第19話

「今回は、本当に助かった。礼を言おう」


 ナナフシとバイルを倒し、館内に残っていた敵を一掃し状況が落ち着つくとディオンがお礼を言ってくる。

 ジルは溶けた片腕の腐食が止まったので止血し、イニャスは恐慌状態から何とか脱出していた。


「いやいや、気にしないで良いよ。こっちも色々打算があって助けたわけだし」


「打算とは……何ですか?」


 ジルが腕を押さえつつ警戒しながら尋ねる。

 助けてもらったとはいえ、見た目がスケルトンなのだから警戒はするだろうな。


「ああ、大したことじゃないよ。ほら、見ての通り俺って骨でしょ? 何かの拍子で一般人にばれたら絶対騒ぎになるから、その時に助けてもらおうと思ってね」


 実際、一等級や二等級の冒険者はよっぽどの事が無い限り、一般人からの支持は高い。

 彼女達が、俺は無害だと口添えすれば騒ぎは治められるだろう。

 他にも色々あるが、説明が面倒なので一番分かりやすい理由を説明する。


「なるほど……だが、君は本当にムクロ君なのか? 隣に居るのは、確かにレムレス君だが」


 ふむ。まあ、いきなり現れて本人ですと言っても信じられないわな。 

 俺は、本人だと証明するために人化をする。


「確かにムクロ君だな。……だが、どうしてスケルトン……じゃなかったリッチに?」


「えーと、実は俺も昔は人間だったんだよ。だけど、ある日魔族に呪いを掛けられてこんな姿になったんだ。不死身のオマケ付でね。そして、この姿になった影響なのか闇属性の魔法しか使えなくなったってわけだ」


「よくもまぁ、そんなデタラメがポンポン思いつきますね」


 俺の説明に対し、レムレスが小声でツッコんでくる。

 世の中、馬鹿正直に本当の事言ったら面倒になる事だったあるんだよ。

 それに……闇属性って何かカッコいいから極めました! とか、言えるわけないだろう。 

 そんな黒歴史を暴露する程俺の精神は強くない。

 ガラスのハート舐めんなよ。心臓無いけども。


「ふむ、そんな事があったのか。闇属性は禁忌……それに加えて外見がモンスター……さぞかし、苦労した事だろう」


 ほら信じた。こういうタイプは、ちょろいって相場が決まってるんだよね。

 ディオンは、俺に向かって同情するような視線を向けてウンウンと頷く。

 何故か、どこか熱っぽい視線も混じっていたような気がしたが気のせいだろう。

 

「な、なるほど。だから、禍々しい魔力の割に……い、嫌な空気がしなかったんですね」


 俺の説明を聞いて納得したイニャスが、オドオドしながら尋ねる。


「嫌な空気が何かは知らんけど、そういう事だ。俺とレムレスは、人間と敵対する気無いけど、 普通の人は見た目で判断しちゃうからね」


 まあ、俺も基本見た目で判断しちゃうんだけどね。

 だから、レムレスが忠告したにもかかわらずナナフシにまんまと騙されたわけだし。


「確かに……嘆かわしい事だが、見た目で物事を判断してしまう人間が多いからな。分かった。ボク達で良ければ、困ったときは力になろう。命の恩人である君達を全力で守ると誓う」


 ムクロは、一等級冒険者とのコネを手に入れた!

 そんな感じのテロップが、ふと俺の頭の中に浮かぶ。うーん、このゲーム脳。


「…………」


「イニャスさん、どうしましたか?」


 何やら俺の方をジッと見て黙っているイニャスに対し、ジルが不思議そうに尋ねる。


「あ! そ、その……ムクロさんとレムレス、さんは……私を見ても何も言わないんだなって、お、思いまして」


 ああ、なるほど。

 イニャスはエルフだから、好奇な視線に晒され続けてきたのだろう。

 だから、特に何の反応もしない俺達が気になったという訳だ。


「まあ、そもそも俺とレムレスが人間じゃないから、今更エルフを見た所で、ねえ」


「私は特に興味ありませんし」


 それに、今更エルフを見たくらいでははしゃいだりはしない。

 昔、男のロマンと称して散々エルフを探し回ったからな。あれもまた、良い思い出である。


「そ、そうですか……」


 俺とレムレスの言葉を聞いたイニャスは、何故か顔を赤らめながら頷く。

 ははーん、さては俺に惚れたな?

 ……なんて自惚れたりはしない。イニャスはどうやら人見知りするようだし、他人と話すのが恥ずかしくて俯いたのだろう。

 モテない人生が長過ぎて、すっかり枯れた思考になったので勘違いしたりはしない。

 これからも枯れた人生が続くと思うと、少しだけゾッとするな。


「さて、いつまでも長話しててもアレだし、さっさと帰ろうか。ディオン達も手当しないといけないし、コイツの事もどうにかしないと。そういえば、ジルの腕とかって回復魔法で治ったりするのか?」


 ファブリスの死体を回収しつつ、俺はディオン達に尋ねる。

 回復魔法と無縁な存在になった為、今のこの世界で回復魔法がどの程度進んでいるか分からないから、俺は素直に尋ねる。

 ……そういえば、試した事無いけど俺やレムレスに回復魔法掛けたらどうなるんだろうか。

 RPGみたいに普通にダメージ喰らいそうだな。

 割とこの世界って、ゲームに近いところあるし。闘技とか職業とか。


「いえ、血は止まるでしょうが私の腕やディオンの背中は完全には無理でしょう。取れた腕をくっつけたりは出来ません」


 ふむ、俺が隠遁する前からあまり進歩してないみたいだな。

 なら……やっぱあの手かなぁ。


「まあ、冒険者には傷は……っ。つ、つきものさ」


 ディオンは、背中の痛みに顔を歪めながら強がる。

 うーん、我慢強いなぁ。俺が同じ状況なら、穴という穴からいろんなもんぶちまけて泣き叫びながら転げまわってる自信がある。


「そ、それとまだボク達は帰るわけにはいかないんだ。依頼でここに来てたからね」


「依頼?」


 俺の言葉に、ディオンは自分達がここへ来た理由を伝える。

 ……なるほどなぁ。邪神の復活ねぇ。これまたベタな理由だこと。

 んで、ナナフシが盗賊団のとこから盗んだのが復活の儀式に必要なアイテムだったって事か。


「儀式について知ってそうな二人を君達が殺してしまったから、地道に探す必要があるけどね。あ! 別に君達を責めてるわけじゃないから勘違いしないでくれ」


 ディオンは愚痴を言うが、すぐに自分の失言に気づき謝罪する。

 律儀だなぁ。まあ、こういう性格だからこそ聖銀騎士パラディンになれるんだろうけどな。

 しかし、そういう事ならバイルなりナナフシなりをゾンビ化させて聞きだせばいい。

 ただ、この方法って傍から見れば結構外道だから、ディオン達には見せられない。

 一応同情は引いたが、俺が普通にそういう外道な事をやると折角騙せたのに意味が無くなってしまう。


「ディオン達、ちょっと死んでくれる?」


「いきなり何を言うんだ君は!」


 俺の言葉に、ディオンはかなり驚いたようで声を荒げた後、盛大に痛がっていた。

 ほらー、やっぱ痛いんじゃん。


「マスター、それは流石に性急すぎかと」


「だよね? いくらなんでも、わざわざ助けた相手に死ねはないよね?」


「ちょっとソフトに永眠してくれと頼めば良かったんです」


「変わってないよ! ニュアンスは何一つ変わってないからね!? あいたたたたっ」


「ほらほら、そんな叫ぶと傷が悪化するよ」


「誰のせいだと……いたた」


 ツッコまなくて良い事にツッコむからそうなるんだよ。

 最初、ディオン達を一度ギルドの方に送ってから、その儀式とやらの場所を探そうと思ったのだが、それだと間に合わない可能性がある。

 かといって、別の部屋でバイル達から聞きだしてレムレスと二人で探しに行ったとしても、ディオン達の性格を考えると勝手についてくる可能性がある。

 彼女達だけで帰らせるのは、そもそも論外だ。残党が居ないとも限らないしな。

 いくら一等級と二等級とはいえ、かなりの重傷だ。やられないとも限らない。

 このまま問答してても仕方ないので、俺は魔法を発動させる。


安寧の死悦ユーサネイジア


 魔法を発動した瞬間、俺の体から黒い靄のようなものが噴き出るとジルとディオンを包み込む。

 

「……!」


 彼女達は、何かを叫ぼうとするがまるで眠りに落ちるかのように床に倒れ込み息を引き取る。

 この魔法は、即死魔法の一つであるが対象に痛みを感じさせずに殺すことができるのだ。

 おそらく、彼女達は苦しむことなく逝った事だろう。

 俺には回復魔法が無いので、彼女達を全快させるにはこれしかなかったのだ。


「ひ、ぃ……! な、何をするんですかぁ」


 唯一無傷で、死ぬ必要の無かったイニャスが怯えたように言う。


「あー……昏睡の蛇ラァサージィク


 俺の袖から黒い蛇が飛び出るとイニャスへと喰らいつく。

 イニャスは、短い悲鳴を上げるがすぐに深い眠りへと落ちる。

 ごめんな、説明が面倒だったんだよ。

 それに、彼女は確か狂闘士バーサーカー

 本気で暴れられたら厄介だから、問答無用で寝てもらった。

 その後、彼女達に何かあったら困るので結界を張る。

 他人が結界内に入ると問答無用で死ぬという凶悪な結界である。

 闇属性は、どれもチートだろ言いたくなるような魔法ばかりだ。禁忌と言われるのも頷ける。

 

「さて、お次は……」


 俺はバイルをゾンビ化させる。

 ナナフシにしなかったのは、単純にバイルの方がよく知ってそうだと思ったからだ。

 虚ろな目を浮かべるバイルから、儀式の場所と宝玉の場所を聞く。

 どうやら、儀式の場所に宝玉があるらしい。

 儀式の場所を聞いたはいいが、行く手順が面倒だったのでバイルに案内させることにする。


「さてさて、邪神復活を阻止しに行きますかね」


 これが物語なら、まるで終盤と思うようなセリフを言いながら俺とレムレスはバイルについていくのだった。

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