第48話

「国……ですか?」


「ああ」


「あの、超面倒くさがりなマスターが?」


「うむ」


 正直、俺だって面倒だがこれも夢を叶えるためだ。

 普段は極力楽したい俺ではあるが、好きな事には労力を惜しまないタイプなのだ。

 それに、楽園づくりってちょっとワクワクする。シムなんとか的な感じで。


「それで?」 


 俺が一人で頷いていると、レムレスが話しかけてくる。


「それでって?」


「当然、何かアテや考えがあってそう言っているんですよね?」


「馬鹿だな、レムレス。今、フッと思いついたのにそんなアイディアがあるわけごめんなさい、調子ぶっこきましただから暴力はやめてくださいお願いします!」


 レムレスが怖いくらいの無表情で拳を振り上げたので、俺は急いで土下座を披露する。

 土下座検定一級を持つ俺の土下座は、それはもう完璧な土下座。キング・オブ土下座だった。

 それが功を弄したのか、レムレスは静かに拳を下ろす。

 ふっ、俺の土下座にかかればこんなもんだぜ。


「冗談はさておき、まずは国の名前から考えるか?」


「名前ー?」


 俺の提案に、アウラが首を傾げる。


「ああ、名前は大事だぞ。あると無いとではやる気が変わってくる」

 

 よく、人に「お前は形から入るタイプだな」と言われるがその通りだと思う。


「折角だから、新しい名前も付けたいしな。アウラが、元々の名前が良いって言うならそっちでも良いけど」


「ううん……骨のお兄ちゃんの好きにしていいよ」


 アウラは、首を横に振りながらそう答える。

 好きにしていいよ、という単語に少しだけ反応したのは内緒だ。


「さて、という訳で何か良い案はあるかね?」


「結局人頼みですか」


 民主主義と言ってもらおうか。俺は独裁政治はしないのだ。


「名前かー」


「どんなのが……良いかな」


 アグナとアウラのロリコンビは、早速仲良くなったのか二人で相談している。

 超なごむ。


「そうですね……シャンバラとかどうですか?」


 シャンバラ、確かなんとかっていう仏教系で出てくる理想郷だっけか。

 地球の知識を共有してるからこそ、その名前が出てきたのだろう。

 テーマは理想郷だし、合ってはいる……がもう一歩という所だ。

 良い案が出なければ、決定でも良いくらいではあるが。


「えっとねー、ヨモツヒラサカは?」


 レムレスの案に悩んでいると、次にアグナが提案してくる。

 ふむ、黄泉平坂か。

 俺やレムレスが居るから確かに合っていると言えば合ってるが、なんか他所から来た人が食べ物を食べれなくなりそうだからなぁ。

 あと、死者の国って言うとイメージが悪いかもしれない。


「うーん、とりあえずは保留かなぁ。アウラは?」


「うんとね、考えてるんだけど……思いつかないの」


 アウラは、頭を押さえながら申し訳なさそうに言う。


「ああ! 良いの良いの。思いついたら良いなぁ程度だからさ。無理しなくていいよ」


 えーと、今出てるのはシャンバラとヨモツヒラサカか。


「マスターは、何か無いのですか?」


「俺? 俺かー……あ」


 思いついた。


「アルケディアとかって……どうだ?」


 理想郷という意味のアルカディアに、俺の象徴でもある怠惰という意味のアケディアを合わせた造語だ。

 

「なるほど……私は、それでいいと思いますね」


「お、まじで? アグナとアウラは?」


「「私も良いと思う」」


 ロリコンビは、異口同音に答える。本当に仲良いな。

 いつのまに、そんなに意気投合したんだ。


「二人もそう思うのか。……うん、そんじゃまあ、今からこの国は、はぐれ者たちの楽園『アルケディア』だ!」


 俺がそう宣言した瞬間、宝物庫の隅の方で何かが強く光る。


「な、なんだ?」


 光った正体を確かめようとそちらへ行くと、そこには大きな石板があった。

 縦二メートル、横一メートル程の石板である。

 石板には、ほとんど何も書かれておらず上の方にちょろっとだけ文章があった。


「書かれてるのは古代文字か?」


 書いてある内容がよく分からない。何か他に仕掛けが無いか確認するために触れると、急に目の前にホログラムのパネルのようなものが現れる。

 

「うぉっ!?」


 急に出てきたため、俺は思わず驚くがそこに書かれている文字に気が付き読んでみる。


「なになに? 『アルケディア』? って、俺が今宣言した国名じゃねーか」


 なんでそれが、パネルに書かれてるんだ?

 しかも、その下にはナンバーと一緒に俺達の名前があった。


 №1 ムクロ・シカバネ

 №2 レムレス

 №3 アグナキア

 №4 アウラ・バイエ・ルーン

 

 と、こんな感じだ。


「私達の名前もありますね、マスター、これは一体?」


「いや、俺もこんな物見たことないな」


 魔導具の一種だろうか。

 ここは伝説の魔導国家だ。未知の魔導具があっても不思議ではない。


住基盤レジデント・レジステーション。この国に住んでいる人達の名前が自動で登録される魔導具……だって。骨のお兄ちゃんが宣言したから登録されたみたい」


 俺達が悩んでいると、アウラがそう説明する。


「アウラ。分かるのか?」


「うん。これを見たらね、頭の中に色々入ってきたの。それでね、私の特性って『魔導具識別』みたい。魔導具なら何でも分かる……と思う」


 戦闘では使え無さそうではあるが、かなり役に立つ特性だな。

 この国の魔導具は、ざっと見ただけで未知の魔導具が多い。

 アウラが居れば、それらも一発で分かってしまう訳だ。


「住基盤か……いまいち使い道は分からんが、便利といえば便利かもしれないな」


 今の所、そんなに住民を増やすつもりは無いが、人が増えて来た時に名前を把握するのに良いかもしれない。


「お兄ちゃん、名前の所を触ってみて」


 アウラにそう言われたので、俺は自分の名前に触れてみる。

 すると、パネルが切り替わり俺の顔と情報が映し出される。

 勿論、骨の方だ。


「なんかね、名前を触るとその人の詳しい情報が分かるんだって。あ、でも権限? っていうのが無い人だと顔だけみたい」


「なるほど。んで、戻るのは……これか」


 左向きの矢印があったので、それに触れると先程の一覧に戻る。

 まるで、ネトゲでもやってるような感覚だ。

 もしかしたら、過去の住人に地球からの転生者が居たのかもな。

 試しにレムレス達にもやらせると、同じように顔と情報が映し出された。

 そして、情報だけでなく現在地なども分かるらしい。

 現在地は、全員城の宝物庫になっていた。当たり前だけども。

 アウラに言われて、権限者メニューとやらを開いてみると、どうやら新規登録者は権限者になるようにデフォルト設定されていたようだ。

 とりあえず、後から住民になる奴に悪用されないとも限らないので、今後の住民には権限を与えないように設定しておく。

 場所まで把握できるというのは、使い方によっては凶悪だしな。

 今後は、適宜権限を与えていこうと決めるのだった。

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