第24話

「ムクロ君、王都へ来ないかい?」


 邪神事件から三日後、イニャスにも俺の素性について説明し終わったらディオンがそんな事を言ってくる。


「どうしてまた?」


「いやね、ムクロ君は闇魔法の地位向上を目指してるんだろう? だったら、王都の方が人も多いし、効率が良いかと思ってね。その分、依頼も多いからすぐに等級上がると思うよ」


 なるほど、ディオンの言う事にも一理ある。

 例外はあったが、基本この街は平和で依頼もそんなに難易度が高く無いものばかりだ。

 等級が低い内は良いが、高くなってくると次の等級に上がるのも厳しくなるだろう。

 実際、俺も目ぼしい依頼が無くてディオン達に呼ばれるまで暇してたくらいだ。まあ、俺としてはまったり出来て良かったんだけどな。


「それに、ボク達も報告に戻らないといけないしね。ジルもムクロ君に教わりたいことがあるって言うから、出来れば一緒に来てほしいんだ」


「教わりたい事?」


「ええ。ムクロさんは闇魔法を極めているのですよね? 闇魔法は、習う手段が無いので、ぜひとも教わりたいんです。勿論、下級の闇魔法でも構いませんし、相応のお礼はお支払いします」


 首を傾げる俺に対し、ジルがそう説明する。

 ふむ……闇魔法を教わりたい、か。

 それは別に構わない。金も貰えるのなら、特に断る理由はあるまい。


「まあ、空いた時間で良いなら教えるよ。俺は、見ての通りこの体だから疲労とかないし」


「ありがとう。恩に着るよ。あ、もちろん教わった魔法は悪用したりしないから安心してくれ」


「それに関しては特に心配してないさ」


 短い期間だが、こいつの性格は大体理解してるしな。

 それに、聖銀騎士パラディンであるディオンの仲間なのだ。悪人のはずが無い。

 ……それにしても、俺が教える立場か。師匠が聞いたら腹抱えて笑いそうだな。


「あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」


「何だい?」

 

「王都に行けば、七罪の王セブンス・ロードの情報って集まったりする? 居場所とか分かるのが理想なんだけど」


 現在、七罪の王セブンス・ロードは全員所在が不明とされている。

 他の奴らは、ぶっちゃけどうでも良いが師匠の安否だけは確かめておきたい。


「んー、どうだろうなぁ。何せ、全員死んだなんて噂されるくらい所在がつかめないからなぁ」


 ファブリスが顎に手を当てながらそう答える。

 

「で、でも……一人は目の前にい、居るし……他の王様も多分、生きてる……」


 イニャスが、顔を赤くしながら俺の方を見てそう言う。

 人見知りで赤くなってるとは思うのだが、可愛い顔を赤面させて見つめられると、うっかり勘違いしてしまいそうだ。

 ちなみに、俺達はもうイニャスの種族を知ってるので、普通に兜を脱いでいる。


「マスター、誰か探してるんですか?」


「ああうん。その、師匠をね。ほら、強欲の王ロード・オブ・グリードの馬鹿のせいで賞金が掛かっただろ? 師匠も俺と同じ不死身だから、大丈夫だとは思うけど『不死殺し』なんて武器もあるから気になってね」


 俺がそう答えてやると、レムレスは成程と頷く。


「師匠? 君に師匠なんて居たのかい?」


「ああ、俺が人間だった時に一緒にパーティ組んでてね。その時に闇魔法も教えてもらったんだ」


「お兄ちゃんの師匠ってどんな人なの?」


 俺が説明していると、アグナが興味津々といった感じで聞いてくる。

 他の面々も聞きたそうだ。

 

「どんな人って言ってもなぁ……一言で言えば、鬼軍曹?」


 俺は過去の事を思い出し、遠い目をしながらそう答える。


「な、なんだか壮絶な目にあったようだな」


 俺の雰囲気を察したのか、ファブリスが若干引き気味に言う。

 壮絶なんて生易しいものじゃないっつーの。

 何度死にそうな目に遭った事か。……いや、実際何度か死んだな。

 その度に完全蘇生リザレクションで蘇生させられてたっけ。そのおかげで、今ではすっかり死に対する耐性がついてしまったのだ。

 だから相手の攻撃に対する警戒が薄いのは、そのせいかもしれない。

 

「一体、七罪の王セブンス・ロードの誰なんだい? 君の師匠ってのは」


 ディオンも怖いもの見たさというかそんな感じで、恐る恐る尋ねてくる。

 まあ、ディオン達にも情報集めておいて欲しいし、言ってもいいか。


「……憤怒の王ロード・オブ・ラース


 俺がそう口にするとディオン達からどよめきが起こる。

 レムレスとアグナはピンと来ないのかきょとんとしている。

 まあ、七罪の王セブンス・ロードを知ってる奴ならそういう反応になるわな。

 賞金額も二番目に高いし。

 ちなみに一番目は強欲の王ロード・オブ・グリード。こいつはまぁ、当然だな。

 そして俺は三番目である。特に何もしてないのに闇魔法使いってだけでこれだ。

 世知辛い世の中である。


「えーと……違ったらすみません。憤怒の王ロード・オブ・ラースってもしかしなくても『真祖の姫騎士』ですか?」


「はい、もしかしなくてもその通りです」


「……なるほどなぁ。アレが師匠ならそりゃ、ムクロも強いわ」


「ある意味納得だな」


「ですぅ」


 ディオン達は、全員腕組みをして納得したように頷く。


「お兄たん。真祖の姫騎士ってなぁに?」


 アグナがきょとんとしながら聞いてくる。

 ちょっと呼び方に変化球を付けてくるところがあざと可愛い。


「教えてください、お兄たま」


 お前まで乗っかるなよ、レムレス。


『真祖の姫騎士』カーミラ・エルゼベエト。

 齢八百歳を超える真祖の吸血鬼である。

 見た目は銀髪ロリの美少女だが、中身はとんだ鬼ババアだ。

 二つ名の通り、黒い鎧に身を包み騎士の格好をしている。

 いうなれば、魔法騎士マジック・ナイトである。魔法も剣も特級品というチートオブチート。それが師匠だ。

「くっ殺せ!」とか言いそうな二つ名だが、むしろ挑んだ方が殺してくれと懇願するような無双ぶりである。

 多分、俺達七王の中でも最強なんじゃないだろうか。


「――とまぁ、師匠はそんな感じだ」


 現在の師匠を知らないので、当時の知っていることをレムレスとアグナに説明してやる。


「姫騎士なんて綺麗な二つ名が付いてるけど、あまりの悪魔ぶりに少しでも恐怖心を和らげようとして付けた名前らしい」


 他にも、暴君、魔王なんて呼ばれている。

 もし、強欲の奴に師匠が加担してたら、おそらく誰も勝てずに世界征服されてたと思う。

 ……なんか、特に心配しなくても良いような気がしてきた。

 

「ボクの先祖も、実は一度彼女に会った事があるらしい。もっとも、挑んでくる相手にしか攻撃しないという性格のお蔭で何とか逃げ切れたらしい」


 ディオンが、かつて聞いたであろう話を話す。

 師匠は戦闘狂である。無類の戦い好きで常に強者を求めている。

 この間のオルカと話が合うかもしれない。

 俺を育てたのも、もしかしたら自分に見合う強者にしようとしてたのかもな。

 その後、色々あって別れてしまったが。


「ふーん、カーミラって人凄いんだねぇ。お兄ちゃんとどっちが強いの?」


「純粋な戦闘力なら師匠が上だな。色んな策巡らせて搦め手で行けば、もしかしたら俺が勝つかもしれないけど」


 なにせお互い不死身なのだ。

 チャンスさえ掴めれば、俺にも勝機はある。まあ、挑まないけどな!

 

「私は、強さには特に興味がありませんね。一番気になるのは、そのカーミラさんという方が、マスターと一緒に居た時に男女の関係になったかどうかです」


「ぶふっ!?」


 レムレスの唐突なトンデモ発言に俺は思わず吹き出す。

 子供がいる前で何を言っとるんだね、君は!


「あ、それは俺も気になるな」


 レムレスの言葉にファブリスが乗っかる。


「私も気になりますね」


「わ、私も……」


「その……あの……ボクも、き、気になるかな」


 …………なんでこう、どの世界でも女子共はコイバナが好きかなぁ。


「まぁ、そういった関係は…………ナイヨ?」


「こっちを見て言ってください、マスター」


 いやまぁ、若気の至りというかね? 師匠の本性知る前は、惚れてたよ?

 だって、合法ロリの美少女とか最高じゃね? 見た目ロリでも合法だよ。

 そりゃ惚れるさ。すぐにそんな幻想はぶち壊されたがな!

 

 女子達全員から疑惑の眼差しを向けられた俺は、過去の過ちを知られない為のらりくらりとかわし続けるのだった。

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