第22話

「セブンス……って、あの七罪の王セブンス・ロードかい!?」


 俺の明かした事実に、ディオン含め他の面子も驚きの表情を浮かべる。


「まあ、その七罪の王セブンス・ロードだ。俺のフルネームは、ムクロ・シカバネって言ってね、シカバネの方で有名だったから名前だけ名乗るようにしてたんだよ。あ、他言無用ね?」


「いやまぁ……言いたくても言えないんだけどな」


 俺が人差し指を一本立てて口元に持っていき内緒のポーズを取ると、ファブリスが呆れたように言う。

 それもそうか。


「にわかには信じがたいですが……蘇生魔法なんていう高等闇魔法を目の当たりにしてるので、信じるしかありませんね。貴方が七罪の王セブンス・ロードだというのなら納得もできますし」


「そうだな。しかし、こんな所に居ても良いのか? 七罪の王セブンス・ロードは、多額の賞金を懸けられていたはずだが。いやまぁ、君が悪人じゃない事は理解しているし、約束を違えるつもりはないけども」


 ディオンの言う事ももっともだ。

 だが、有名なのはあくまで『シカバネ』という名前のリッチであって、ムクロという名前の銀髪イケメンではない。

 俺がヘマをして人化を解かない限りは、まずバレないだろう。


「そこら辺は……あれだ。なんとかなるだろ」


「楽観的だなぁ、お前」


 俺の言葉にファブリスが呆れながら言う。


「もっと言ってやってください。ファブリス様。このニートはとことん世の中舐め腐ってやがるんですよ」


「随分、きつい言い方ですね。確か、レムレスさんはムクロさんの従者でしょう? 流石に、どういう経緯でそうなったかまでは、聞きませんが従者としての態度ではないのでは?」


「もっと言ってやってよ。レムレスったら、俺に対して辛辣すぎるんだよ。もう少し忠誠心が高くても良いと思うんだ」


 レムレスの態度に眉をひそめながら尋ねるジルに同意して、俺は愚痴を言う。


「ああ?」


「やんのか?」


 俺とレムレスはお互いに睨み合いながら一触即発の状態になる。


「もー、喧嘩はめーだよ?」


 俺の膝に座っていたアグナが、頬を膨らませながら怒ってくる。

 可愛い。


「ああ、ごめんね? そうだね、喧嘩はダメだね」


 俺は笑みを浮かべながらアグナの頭を撫でて謝罪する。

 アグナは天使だなぁ! 邪神だけど。

 まさか、この俺がこんなに庇護欲を掻き立てられるなんて、アグナは魔性の女だ。


「こほん。俺としては、特に世界を支配しようとか考えてないしね。強欲の王ロード・オブ・グリードくらいなもんだよ。そんなアホな事するの」


 まさに強欲の名にふさわしく、あいつは何でも欲しがる。

 どうせ、強欲が極まって世界が欲しくなったんだろう。

 失敗してたが。まじざまぁ。


「確かに、他の六王は干渉してなかったらしいですからね。もっとも、人々はそれで楽観せずに、七王すべてに懸賞金を懸けましたが」


 まったく、いい迷惑だよなぁ。


「……とまぁ、そういう訳で俺としては安穏とした生活が得られればそれで満足なわけだ。ただ、禁忌の闇属性とリッチのダブルコンボで、俺を討伐しようって奴が後を絶たないわけ。もっとも、俺は不死身だから倒せないんだけどな」


 例外を除いて。


「なるほど。事情は理解した。確かに、リッチで闇魔法の使い手となれば、危険視されるだろう。正直に言うと……ボクも認めてはいない。助けられてもらっておいて失礼ではあるが」


 まあ、ディオンは職業の関係上そうだろうよ。

 俺も別に全員に認めさせようとは思っていない。ある一定以上の市民権が得られればそれでいいのだ。


「俺は、今回の事で評価が変わったな。禁忌だって言われてたから気にしてなかったけど、蘇生魔法とか普通にすげーしな」


 ファブリスは、細かい事は気にしない性格のようであっけらかんと言い放つ。


「私も……まぁ、闇魔法は書物も禁書扱いで学ぶことが出来なかったのですが、知の探究者としては特に嫌な感情は持っていませんね。むしろ、ムクロさんから教わりたい気分ですよ」


 ジルも眼鏡を光らせながら、興味深そうにそう言う。

 美人のねーちゃんと個人レッスンか。……悪くないな。


「お兄ちゃん?」


「マスター?」


「はいごめんなさい。少しやましい事を考えました」


 横と下から突き刺すような視線を感じたので、俺は急いで謝る。

 くそう、レムレスだけじゃなくてアグナも察し良すぎだろ。

 考える事も許されないのか。


「とりあえず、俺についてはこんなもんかな。レムレスについては……めんどいのでパス」


「ま、まあそこまで深く詮索はしないさ。……君の正体については分かったから、話を変えよう。そこの邪神……アグナ君はどうするつもりだい?」


「さっきも説明した通り、俺とレムレスが預かるよ。他の人に預けるよりは、よっぽど安全だろうしな」


「確かにそうだろうね。君は、信頼に値できる人物だし、七罪の王セブンス・ロードに手を出そうとする愚か者も居ないだろうしね」


 俺の言葉に、ディオンはあっさりと頷く。

 やっぱり人助けはしとくもんだな。信用ってすごく大事。

 

「ああ、そうそう。アグナは俺が預かるんだけど、昨日の邪神の儀式の阻止はディオン達がやったって事で報告しておいて」


「何? それだと、君の手柄にならないのではないか?」


 俺の言葉を聞いて、ディオンは意外そうにする。


「そうですよ。ムクロさんは市民権を得たいんですよね? でしたら、我々を救って儀式も阻止したと一緒に報告すれば一気に一等級になって、目標に早く近づけるかもしれませんよ」


 ジルも、俺を諭すようにそんな事を言う。

 まあ、確かに一等級チームを救って、尚且つ占星十二宮アストロロジカル・サインも撃退とくれば、ジルの言う通り一等級になれるだろう。

 だが、


「俺はね、安寧が欲しいんだよ。だから、知名度もそこそこで良い。あまり有名になりすぎると、別の意味で騒がしくなっちゃうじゃない? だから、今回の手柄はディオン達の物って訳だ」


 俺の説明を聞いて、三人は納得したような表情を浮かべる。

 うむ、やはりこいつらチョロいわ。


「納得はできた。しかし……君は欲が無いんだな」


「不老不死になると、色々枯れるもんなんだよ。何せ、永遠に生きるからやりたい事やり尽くしても死ねないし」


 なにせ、時間は無限にあるのだ。

 何かがやりたい、何かが欲しいと思えば時間さえかければ、何でも実現できてしまうのだ。

 人間だった頃よりも、欲が無くなるのは当然と言えよう。


「へっ、そこら辺の貴族連中に聞かせてやりたいな。奴ら、無駄に欲張りだから不老不死の方法とか探してるんだぜ。金に糸目つけずにな」


 俺の言葉を聞いてファブリスは鼻で笑いながら、忌々しそうに言い放つ。

 不老不死関係で、何やら貴族から嫌な目にあったんだろうな。

 ご愁傷様である。


「ぱ……お兄ちゃん、お腹空いたー」


 俺達が話していると、お腹を押さえながらアグナが訴えてくる。

 そういえば、昨日の夜から何も食べてないもんな。

 ていうか、邪神て何食べるんだ? 人間か?

 

「よし、じゃあ食事行こうか」


 まあ、とりあえずそこら辺の飯屋行って何か食べさせよう。

 人間食べたいとか言い出さない事を願うしかない。


「それじゃ、アグナも腹減ったっていうし、俺達はもう行くよ。イニャスは、多分明後日には目が覚めると思うから。あと、しばらくはこの街に滞在する予定だから、何か用事有ればギルドに伝言か『生ける炎亭』って所に泊まってるから、そこに来てくれ」


「分かった。色々ありがとう。表立っては応援できないが……君の夢が叶うと良いな」


 ディオンの言葉に俺はお礼を言うと、その場を後にしたのだった。



「マスター、あの人達に投げましたね?」


 街中で適当な飯屋を探していると、レムレスが話しかけてくる。


「何の事だ?」


「とぼけなくても良いですよ。もし、昨日の事をマスターが報告すれば占星十二宮アストロロジカル・サインは、必ずマスターに辿りつくでしょう。そして、報復に来ます。面倒くさがりなマスターとしては、それは望まない。だから、もっともらしい理由をつけて手柄を譲ったのでしょう?」


「……流石だな」


 俺の考えを全て読まれてしまっていた。

 俺としても、降りかかる火の粉は払うが極力面倒事は避けたい。

 それが占星十二宮アストロロジカル・サインなんていう世界規模の裏組織なら尚更だ。

 だから、ディオン達には悪いが盾にさせてもらったというわけだ。

 彼女達が報告すれば、自然と占星十二宮アストロロジカル・サインの目は戦乙女の行進ヴァルキュリアに向く。

 あの時居た組織の連中は皆殺しにしているので、彼女達以外には目撃者が居ないので確認しようも無い。

 それに、一等級冒険者率いるパーティならばと皆が納得するだろうしな。


「何年一緒に居ると思ってるんですか。それくらいお見通しですよ」


「有名になりすぎたくないっていうのも事実だよ。あんまり有名になっても良い事無いしな」


 七罪の王セブンス・ロードが良い例である。


「お兄ちゃんをイジメる悪い人は、私がぶっ殺すから大丈夫だよ!」


 俺とレムレスの会話を聞いて、アグナは笑顔でそう言う。

 可愛い顔して随分物騒だな。仮にも邪神という事か。


「それは有りがたいけど、女の子がぶっ殺すなんて言葉、使っちゃダメだよ?」


 俺には、アグナを復活させたという責任がある。

 間違った道に進ませず、真っ当に育てるのだ。


「じゃあ、皆殺し? 殲滅?」


 んー……あまり変わってないけど、さっきよりはマシか。

 

「アグナさん、アグナさん」


「なぁに?」


「私も一緒に守ってくださいね? 何せ、私はマスターと一心同体なのですから」


「分かったよ、お姉ちゃん!」


 レムレスのその言葉に、アグナは元気よく返事をする。

 一心同体という部分をやけに強調してたような気がするが、気のせいだろう。

 その後、俺達は雑談をしながら適当な飯屋に入るのだった。


 あ、アグナは人間を欲しがったりせず、普通に食事をした。

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