第50話

「それじゃアウラ。行ってくるから良い子に留守番してるんだぞ」


「うん……早く帰って来てね?」


 アウラが寂しげな表情でそう言うので、俺は頭を撫でてやる。


「グルメディアに行って、用事を済ませたらすぐに帰ってくるよ」


 七罪が本当に居るかどうかは分からないし、もしかしたら七罪並の力を持つ別の何かかもしれない。

 どっちにしろ情報の真偽は確かめなきゃいけないので、行かないという手は無い。

 そして、万が一の事があってはいけないのでアウラは留守番だ。


「アウラさん……一人ぼっちは寂しいかもしれませんが……」


「俺も居んだろうがよ」


 レムレスが何やら言おうとすると、アウラの後ろに立っていた赤毛のくそイケメンが不満そうに口を開く。


「ああ、そういえば居たな」


「てめぇ……人を呼びつけておいていい度胸だな、あ?」


 赤毛のくそイケメン……土魔法使いのアルバは、額に青筋を浮かべながら睨んでくる。

 いやね、ゴーレムって土魔法系統なんだけどさ、じゃあ土魔法使える奴に任せればいんじゃね? って事になって王都からアルバを呼び寄せたという訳だ。

 最初は学園の仕事が忙しいとか抜かしやがったので、「私と仕事、どっちが大事なの!」と詰め寄って快諾してもらった。


「まあ、冗談はさておいて……だ。ゴーレムの方は頼んだぞ」


「そこは任せておけ。土魔法に関してなら、俺は誰にも負けない自信があるからな」


 俺の言葉に、アルバはドヤ顔を披露しつつそう言う。

 ……何やっても絵になるとか、やっぱイケメンはムカつくなぁ。


「しっかし、魔導帝国が本当にあるなんてなぁ……噂話の類かと思ってたぜ」


 アルバは、改めてアルケディアを見回しながら感心したように言う。


「魔導具とか勝手に取ってくなよ?」


「取ってかねーっつうの。少しは信用しろよ」


「どーだかなー……」


「おい、お前は依頼した側だよな? 信用したからこそ、俺を呼んだんだよな?」


 だって、イケメンだしなぁ。

 俺、イケメンって嫌いだし。


「アウラ、いいか? 男は皆狼なんだ。特にイケメンはな。だから、簡単に心を許すなよ?」


「それでいくと、お兄ちゃんも狼にならないの?」


「アグナ、俺は良いんだよ」


 だって俺だし。

 重要なのは、俺以外だ。


「という訳で、馬車馬のように働けよアルバ」


「俺、もう帰っちゃおうかなぁ!」


 俺が応援してやったにもかかわず、アルバはそんな事をのたまう。

 おいおい、依頼を受けておいてそりゃねーよ。社会人だろーが。


 そんな会話を交わしつつも、俺達はゴーレムとアウラのお守りをアルバに任せるとグルメディアに向かうのだった。



「マスター、村が見えてきました」


 朝に出発して、日もどっぷりと暮れた後、御者台に座っていたレムレスが話しかけてくる。


「いかがなさいますか?」


 ふむ。正直、俺達は一昼夜ずっと動きっぱなしでも疲れないから休憩などを必要としない。

 しかし、馬車を引く馬はそうもいかない。

 疲労だって溜まるし空腹にだってなる。

 このまま旅を続けようとしても、馬の方が先にダメになってしまうだろう。


「今日は、村で一泊しよう」


「了解いたしました」


 俺の言葉にレムレスが了承すると、村の方へと方向を変える。

 宿屋とかあればいいんだけどなぁ……。

 そんな事を思いながら村に到着すると、俺達は馬車から降りる。


「ふむ……そんなに大きい村じゃなさそうだな」


 少なくとも、宿屋は無さそうだ。

 村長辺りの家に泊めてもらうのが得策か……?


「おお、あんた方は冒険者かい?」

 

 俺が泊まる場所を考えていると、しわくちゃの爺さんが近寄って来て話しかけてくる。

 勿論、俺は人化をしている。

 

「そうですが……」


「すまないが、途中で全身鎧を着た小柄な人を見なかったかね?」


 一瞬、イニャスか? とも思ったが、よく聞いてみるとその全身鎧の人物は真っ黒な鎧だそうだ。

 イニャスは赤い全身鎧だし、そもそもがこんな所に居るはずが無い。

 彼女はディオン達と共に王都に居るはずだし。


「自分達は見てませんが……その方がどうしたんですか?」


「うむ、実はの……ワシの村には時折コボルト達がやってきて作物を荒しておったんじゃ。人的被害は出てないものの、これじゃ生活できんとギルドに依頼を出したんじゃ。そしたら、あの方がやってきてコボルトの巣に向かったんじゃが……」


「まだ戻ってきてないと」


 ジジイの言葉を引き継ぐようにレムレスが言うと、肯定するかのようにジジイが頷く。


「依頼した手前、戻ってこないのが心配でのう……。一等級冒険者と言っておったから、安心しておったのじゃが」


 ふむ、一等級か。

 まさか、この短期間でまた別の一等級の話を聞く事になるとはな。

 ちなみに俺は、一等級冒険者はディオンしか知らない。

 なんか、一等級冒険者の名前は知ってて当たり前みたいな風潮があって調べにくかったのだ。


「何かしらの事故に巻き込まれて戻ってきたくても来れない……とかか」


 もしかしたら、占星十二宮アストロロジカル・サインの奴ら絡みかもしれないな。

 ディオンも、それで絶体絶命のピンチに陥ってたし無いとも言い切れない。

 ふむ……ディオン達の時もそうだったが、一等級冒険者に恩を売っておいて損は無い。

 それに、こんな話を聞かされた後で「そんな事より泊めてください」なんて言えるはずもない。

 完全に、俺達が行く空気になっているし、ジジイもそうして欲しそうな雰囲気を醸し出している。


「分かりました。私達が見に行きましょう」


「え、しかし……」


「大丈夫です。こう見えて、私も一等級ですので」

 

 俺は、そう言って冒険者カードをジジイに見せる。

 

「なんと! 一等級の方でしたか! まさか、一日に二度も一等級冒険者の方に会えるとは……長生きするもんじゃのう」


 ジジイは目ん玉をひんむいて驚きつつも、両手を合わせて俺に向かって拝みだす。


「それで、その一等級の方はどんな方なんです? そして、どっちの方へと向かいましたか?」


 このままだとずっと拝んでいそうなので、俺はジジイから情報を引き出そうと尋ねる。


「ああ、ワシとしたことがすまんかった。コボルトの巣に向かった一等級の方は女性での。人形のような顔立ちで銀色の髪がとても美しかった。名前は確か……カーミラと名乗っておったかのう」


 ……何やってんのあの人!?

 え、何? 確か師匠って賞金掛けられてたよな? なんでそれが堂々と冒険者なんかやってんの! しかも一等級だし。

 ……いや、いやいやカーミラなんてよくある名前だし、この世界では銀髪も珍しくは無い。

 師匠だと断定するにはまだ早い。


「えーと、ちなみに他の特徴は? 例えば、髪型がこう……両脇に縦巻ロールがあったとか」


「おお、確かにありましたの。気品あふれるお姿で、最初はどこぞの貴族かと思いましたですじゃ。あ、あと……強い奴が居ると良いなぁ。とか呟いてましたな。なんだか、戦う事がとてもお好きなようでしたのう」


 ……はい。ほぼ確実に師匠です。本当にありがとうございました。

 まじで何やってんだよ、あの師匠は……。

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