第47話
「さて、説明してもらいましょうか?」
事が片付くと、レムレスがズイッと詰め寄ってくる。
ちなみにアルトだが、俺が手を下すまでもなくレムレスとアグナの手によって消滅している。
成仏では無い。文字通り消滅だ。一片の痕跡も残さず、転生も何もかもを断ち、この世からの断絶である。
彼女達を怒らせたのだから当然と言えよう。
……まぁ、仕方ないか。
「分かった。まず、俺の額のこれは確かに魂喰の宝玉だ」
俺の言葉に、アウラが身を竦める。
さっきまで、自分を長年苦しめていたのだから当然だろう。
「ただ、厳密に言えば魂喰の宝玉……を模した偽物だ」
だから、これは生きている生物から問答無用で命を奪ったりしない。
もしそうだったら、俺は意地でも隠遁生活を貫いてただろう。全ての関わりを断って。
「レムレスには、確か俺の不死身の条件を言ってなかったよな?」
「はい、不死身としか聞いてませんでした」
「……俺の特性は『ストック』。要は、命を無限に溜め込めるんだ」
シューティングゲームの残機と言えば分かるだろうか。要は、死んだら命を一つ消化して復活するのである。
ちなみに、あくまでストックするだけなので溜めこむ手段は別に用意する必要がある。
「そして、この宝玉が俺の核であり……倒したモンスターから命を吸い取るってわけさ」
生物であれば、人間でも対象になるのだがアウラも居るし言わないことにする。
ちなみに、俺が蘇生させた人間は別だ。まあ、それは
宝玉で吸い取った命を俺の特性で溜めこむ。
これが、俺の不死身のカラクリである。
なので俺を殺すには文字通り死ぬまで殺すか『不死殺し』で殺すかのどっちかとなる。
「……マスターは、それを今まで私に内緒にしてたんですね?」
「私にも秘密にしてたんだ」
ひぃ! レムレスとアグナの視線が怖い!
「ち、違うんだ。ほら、二人をあんまり心配させたくないって思ってね?」
完全な不死身なら心配はほぼないが、制限付きと知れば彼女達も気にしてしまうだろう。
だからこそ、俺は内緒にしてたのだ。
「……まあ、良いです。こうして教えていただけのですから」
「そうだね」
正直、折檻を覚悟していたのだがレムレス達は軽く息を吐きながら許してくれる。
た、助かった……。
「ただし」
直後、レムレスが発した言葉にビクッとなる。
「今後、大事な事を内緒にしたら……ただじゃおきませんからね?」
「肝に銘じておきます」
レムレスの凍てつく視線を受けた俺は、素直にそう答えるのだった。
◆
「骨のお兄ちゃん……ありがとう」
俺の説明を終えて落ち着いた後、アウラがお礼を言ってくる。
長い年月を経て、ようやく呪いから解放されたアウラが満面の笑みを浮かべていた。
「いや、アウラが耐えてくれたおかげだよ」
もし、彼女の精神が弱ければ解呪するまでに心が壊れてしまっていただろう。
「でも……ありがとう。もちろん、後ろのおねーちゃん達も」
「私は当然の事をしたまでです」
「私も、あの骨のおじさんにムカついてたからね」
レムレスやアグナも、どこか照れくさそうに答える。
「これで……皆の所に行ける……」
アウラは、そう言うとふわりと浮かび上がる。
おそらく成仏するのだろう。この世界に仏教は無いから、厳密に言えば成仏という言葉はおかしいのだが、まあ他に分かりやすい言葉もないしニュアンスが伝わればいいだろう。
この世界での言語の翻訳も成仏に変換されるし。
「皆の事は……生まれ変わっても忘れないよ」
そう言うアウラの体はドンドン薄くな……ったりはせず、彼女は唐突に体の動きをぴたりと止める。
「「「……?」」」
急に動きを止めたアウラに、俺達は揃って首を傾げる。
一体どうしたのだろうか?
「あ、あの……」
「どうかしたか? アウラ」
アウラは、地面に降り立つと何やら言いにくそうにモジモジする。
「成仏って……どうやるの?」
上目遣いでこちらを見ながら、アウラは恥ずかしそうにそう言うのだった。
◆
「あー……これは、完全にモンスター化してるわな」
「モンスター化?」
ずっこけつつもアウラの状態を調べながらそう言うと、彼女は首を傾げて尋ねてくる。
「そのまんまの意味だよ。アウラは、俺達と同じアンデッドモンスターになったって事さ」
魂喰の宝玉があったせいで普通の幽霊と勘違いしていたが、どうやらアウラはレブナントになっていたらしい。
レブナントというのは、この世界のゴースト系モンスターでは最上位に位置する。
しかも、元々が人間の為知恵があるから、最初から魔人クラスだ。
おそらく、なにかしらの魔人特性もあるだろう。そればっかりは、本人が自覚しないと分からないが。
「じゃあ、私……皆の所に行けないの?」
アウラは悲しげな表情でそう言う。
ちなみに、魂喰の宝玉を壊した事で、街中に居た全てのアンデッドも解放されて今は静かになっている。
「一応、成仏させる方法はある……けど、それは光属性が使える奴じゃないと無理だ」
それに加えて苦しまずに……という条件があると聖職者の中でも上級レベルじゃないと無理だろう。
ディオンも確かに光属性ではあるが、まだ修行が足りないから無理だと思う。
モンスターではあるので、倒せば成仏は出来るのだがそんな事は当然やりたくない。
「一緒に連れていくことは出来ないんですか?」
「それは……難しいかなぁ」
アウラの魔力は相当な物だ。
魂喰の宝玉の影響もあるだろうが、長年蓄え続けたお蔭でとんでもない事になっている。
しかも、彼女自身はそれを制御できない。
そんな人物が街に出ればどうなるか? 当然、騒ぎになってしまう。
平和を願う彼女は、もちろんそれを望まないだろう。
それよりも何よりも、彼女は半透明というあからさまな外見だしな。
「一人は……もう嫌だよぉ……」
アウラは、膝を抱えて泣き出してしまう。
俺だって本当は何とかしてやりたいさ。だけど、良い考えが浮かばない。
「お兄ちゃん達も、どこかに行っちゃうんでしょ? 私、初めて他の国の人に会ったのに……寂しいよ」
「うん? 初めて会った? 生前も含めて?」
俺が尋ねると、アウラはコクリと頷く。
「あのね、お父さんから聞いたんだけど……この国って、他の国の人達が入れないようにしてあるんだって。だから私、外の人達と会った事無いの」
この街、というか国全体に人払いの結界を張ってるって事か?
確かになんか結界みたいなのは張ってるなぁとか入る時には思ったが。
だが、そんな広範囲に強力な人払いの結界を張る事が出来るのか?
「あー!」
思い出した! あったわ、そんな国!
「お、お兄ちゃん……急に大声出さないでよ。びっくりしたよぉ」
アグナが耳をふさぎながら文句を言ってくる。
「あ、ごめん。ちょっと思い出した事があって」
「思い出した事、ですか?」
「ああ。昔、師匠から魔導を極めた国ってのがどっかにあるって話を聞いてたんだよ」
「もしかして、それが……」
「ああ、この国だ」
師匠からは、その国は外交を断った人を寄せ付けない幻の国だと聞いていた。
はるか昔にとある事件で亡国となり、今も結界は健在でその場所すらも不明。
アウラの言葉が真実ならば、まさにこの国がそうではないのだろうか。
アルトも魔導帝とか分不相応な肩書き名乗っていたしな。
国名までは流石に分からなかった。師匠も、ここを見つけられなかったらしく、存在も伝承でしか伝わって無かったからな。
まさか実在するとは思っていなかったが。
「アウラ。この城に宝物庫とかあるか?」
「宝物庫? うん、地下にあるよ」
「何ですかマスター。アウラさんの事を放っておいて泥棒ですか?」
俺がアウラに尋ねていると、レムレスが失敬な事をほざいてくる。
「ちげーよ。ちょっと確認したいことがあるんだ」
もし、人払いの結界が今も健在ならば、文字通り宝の山である宝物庫もあの状態であるはずだ。
「じゃあ、アウラ。早速で悪いんだけど案内してくれるか?」
「うん、分かったー」
アウラは頷くと、床をすり抜けていってしまう。って、おい!
「アウラ、ストップストップ! 俺達は、すり抜けられないから普通に通れる場所で頼む!」
「あう、ご、ごめんなさい」
俺の言葉に、アウラはしょぼんとしつつ謝るのだった。
◆
ちょっとしたハプニングを交えつつ、俺達はアウラに案内されて宝物庫へとたどり着く。
生意気にも頑丈そうな錠がされていたので、レムレスに解錠(物理)してもらった。
「おお、やっぱりか」
宝物庫に入った途端、俺は思わず感心する。
そこには、魔導に関わる物ならば垂涎ものの魔導具がゴロゴロ転がっていた。
そして、その光景を見て俺は確信する。
――人払いの結界は、まだ健在であると。
もし、結界が無いのなら宝物庫はとっくに荒らされているはずだ。
荒らされているどころか、鍵もそのままだったしな。
という事は、この街……いや、国か? どっちでもいいが、ここに居る限りはイレギュラーな事が起きない限り、まず安全だ。
「そうなると……ふむ」
「骨のお兄ちゃん、どうかしたの?」
「一人で考えてないで、いい加減に教えてくださいよ」
「そうだよ、さっき隠し事は無しって約束したばっかでしょ!」
三人が口々にそんな事を言う。
いや、別に隠し事してたわけじゃないんだけどな。
「いやな、大したことじゃないんだけど……ほら、俺って闇属性の地位向上の他に安息の地も探してたじゃん?」
「まさか……」
俺の言葉に何かを察したのか、レムレスがこちらを見つめてくる。
相変わらず察しの良い奴だ。
「そう……アウラの一人ぼっちになりたくないという願いを叶えながら、俺の願いも叶える方法……それは、ここを俺達の国にする事だ!」
世間一般から爪弾きにされている者達を集めて、はぐれ者の楽園をここに建国することを俺は誓う。
そうすればアウラも寂しくないだろうし、皆から爪弾きにされている者だからこそアウラを邪険にしたりしないだろう。
天才もびっくりな名案に、俺はふんぞり返ってドヤ顔を披露する。
ほとんどノープランだけどな!
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