第56話
「カーミラ様。この度は、本当にありがとうございました」
「いやいや、気にするでない」
翌朝、お礼を言う村長に対し師匠がそう答える。
昨日の夜は、師匠による俺の赤裸々な暴露話がされたようだが、何を言われたのかが知るのが非常に怖いので内容は聞いていない。
ただ、レムレスは何故か非常に満足げでアグナはこちらを見る度にニヤニヤしてたので、絶対にろくな事じゃないと思う。
「それじゃ、ワシはこれで」
「はい、本当にありがとうございました」
村長に別れを告げると、師匠は俺達の方へとやってくる。
「ムクロ達は、これからどうするんだ?」
「俺達は、グルメディアに向かう途中ですね。噂では、ウロボロスが居るみたいな話を聞いたんで、行ってみようってなったんです」
「グルメディアに? ふむ……」
俺の話を聞くと、師匠は腕組みをして何やら考え込む。
「……よし、ワシも一緒に行こう」
「マジですか?」
「マジだ」
俺の言葉に、師匠は真面目な顔をしてコクリと頷く。
正直、師匠の元気な姿が見れれば満足だったので、ついて来ると言い出すのは予想外だった。
「久しぶりにウロボロスの奴に会いたいというのもあるが、お前達について行けば厄介事に事欠かないとワシの勘が告げているからな。嫌だと言ってもついて行くぞ」
うわぁ……師匠の勘ってよく当たるんだよなぁ。
それが方向音痴の方にも働いてくれればいいんだけど、生憎そっち方面には勘が働かないらしい。
まったくもって無駄な勘の良さである。
「まぁ、師匠がそう言うなら俺は構わないですよ。どうせ、説得しても無駄でしょうし」
師匠の性格をよく分かってる俺は、無駄だと分かっているので素直に師匠の申し出を了承する。
ただ、俺が良くてもレムレスとアグナがどう答えるかだな。
「私は別に構いませんよ」
「私も大丈夫だよー」
俺の視線に気づいた二人が、俺の言わんとする事を察してそう答える。
「マスターが人間だった頃の話をまだ全て聞けていませんからね」
「うん。少なくとも、お兄ちゃんの話を全部聞くまでは一緒だよ」
何それ怖い。俺の意思を無視して、俺の過去がドンドン掘り起こされてしまっている。
「……ま、まぁいいや。とりあえず、全員賛成って事なので歓迎します、師匠」
俺は自身の精神の安定の為に、先程の事を聞かなかった事にして話を進める。
「うむ、よろしくな。……と、その前にこの先にある街のギルドに行きたいんだが良いか?」
「ああ、依頼の報告ですね。構わないですよ」
特に問題ないので、俺は頷く。
そして俺達は、グルメディアの途中にある街へと向かうのだった。
ちなみに、師匠は街と街の間を移動する分には何故か迷わない。
師匠曰く、街道とかの枝分かれしてない道だったり看板があれば迷わないのだそうだ。
街中などの道がごちゃごちゃしてる所は迷ってしまうらしい。
俺は方向音痴でないので、どうもそういうのは理解できないな。
「はい、これで依頼は完了いたしました。お疲れ様でした」
「さて……それでは、グルメディアへと向かうか」
特に何のトラブルも無く依頼を報告し終えると、俺達はそのままグルメディアに向かう事にする。
「そういえば、カーミラさん」
「ん?」
馬車に向かう途中、何かを思い出したのかレムレスが口を開く。
「カーミラさんって、魔人の部類に入りますよね?」
「まぁな。どっちかというと魔族でも構わない気がするが。それがどうしたんだ?」
「いえ、以前マスターが、魔族や魔人は冒険者になれないと言っていたのを聞いていたので、カーミラさんがどうやってなったのか気になりまして」
あー、確かに普通は気になるよな。
実際の所、レムレスとアグナはそれで冒険者になってないしな。
「あー……それか。まぁ、他言無用で頼むぞ?」
師匠は頬を軽く掻きながら、小声で話し始める。
「実は、ギルド本部のとある偉い奴と故あって知り合いでな。ギルドが出来た時に融通させてもらったのだ」
そう……魔人や魔族が禁止だから、本来なら師匠も冒険者になれないはずなのだ。
だが、師匠はそれをコネで強引に冒険者になってしまったという訳だ。
これが現代日本なら、まず間違いなく色々言われている事だろう。ここが、異世界で本当に良かった。
「なるほど」
「あ。ねーねー、それならさ? 私達も、それで冒険者になれたりするのかなぁ」
「いやー。それは難しいだろうなぁ」
嬉しそうに言うアグナに対し、師匠は申し訳なさそうに首を横に振りながら答える。
「ワシが融通してもらったのはかなり昔だし、今は色々変わってるから無理に近いと思うぞ。魔力の質は変わらないという法則のお蔭で、ワシは今も冒険者をやれているが、新規はなぁ……」
確かに。俺も、人間だった頃に登録していたお蔭で今も普通に出来ているが、もし人間時代に登録していなければ、冒険者を出来ていなかっただろう。
「そっかぁ……」
「冒険者やりたかったのか?」
師匠の言葉にあからさまにシュンとなるアグナに対し、俺は優しく話しかける。
「うん……冒険者になって、もっとお兄ちゃんのお手伝いしたかったの……」
アグナ……っ!
「大丈夫だよ、アグナ! アグナのその気持ちだけで充分だよ! ……見たか、レムレス! これだよ!」
「何がこれなのかは分かりませんが、私に喧嘩を売っている事だけは分かりました」
レムレスはそう言いながら殺気を放つ。
「おーけー、分かった。話し合おうじゃないか。俺達は言葉が通じる。ならば、力で解決する前に話し合いで平和に解決するべきではないかね?」
「くっ……ははははは!」
俺がレムレスの攻撃をどうやって防ごうか考えていると、師匠が急に笑い出す。
「師匠?」
「いや、すまんすまん。お前らがあまりに楽しそうだったんでな」
師匠は、笑いすぎたのか目に涙を浮かべながらそう言う。
「まぁ、あれだ。お前らとは仲良くやっていけそうだ。これからも仲良く頼むぞ」
師匠の言葉に、俺達は三人は顔を見合わせた後頷くのだった。
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