第57話
馬車で移動すること二日。
俺達は、ようやくグルメディアに辿り着く。
「おお、流石は食道楽都市。あちこちから良い匂いがしてくるな」
街の中に入れば、そこかしこで屋台やら料理屋やらがあり食欲をそそられる匂いが充満していた。
ここグルメディアは、その名の通り古今東西の全ての場所から様々な美味い物が集まっている。
美味しい物を食べたければここに来ればいいと言われるほどだ。と、道すがら師匠から聞いた。
なんでも、出来てまだ歴史が浅い新興都市のようだ。
どうりで俺が知らないはずである。
「うう、あちこちから良い匂いがしてお腹が減ってくるよぉ……」
アグナも、漂ってくる美味しそうな匂いに腹を押さえる。
「アグナには悪いけど、先にギルドの方だな」
ウロボロス……かどうかは分からんが、七罪の一人が居るという情報について詳しく聞きに行かなければならない。
それによって、今後の行動が変わってくるからだ。
「うー……分かった。ご飯は、まだ我慢する」
アグナは、不満そうにしながらも納得したように頷く。
「よしよし、アグナは良い子だな」
「えへへ……」
「…………」
「どうしたレムレス」
アグナの頭を撫でていると、レムレスが何やら無言でこちらを見ていたので話しかける。
「いえ、何でもないです」
「くくく、大変だな」
しかし、俺が話しかけるとレムレスはフイッと横を向いてしまい、師匠は何故か楽しそうに笑っている。
……うん、まったくもって訳が分からんな。
レムレスの謎の行動に疑問を抱きつつも、俺達はギルドへと向かうのだった。
◆
「そういう情報は、残念ながら最近は無いですね」
ギルドの受付へ行って尋ねると、そんな答えが返ってきた。
「最近は……っていうと、前はあったんですか? 美しいお嬢さん」
俺は、いつものイケメンフェイスでキラリと歯を輝かせながら尋ねる。
「あ……は、はい。というのもですね……大体三ヵ月くらい前でしょうか。ここから南にある森にナーガが出たという話があったんですよ」
受付のお姉さんは、若干顔を赤くしながらそう答える。
ナーガというのは、下半身が蛇で上半身が女性のモンスターだ。
ウロボロスもそんな見た目なので、彼女の確率がますます上がってきた。
「南の森にナーガが出たというのは過去に前例がありませんので、冒険者達が討伐に向かったのですが、全員返り討ちにあったそうなんです」
「死亡した人とかは?」
「居ないですね。戦いの際に怪我をした方は居ますが、命に別状は無かったです。かなり強いですが、相手の命を奪うような相手ではないという事で、一先ず傍観をする事にしていたのですが……一ヵ月くらい前から忽然と消えてしまったんです」
「消えた……?」
「はい。恐らくは、縄張りを移動したのではないかと言われていますが、なにぶんどこに行ったか分かりませんので根拠が無いんです」
ふむ……どうやら一足遅かったようだな。
一応、何か無いか南の森に行ってみるのもいいかもしれないな。
「分かりました。一応確認だけしたいので、南の森の場所だけ教えてもらえますか?」
「はい、場所は――」
こうして、俺は南の森の場所を聞きだし、ついでに依頼を受けてからギルドを出る。
「どうやら無駄足だったみたいだな」
ギルドから出ると、師匠がそんな事を言う。
「ですねぇ。一応、この後森に行こうとは思うんですが、多分何も無いでしょうねぇ。ただ、ウロボロスである可能性は高そうですけど」
突然現れた、居るはずの無いナーガ。そして、どんな冒険者も敵わない強さを持ちながらも誰も死んでいない。
これらの点から、平和主義者であるウロボロスである可能性が非常に高い。
流石に、そんなに強いナーガがゴロゴロ居るはずがない。
「そうだな。ただ、そうすると……ウロボロスの奴は一体どこに行ったんだか」
師匠は、顎に手を添えながら考え込む。
本人でない以上、彼女の行動を予想するのは難しいだろうな。
ウロボロスは暴食を司るから、美味い物が集まるグルメディアに来たというのは分かる。
だが、そこからわざわざどこかに何の痕跡も無くいきなり消えてしまうというのは不可解だ。
もしかしたら……、
「お兄ちゃん、お腹減ったー」
ウロボロスの行方について考えていると、お腹を押さえたアグナが空腹を主張してくる。
「ああ、ごめんごめん。それじゃ、どっかで飯にしようか」
「ワシはどこでも良いぞ」
「私もどこでも構いません」
「私もー」
と、女性陣は揃ってそんな事を言う。
どこでも良いとか何でも良いっていうのが、一番困るんだけどな!
それで、実際に選んで文句言われると軽く殺意が湧く。
何でも良いって言ったじゃねーか! ってな。
……まぁ、俺はそんな事言わないけど。
そんな感じで、俺達は適当なこじんまりとした料理屋へと入る。
「いらっしゃい……」
その店は、白いひげを生やした老人一人だけで経営している店だった。
客もまばらで失敗したかとも思ったが、ここで踵を返すのも失礼だと思い素直に席に着く。
「何にしましょうか……?」
席に着くと、店主がやってきて尋ねて来たので俺達はメニューを見ながら注文する。
それから、しばらく雑談しながら待っていると店主が料理を運んでくる。
「お兄さん達、見たことない顔だけど旅の人達かい?」
「ああ、ちょっと用事があってね。……そうだ、お爺さんは聞いたことないですか? 南の森のナーガの噂」
こういう街の人達の方が、案外情報を持ってたりするので俺は店主に尋ねる。
「ああ、確か少し前にそんな事を聞いたねぇ……だけど、魔人が居たって事くらいしか知らんよ」
ふーむ、やっぱりだめか。
「何だい、あんたらはその魔人を見に来たのかい?」
「まあ、なんか強いモンスターが居るって話を聞いたんで興味があったんですよ。一応、俺とそこの人は一等級ですから、やはり強いモンスターには興味あるんですよ」
と、俺は当たり障りのないそれっぽい事を言う。
「へぇ……! あんたら、一等級かい。珍しい一等級が二人も来るなんてねぇ。そっちのお嬢ちゃん達も冒険者なのかい?」
「あ、いや……こっちの二人は違いますね」
「なるほど……あ、もし何かを探してるんならスラム街の方に行ってみるといいんでないかい」
「スラム街……ですか?」
俺がおうむ返しに尋ねると、店主はコクリと頷く。
「ああ。スラム街の方にはよくない連中もいるが、その分色んな情報が集まるからね。名前は忘れたが、腕のいい情報屋も居たはずだ。物騒だが、一等級のあんたらなら心配ないだろう」
情報屋か……確かに、その手の人間ならギルドで手に入れていない情報とかも持って居るかもしれないな。
とりあえず、南の森を探索して何も無かったらスラム街の方に行ってみるのも良いだろう。
「分かりました。もし何かあれば行ってみたいと思います。ありがとうございました」
「うむうむ、事情のほどはよく分からんが頑張りなさいよ」
お礼を言う俺に対し、店主はウンウン頷くとキッチンの方へと戻っていく。
「マスター、ならばこの後はスラム街ですか?」
「いや、先に南の森に行こう。スラム街は、なんか色々面倒そうだし関わらないならそれに越したことは無いしな」
「なるほど、了解しました」
俺の答えを聞くと、レムレスは納得したように頷く。
その後、俺達は飯を食べ終わりウロボロスが居たと思われる南の森へと向かう事にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます