第49話

「マスター、ここらへんでよろしいですか?」


「ああうん、おっけー」


 住基盤を抱えているレムレスに指示しながら、良い感じの場所に置いてもらう。

 あのまま宝物庫に置いたままだと、いちいち見に行くのが面倒だから城の一階にある広場まで持ってきてもらったのだ。

 え? 俺が持たないのかって? 骨に期待をしない方が良い。予想以上に俺は貧弱だから。


「ご苦労様、レムレス」


「いえ、これくらいなら別に。それで、これからどうなさいますか?」


 レムレスの言葉に俺は考え込む。

 簡単に国造りと言ったはいいが、やる事はたくさんある。

 まずは街の修復だ。どれくらいの広さがあるか分からないが、街一個を修復しようとすると俺達だけでは到底足りない。

 それに、食糧問題もある。

 俺やレムレス、アウラはともかくとして、アグナは肉体があるので食事を摂らないといけない。

 この国は、外交を断って自国だけで全てを賄っていたので、きっとどこかに農業エリアのようなものがあるはずだ。

 今、どういう状況になってるかは分からないが手を加えれば何とかなるはず……と信じたい。


「まずは、街を見て回ろう。全体を把握しないと始まらないしな」


 もしかしたら、万が一にも生き残っている奴が居るかもしれない。

 勝手に住んでる奴とかも居る可能性がある。


「アウラ、この国に農業エリアみたいなのってあるか?」


「うーん、ゴメンなさい。よく覚えてないの、ムクロ兄様」


 俺の言葉にアウラは申し訳なさそうに首を横に振る。

 まあ、かなり昔だろうしな。レブナントになった影響で、生前の記憶が薄れたという可能性もある。

 ちなみに、アウラには骨のお兄ちゃんという呼び名を変えさせた。

 これから同じ国の住人になるのに他人行儀ではあれだからな。

 そう言ったら、ムクロ兄様と呼んできたって訳だ。

 ……あと十人くらい妹キャラ集めようかな。勿論、全員兄の呼び方が違う。


「マスター兄たん」


「無理して入ってくんなよ、レムレス」


 なんだよ、マスター兄たんって。無理矢理すぎんだろ。

 うん、あれだな。レムレスが変な対抗意識燃やすからやめよう。


「むぅ……」


 レムレスは、なんだか不満そうに唇を尖らせる。

 まったく……旅立つ前は感情なんてあまり表に出さなかったくせに、最近は感情豊かなんだから。

 表情は、相変わらずほぼ無表情だが。


「ほら、さっさと街に行くぞ」


「はーい!」


「はーい、ムクロ兄様」


 俺が号令を出すと、アグナとアウラが元気よく返事をするのだった。



「ここは……商業区か?」


 城から出て真ん前。一本の大きな道の左右には建物が並んでおり、奥の方には俺達が入ってきた街門が見える。 

 街門に向かって、改めて周りを見ると外壁こそ朽ちてボロボロになってはいるが、内装の方は辛うじて形を保っていた。

 中を覗き込めば、元は食堂だったのか木製のテーブルや椅子が転がっていた。

 後は、武器屋や道具屋っぽいのもあった。

 武器や防具は錆びだらけでボロボロだったので、とてもじゃないが使えそうには無い。

 おそらく、住人達がモンスター討伐をしたりするために必要だったのだろう。


「宿屋がありませんね」


 周りを見ながらレムレスがポツリと呟く。

 他にも同じような種類の店が何店舗かあったが、宿屋っぽいのは見当たらなかった。


「外交を断ってたし、宿とか必要なかったんだろ」


「なるほど、それもそうですね」


 俺が予想してそう答えると、レムレスはなるほどと頷く。

 宿とかも、いずれは作んなきゃなぁ。

 アルケディアを覆っている結界がいつまでもつか分からないし、そもそも万全とも限らない。

 いつ旅人が来ても良いように準備だけはしておかないとな。

 そして、好印象を持たせて国の評価を上げるのだ。


「さて、ここはこんなもんかな」


 商業区を一通り見た俺達は、城の方へと振り向き右の方へと向かう事にする。

 右……方角的には多分東になるのだろうが、そこは住居区のようだった。

 というのも、民家っぽいのしか無かったからだ。

 一応、中も見て回ったが人が住んでいる気配は無かった。

 特筆すべき点も無いので、俺達はそのまま北の方へと向かう事にする。


「おお! ひろっ!」


 北の方に行くと、今までのごちゃごちゃした感じから一転し、広大な土地が広がっていた。

 ボロボロの木柵に囲まれたエリアや荒れ果てた畑などがあった。

 

「ここが農業区で間違いなさそうだな」


「そうですね……ですが、随分荒れ果ててるようですよ?」


「ぼろぼろー」


 レムレスやアグナが率直な感想を漏らす。


「……」


 荒れ果てた農業区を見て、アウラは何だか物悲しげな表情を浮かべている。

 まあ、自分の国が荒れ果ててれば悲しくもなるわな。

 俺はアウラを慰めるように彼女の頭に手を軽く置く。


「ムクロ兄様……?」


「安心しろ、アウラ。俺達が前みたいに……いや、前以上に凄い国にしてやるから」


「ありがとう、ムクロ兄様」


 俺がそうフォローしながら頭を撫でると、アウラは嬉しそうに笑う。


「お兄ちゃん、あそこの建物なーに?」


「ん?」


 アウラの頭を撫でながら、アグナが指差した方を見れば平屋の大きな建物があった。

 農業区にあるから……牛舎とかそんな感じだろうか。

 

「とりあえず行ってみるか」


 全員が頷いたのを確認すると、俺達は牛舎らしき場所へと向かう。

 建物の中は、やはり牛舎……というよりも色々な動物を飼育していたようだった。

 あちこちに藁が散乱しており、柵で様々な広さのスペースで区切られていた。

 昔の国にしては、割と施設が充実している。

 まあ、魔導先進国だったしそういう技術も発展していたのかもしれない。

 魔導一辺倒ではなく、ちゃんと人とうまく共存していたようだ。

 それをあのクソ王が全て台無しにしたんだな。

 やっぱり滅ぼして正解だった。


「ん? あれって、もしかして……」


 建物の中を見渡していると、俺はある物を見つけて近づく。


「やっぱり、魔導ゴーレムか」


 そこには、壁に寄り掛かるようにして全長二メートル程の人の形をした無骨な岩があった。

 

「魔導ゴーレム……ですか?」


「ああ。今でも普通に普及してる技術だ。魔力を吹き込むとこで簡単な命令をこなす人形みたいなもんだ」


 人じゃ到底出来ないような力仕事もゴーレムがやっている。

 おそらく、農業区はゴーレムが基本の労働力だったんだろうな。

 魔力さえ与えておけば、ゴーレムは疲れ知らずだし。


「動くんでしょうか……?」


「それは流石に試してみないと分からんなぁ……」


 長い間放置してただろうし、どこか壊れたりしているかもしれない。

 試しに魔力を入れてみるが、やはり微動だにしていない。


「うん、やっぱ動かねーや。壊れてるっぽい」


「お兄ちゃんは直せないの?」


「悪いけど、俺は無理だな。闇魔法に関してなら誰にも負けない自信があるが、こういう専門的な事はな……」


 ゴーレム関係だと、やっぱり魔導具職人辺りになるだろうな。

 魔導具職人は、文字通り魔導具を制作している。

 いつだか、ギルドの職員が使っていたマイク型魔導具も職人が量産している。

 魔導具は常に需要があるので、安定した職業で人気があるのだ。


「まったく、役立たずですね。マスターは」


 そして、レムレスは流れるように毒を吐くのだった。


 そんなレムレスの毒を華麗にスルーした俺は、最後の地区へと向かう。

 商業、農業と来て最後は予想通り工業区だった。

 と言っても、俺が見てもちんぷんかんぷんな機械っぽい奴ばかりだったが。

 

「アウラ。この機械みたいなのって、何か分かるか?」


「魔導具じゃないから、よく分かんない……」


 アウラでも分かんないならお手上げだな。

 工業関係はさっぱりなので、ざっと見回って終わりにするのだった。



 街を一通り見終わった俺達は、城の前へと戻ってきた。

 意外と街がデカく、一回りするのに結構かかってしまった。

 街に入ったのは午前中だったのだが、今ではすっかり暗くなってしまっている。

 

「とりあえず、街の分布はこんな感じか」


 俺は、地面に簡単な街の地図を描く。

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「やっぱり、一つの街で全て賄えるようになってたな」


「どれ一つとして、まともに機能しそうにありませんでしたけどね」


「まあ、そこら辺はおいおいさ。とにもかくにも人が足りないし、知識も足りない」


 人を集めるところから始めないと、何にもできないって訳だ。


「何か、そういうアテとかないの? お兄ちゃん」


「うーん……」


 俺の知り合いでこういう事に詳しそうな奴、居たっけかなぁ?

 ……って、居たなそういえば。


「ここはやっぱり……グルメディアに行く必要があるな」


「ああ、そういえば七罪の方が居るかもしれない……でしたっけ?」


「うん。そんで、そこに七罪はもしかしたら暴食かもしれない。飢餓の叡智と呼ばれた七罪一の知識持ち……ウロボロスがな」

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