第25話

 出発の準備などがあったので、俺達は王都に行くと決まってから二日後に出発をする事となる。

 ディオン達が大きな馬車を借りてくれたので、全員一緒に行ける。

 普通は、そんな大きな馬車は貴族や大商人くらいしか使えないのだが、そこは一等級冒険者という事で、特別に貸してもらえたらしい。

 色々便利だな、一等級冒険者。

 そういえば、師匠も一等級だった気がする。本来、真祖の吸血鬼である師匠は冒険者になれないのだが、何やらコネがあったようで無理矢理冒険者になったらしい。

 

「それにしても、王都なんて久しぶりだなぁ」


「おや? 以前にも来たことがあるのかい?」


 馬車にゴトゴト揺られながら窓の外を眺めつつポツリと呟けば、ディオンが尋ねてくる。


「まあ、昔は冒険者だったしね。他の奴らにくっついて世界中を旅したもんさ。勿論、王都にも行ったよ。確か、魔法学園が無かったっけ」

 

 今から行く王都は、四十年くらい前に一度行ったきりだから、あやふやである。

 ちなみに、俺は冒険者歴は十五年。そこから、三十年リッチをやっている。

 リッチ歴は、まだまだ浅い。


「ああ、確かにありますよ。実は、私もそこの卒業生なんです。五年くらい前に卒業しましたね。王都の魔法学園は、世界でもトップクラスで各国から入学者が集まるんですよ」


 俺の言葉に対し、ジルがそう説明する。

 へー、そんなんだったっけか。もう、すっかり忘れてるなぁ。

 

「ジルはな、首席で卒業してる超優等生なんだよ。実は、魔法も闇以外の全部使えるしな」


「へぇ、それは凄いですね。うちのマスターなんか、馬鹿の一つ覚えみたいに闇属性しか使わないんですよ」


 レムレスが、ジルを褒めつつ俺をけなすという器用な真似をする。

 泣くぞ、この野郎。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが闇属性しか使えない雑魚でも、私が守ってあげるから」


 うん、アグナや。さらっと無邪気に毒づくのやめようか。

 無邪気の一撃が、一番心に刺さるんだよ。


「まあ、こればっかりは適性ですからねぇ。私から見れば、闇属性を極めたムクロさんの方が凄いですよ」


「いやぁ……それ程でも」


 素直に褒められた事で、俺は若干照れくさくなり頬を軽く掻く。


「あまり褒めないでください。マスターは、褒められ慣れていないので、下手に褒められるとうっひょひょーいとか奇声を上げて裸で踊り回りますから」


「しねーよ、そんな事!?」


 お前は、俺を一体どういう風に見てるんだ。

 それじゃあ、ただの変人じゃねーか。


「なるほど。これからは迂闊に褒めないように気を付けるよ」


 レムレスの言葉を聞いて、ディオンが神妙に頷きながら答える。

 いや、お前も真面目に受け止めんじゃねーよ。真面目か。

 

「ディオンは、見ての通りくそまじめだから、冗談が通じないんだよ」


「失敬な! 私だって冗談の一つや二つ言えるぞ!」


 軽く笑いながら言うファブリスに対し、眉を吊り上げながらディオンが抗議する。


「そ、それは……初耳、かもです」


「イニャスの言う通りだ。お前の冗談なんて聞いたことないぞ。試しに何か言ってみな?」


「えぅ!? あー、いや……そのだなー」


 イニャスとファブリスにツッコまれ、ディオンは途端にしどろもどろとなる。

 まあ、何か面白い事を言えと急に言われたら普通は思いつかないよな。

 無茶振りにも程がある。


「あー…………! 猫が寝ころんだ!」


 視線を宙に泳がせてしばらく悩んでいたディオンだが、思いついたのか物凄いドヤ顔で叫ぶ。

 瞬間、辺りには何とも言えないような微妙な空気が流れる。

 ディオン、それ冗談やない。ダジャレや。

 しかし、あまりにも見事なドヤ顔を披露しているので、逆に俺達はいたたまれなくなって、何も言えずに居た。


「ディオンさん、それはダジャレです。点数で言うなら三点です」


「……ちなみに何点中?」


「百点満点中です」


 しかし、空気クラッシャーレムレスの手により、ディオンの精神が粉々に破壊されたのだった。



「到着っと」


 レムレスのせいで、お通夜の空気になった馬車内で過ごす事三時間弱。

 俺達は、ようやく王都へと辿り着く。


「ほら、ディオン。いつまでもいじけてないで。もう、王都着いたぞ」


「どうせボクは……冗談の一つも言えないつまらない人間だよ……」


 すっかり精神が参ってしまったのか、さっきからこの調子である。

 いい加減、立ち直ってほしんだけどなぁ。

 仮にも一等級冒険者が豆腐メンタルすぎんだろ。 

 俺を見ろ。レムレスに何度罵倒されようとも逞しく生きている(?)じゃないか。


「ほら、ディオン。シャキっとしろシャキっと。今から、ギルドに報告に行くんだからそんなんじゃ、お前のファン達をガッカリさせるぞ」


 ディオンの様子に見かねたファブリスが、彼女の背中を力強く叩いて喝を入れる。

 

「うげっ!? い、痛いじゃないかファブリス」


 背中を叩かれて、ようやく正気に戻ったディオンがファブリスに向かって不満を言う。


「ようやく立ち直りましたね。まったく、リーダーなんだからもっとしっかりしてください」


「そ、その通り……です。ディ、ディオンさんが弱っていると、私達のし、士気に……」


 三人の直接攻撃で、ディオンは唸る。

 まあ、三人の言う事は正論だしな。リーダーは、いつでもドカッと構えていなければならない。

 上が頼りないと、その下も不安になってしまうのだ。

 

「……分かったよ、ごめん。ちょっとショックだったんで、つい……ね。今度からはレムレス君の精神攻撃にも耐えられるようにしておくよ」


「ほほう……言いましたね?」


「言いましたね? じゃねーよ。元はといえば、お前が原因じゃねーか」


 何故か不敵な笑みを浮かべるレムレスの頭に、俺は軽くチョップをする。


「あう。痛いです、マスター」


「自業自得だ、馬鹿。お前の口は凶器なんだから、少しは自重しろ」


「……善処します」


 ああ、これ絶対改善しないパターンだわ。

 善処しますという言葉ほど信用できないものは無い。


「ディオンさんには、手加減してくれると助かります。……さて、では私達はギルドに報告に行ってきます。ムクロさん達はどうしますか?」


 ジルの質問に、俺は顎に手を当てながら考える。

 ディオン達と一緒にギルドについて行ってもいいが、そうなると低級冒険者が一等級冒険者に金魚のフンよろしくくっ付いていると見られて、要らぬ厄介事を引き寄せるかもしれない。

 ギルドには行くが、時間をずらして行った方が良いだろう。

 それに、先程からアグナが目を輝かせて王都を眺めているので、先に観光をさせてあげたい。


「俺達は、王都の観光でもしてるよ。アグナがさっきから、うずうずしてるからな」


「お兄ちゃん! 人がたくさん居るよ! 人がゴミの様だよ!」


 人の多さに興奮しているアグナは、人ごみを指差しながら、目をやられそうなセリフを叫ぶ。

 ……無垢を司ってるとは言ってたが、無垢=善ではないんだよなぁ。

 無邪気な邪気っていうか、善悪のつかない子供といった感じだ。

 見た目は天使なのに、垣間見える邪神の片鱗に俺は少しだけ背筋が冷たくなる。


「ま、まあ、それなら……そうだな、四時間後に集合でどうかな? こっちも色々報告があって時間かかるだろうし、そっちも観光をゆっくりしたいだろうしね」


 アグナのセリフに若干引きつつも、ディオンがそう提案する。 

 

「ああ、特に異論はないよ。集合場所はここ?」


「うーん、どこが良いかなぁ」


「あそこなんて、どうだ? 俺達がいつも使ってる宿」


「あ、そ、そうですね。あそこならめ、目立ちますし」


 悩むディオンに対し、ファブリスとイニャスが提案してくる。


「ああ、確かに。じゃあ、四時間後に『深き者ども亭』という宿に集合だ。場所については、店の人に聞けば分かるだろう」


「りょーかい」


 俺はそう答えながら、街の中心にある時計塔の時間を確認する。

 今、昼の一時だから五時には集合か。

 まずは、昼食にしてから観光って感じだな。

 ディオン達と別れた俺達は、飯を食べる場所を探す為に王都へと踏み出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る