第20話

 俺達はゾンビ化したバイルの案内の元、屋敷の地下へとやってくる。

 途中でバイルから聞いた話によると、この屋敷は昔から拠点として使っていたらしい。

 表向きは貴族の屋敷。裏では、巨大な悪の組織の拠点。

 なんともまぁ、ベタな設定である。

 しかし、貴族に成り済ますことが出来るくらいには権力があるという事でもあるから油断は出来ない。

 しばらく進むと、何やら仰々しい扉が目の前に現れる。

 バイルがその扉を開けば、中からむせ返る程のヤバい魔力が溢れ出してくる。

 どれくらいヤバいかって言うと、マジヤバい。

 もしこれが邪神の魔力であるならば、邪神の力は相当のものとなる。

 おそらく、この街くらいなら十分もあれば殲滅出来てしまうだろう。

 ここが儀式の場だと確信し俺は、バイルのゾンビ化を解き安らかに寝かせてやる。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 レムレスと共に部屋に入りながら、俺はポツリと呟く。

 この世界で邪神と言えば、一柱しか居ない。

 俺がこの世界に来るよりもはるか昔、『アグナキア』という邪神が暴れまわっていたらしい。

 それを、五英雄と呼ばれる五人の英雄が見事に倒し七分割に封印したとのことだ。

 その封印は確か……一つは結構昔に解けて、現在は六つらしい。

 解けた封印も、邪神の力が七分割されてたお蔭で事なきを得たとか。

 なんだっけかな……土属性の魔法使いがその邪神を倒したとかそんな事を聞いた気がする。

 んで、今ここにはまた別の一つがあるというわけだ。

 七分割されてる割には圧倒的な魔力を感じるので、全盛期の邪神はどんだけだよとツッコみたくなる。


「……なあ、レムレス。帰っても良いと思う? なんか、めんどくさくなった」


 七分割された邪神なら、一人でも倒せることが証明されてるのだ。

 わざわざ俺が行かなくても良いような気がしてきた。


「ダメに決まってるでしょう。何ほざいてくれやがってるんですか、このクソ骨は」


 わー、口わるーい☆

 

「今、この場で邪神に対応できるのはマスターしか居ないんですよ。邪神が復活したら、マスターの望む安寧の生活が得られなくなるかもしれません」


 むう、それは困る。

 元々安寧の暮らしが欲しくて闇属性の地位向上を目指しているのだ。

 邪神ごときに俺の計画を邪魔されるわけには行かない。

 もっとも、まだ復活してなさそうだから、その前に儀式を邪魔してしまえば良いんだけどな。

 そうこうしていると、何やら真っ黒なフードを被ったローブ姿の団体さんが見えてくる。

 目の前には、巨大な四本腕の禍々しい像。恐らく、あの像が邪神を象っているのだろう。

 そして、フードの奴らは床に描かれた魔法陣を囲むように立っており、何やら呪文を唱えていた。

 魔法陣の中央には、オルカ達の塒で見た宝玉が置かれており、怪しく光っている。

 

「ふむ、どうやら間に合ったみたいだな」


「っ! 誰だ!」


 俺の気配に気づいたのか、一人が声を荒げるとそれにつられるように他の奴らも一斉にこちらを向く。

 どいつも仮面を着けている為、性別や年齢が分からない。

 唯一、さっきの奴だけが声から男だと判断できた。


「やあ、どーも初めまして。ムクロって言います。よろしくお願いします、そして死んでください」


 警戒してくる相手に対し、俺は軽く挨拶しペコリと頭を下げた後、魔法を発動する。

 すると、俺の影から八つの巨大な黒い蛇が現れ相手に逃げる隙も与えずに一瞬で喰らいつくす。

 悲鳴すら上がらず、そこには既に人の居た形跡などまるで無かった。


暴虐の八つ首蛇ヤマタノオロチ

 

 それが俺の放った魔法だ。

 異世界より、凶悪な八つの頭を持つ邪竜を召喚するもので一度召喚すれば、俺が敵と認識した存在を一片の容赦もなく喰らいつくす。

 俺の持つ広範囲型の殲滅魔法の中でもお気に入りの魔法だ。

 邪竜を召喚し、尚且つ高火力で圧倒的な力を見せつける。

 まさに闇魔法の真髄とも言えるので、俺のお気に入りである。


「良かったのですか? いきなり全滅させてしまって」


 いきなり暴虐の八つ首蛇ヤマタノオロチを発動させた俺に対し、レムレスは首を傾げながら尋ねてくる。


「良いの良いの。邪神を復活させようって連中なんだ。説得したところで聞きはしないさ」


 普通に捕まえても、組織の手引きとかで脱獄するだろうしな。

 決裂すると分かっている無駄な会話に労力を割くつもりは、俺には一切ない。

 どっちみち悪人に人権は無いのだから、俺が正義である。


「確かに、それもそうですね」


 俺の答えを聞いて、レムレスはあっさり納得する。

 レムレスも、元は普通の一般人だったろうにアンデッド化の影響ですっかり、人間に対して情が薄くなったな。

 まあ、それが悪いって訳でもないけどな。


「さてさて、邪魔者も片付いたし宝玉をなんとかしなきゃな」


 目の前の拳大の赤い宝玉が邪神復活のキーアイテムになるというのなら、放っておくわけにもいかない。

 下手に壊したら何が起こるか分からないので、ディオン達に預けて然るべき所で預かってもらった方が、面倒事も少ないだろう。

 もし、ディオン達が壊しても良いと言うなら壊してしまった方が確実だが。

 俺はそんな事を考えながら、宝玉の元へと近づきソレを手に取る。


「……見た目は普通の宝玉ですね」


 俺が持っている宝玉を眺めながらレムレスがポツリと呟く。

 確かに、見た目は普通の宝玉と変わらない。

 禍々しい魔力を放ってなければ、普通に見逃してしまいそうだ。


「よし、ここに長居しててもあれだし、さっさと帰るか。ディオン達も蘇生しないとだしな」


「そうですね」


 俺の言葉にレムレスが頷いたのを確認すると、俺達は来た道を引き返そうと振り返る。


ピシリ。


 瞬間、何かにヒビが入るような嫌な音が聞こえる。

 恐る恐る音の原因であろう宝玉を見ると、まるで地面に落としたかのような大きなヒビが入っていた。 


「……マスター」


「ち、違う! 誤解だ! 俺は何もやってない!」


 レムレスの「何やってんだ、おめえ……はっ倒すぞ」という冷たい視線を浴びて、俺は無実を証明しようと慌てて言い訳をする。

 そんな事をしている間にも、宝玉のヒビはドンドン広がっていき、ヒビの間から光が漏れ始める。


「てりゃ」


 どうしようかとパニックになっていると、何を思ったかレムレスがいきなり宝玉を奪い取り遠くに投げ捨てる。


「ちょ、何やってんの!」


「いえ、なんだか嫌な予感がしましたので」


 俺の抗議に対し、レムレスはしれっとした表情で答える。

 投げ捨てられた宝玉は地面に激突すると、パリンと盛大な音を立てて割れて中から眩いばかりの光が放たれる。

 普通の人間なら目を瞑ってしまう程の眩しさだが、俺には特に何の影響もなく、中から何かが現れたのが見えた。

 光が収まり、姿がちゃんと確認できるようになったので近づいてみる。


「……女の子?」


 そこには八歳くらいの小さな女の子がスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。

 身長は大体百三十センチ程。足元まで伸びるカラスのように真っ黒な長い髪。

 まるで人形のような整った顔立ち。そして全裸。

 そういう趣味の奴らなら、間違いなく垂涎ものだ。そんな趣味が無い俺でもどこか惹かれる不思議な魅力を少女は持っていた。


「もしかして、この少女が邪神なのでしょうか?」


「いや、まさかー。だって、あの邪神像と姿が違いすぎるぞ」


 並々ならぬ魔力を持っているのは感じるが、目の前の少女と邪神像は似ても似つかない。

 普通、こういう像って実際の姿をモデルにするしな。


「……んぅ?」

 

 俺とレムレスが会話をしていると、その声で目が覚めたのか女の子は可愛らしい声を出しながらむくりと起き上がる。

 寝起きのせいか、しばらくボーっとしていた女の子はキョロキョロと辺りを見渡す。

 そして、意識が覚醒してきて俺に気が付くと、無邪気な満面の笑みを浮かべ口を開く。


「パパ!」


「…………はぁ!?」


 謎の黒髪少女は、俺を見るなりいきなりとんでもない事を言い放つのだった。



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