第51話
「ここ、か……」
俺は現在、村長(村で最初に話しかけてきたジジイ)から聞いたコボルトの住む巣へと来ていた。
ちなみに、レムレスとアグナは村で留守番である。
すれ違ったりしたら面倒だし、コボルト達がまた襲ってこないとも限らないから保険だ。
コボルトの巣は洞窟だったようで、無骨な岩肌が剥き出しになっていた。
そして、やはり誰かが来たのか周りにはコボルトの死体が散乱している。
とんだスプラッタである。
もし人間の時の精神状態だったら、まず間違いなく吐いてた。
良かった、アンデッドで。
「しかし、見る限り戦闘はもう終わってるようだけど……」
魔力感知をしてみるが、一つを除いて他は感じない。
その一つというのが、おそらく師匠だろう。なんか、身に覚えのある魔力だし。
「あ、分かった……」
俺は洞窟を見ながら考えていると、一つの理由に思い当る。
なぜ、師匠が依頼を終えても帰ってこないのかという理由が。
「とにかく、あれだな。まずは、師匠を探しに行こう」
俺は、魔力の流れを頼りに洞窟の中へと入る。
「うへー……中も酷いな」
洞窟の中を少し歩いただけでも、あちこちにコボルトの死体が転がっており、壁には血やら何やらがぶちまけられている。
もっとも、もう少し時間が経てば死体は綺麗さっぱり消えてしまうが。
それにしても、この洞窟は中々入り組んでいる。これは、いよいよ俺の予想が現実味を帯びてきたな。
「……っく、ひっく」
奥の方へと進むと、すすり泣く声が聞こえてくる。
角を曲がって顔を出してみれば、広い空間の隅の方で全身鎧が膝を抱えて泣いていた。
「Oh……シュール……」
「っ! 誰だ!」
思わず漏れた言葉に全身鎧が反応すると、手に持っていた真っ黒な何かが長槍に変形する。
そして、それをそのまま勢いよく投擲すると、避ける暇もなく俺の頭部へとクリーンヒットする。
まさに、見えてはいたが避けられない、である。
「……ん? お前、もしかしてムクロか?」
復活する俺を見て、全身鎧はそう尋ねてくる。
ああ、この声に見た目。間違いない……俺の師匠だ。
「お久しぶりです、師匠。そうです、ムクロです」
「……おお、やはりムクロか! 久しぶりだな!」
全身鎧もとい師匠は、嬉しそうな声を出すと兜を取る。
兜の中からは、気品さが溢れ出て人形のように整った顔が現れる。
光に反射してキラキラと輝きそうな銀髪を両端でツインドリルにしている。
年のころは、外見年齢だけで言えば十四、五歳くらいと言った所だろうか。
「って、何でムクロがこんな所に居るのだ?」
「いや、それはこっちのセリフですよ。師匠、指名手配されてるのに何普通に冒険者やってんですか」
俺? 俺は良いんだよ。手配されてるのは骸骨の姿であって、人間の姿じゃないからな。
「馬鹿者。それくらいでこのワシが合法的に戦闘が出来る冒険者を辞めると思うか?」
「……思いませんね」
俺がそう答えると、師匠は「だろ?」と言わんばかりに盛大にドヤ顔を披露する。
「それにな、ワシの人相書きは鎧の姿だ。素顔までは割れていない。そして、全身鎧など珍しくは無い。名前に関しても、堂々としてれば意外とバレないものなのだ」
師匠の言葉に、俺は妙に納得してしまう。
例えば、芸能人と同じ名前の人間が居たとして、最初は驚くが当人が堂々としていれば、ああ……同姓同名なんだな。と自分の中で勝手に完結してしまう。
得てして、人間というのはいい加減なものなのだ。
「あ、ちなみに俺も冒険者を再開して旅してたんですよ。それで、村に寄ったら師匠が帰ってこないっていうから、様子を見に来たんです」
「お前が冒険者を再開……? あの面倒くさがりなお前が?」
師匠が、訝しげな表情でこちらをジーっと見てくる。
「……なるほど、女か」
「黙秘権を行使します」
自分の中で勝手に解釈した師匠がニヤニヤしながらそう言うので、俺はあえて黙る事にした。
こういう時の師匠は、軽く流すに限るからな。
「話は変わりますが……見た所、依頼はもう終わってるみたいですが何で帰ってこないんですか?」
「……」
先程までニヤケ面をさらしていた師匠は、俺がそう尋ねると途端にバツが悪そうにする。
「……たんだよ」
「え?」
「迷ったんだよ! 悪いか!? 思ったより洞窟が複雑で出れないのだ!」
師匠は、顔を真っ赤にしながらそう怒鳴る。
そう……基本的に凶悪最恐と恐れられる師匠だが、一つだけ弱点がある。
師匠は、方向音痴なのだ。それも極度の。
一緒にパーティを組んでた時代も、何度はぐれたことやら。
今回のコボルトの巣だって、普通に辿り着けているのが奇跡である。
いや、もしかしたら辿り着くまでにも迷っていたから時間が掛かっていたのかもしれない。
「まー、大体予想は出来てましたよ。村長の話から、師匠だろうなって予想ついてましたし」
「ふん、方向音痴で悪かったな!」
「いや、そんな事言ってないでしょうが」
まったく、憤怒を司ってるだけあって怒りっぽいんだから。
まあ、そこも含めて惚れてたんだけどさ。修行するまではな!
「ほら、村長も待ってるだろうしさっさと帰りますよ」
「……いや、ちょっと待て」
俺が先導しようとすると、師匠が待ったをかけてくる。
「ムクロ……」
師匠は、真面目な顔をしながらズイッと近づいてくる。
うん、嫌な予感しかしないね。
「久しぶりに会ったのだ。ワシと勝負をしよう」
……どうやら、師匠の戦闘狂っぷりは今もなお健在だったようだ。
レムレス、アグナ……それにアウラ。俺はもしかしたら、今ここで滅びるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます