間か。これまた興味深い人物だ」


 と、そこへアルバと初対面の師匠とインフォが馬車から乗り出して興味深そうにアルバを眺める。

 くそ、イケメンってだけで異性から注目されやがって。滅びればいいのに。


「ほらほらムクロちゃん。こわーい殺気が漏れてるよぉ? ムクロちゃんもカッコいんだからそんな嫉妬しないのぉ」


 憎しみで人が殺せたら……! と俺が恨みを溜めこんでいると、慈母のような笑みを浮かべながらウロボロスが頭を撫でてくる。

 なんというか……彼女に優しくされると、全ての事象が些末な事に思えてくるから不思議だ。

 と、俺がウロボロスといちゃついてたらレムレスにあばらを折られた。解せぬ。

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