第15話
「ムクロさん、指名依頼が来てますよ」
「指名依頼……ですか?」
名前はパメラさんと言って小柄で、やや緩くウェーブが掛かった栗色の髪の毛とソバカスが印象的な可愛らしい女性だ。
どことなくリスを彷彿とさせる。
ちなみに指名依頼というのは、誰々に直に依頼を受けてもらいたいから、名指しで依頼するというものだ。
来たら、自分の実力が認められたという事になるので結構名誉だったりする。
普通は、有名な冒険者や実力が確かな冒険者に依頼をするので、間違っても八等級の冒険者には指名依頼なんてこない。
「はい。凄いですよね、冒険者をやって四日目でもう指名依頼が来るなんて」
パメラさんは、まるで自分の事のように嬉しそうに話す。
尻尾があったらブンブン振ってそうだ。残念ながら、パメラさんは人間だが。
本当に残念ながら。
「で、それでどんな人からどんな依頼が来たんですか?」
「ああ、そうですね。ちょっと待っててください」
パメラさんはそう言うと、パタパタと駆け足で奥の方へと行ってしまう。
「……どう思いますか? マスター」
パメラさんが見えなくなった後、レムレスが話しかけてくる。
「まず間違いなくナナフシ本人か、その仲間だろうな」
そうでなきゃ、このタイミングで俺の所に指名依頼が来るはずが無い。
もし仮に、全く無関係な所からの依頼だっとしても、碌な依頼のはずが無い。
なにせ、実力はともかく八等級の俺にわざわざ依頼してくるんだからな。
「受けるんですか?」
「……受けなきゃ、ダメかなぁ」
どう転んでもめんどくさそうな匂いがプンプンしている。
「ダメです。いつまでも、しょうもない因縁を引きずっても仕方ないですし、ケリをつけられるならさっさとつけてしまいましょう」
正直辞退したい俺に対し、レムレスはピシャリと言い放つ。
くそ、レムレスには血も涙もないのか!
……無かったわ。
「お待たせしました! こちらが依頼書になります!」
行きと同じようにパタパタと戻ってくるパメラさん。
可愛い。テイクアウトとかしちゃダメだろうか。
「ダメに決まってるでしょう」
「何も言ってないんだけど」
「どうせ、パメラ様を持ち帰りたいとか思ってるのでしょう?」
何故分かったし。
「ふぇ!? あ、あの……きゅ、急にそんな事言われても困ります……」
当の本人は、レムレスの言葉を聞いて顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「可愛い」
「可愛いです」
「あうううぅ……」
俺とレムレスの褒めコンボにより、顔が噴火しそうなくらいになっている。
「とまぁ、冗談はさておいて、それ見せてもらって良いですか?」
「は、はい……こちらになります」
パメラさんは、顔を真っ赤にさせたまま依頼書を渡してくる。
イケメンだから許される行為だな、とか思いながら俺は渡された依頼書を受け取る。
もしこれが不細工だったら間違いなく通報ものである。
「えーと、何々……屋敷の警備?」
場所は街から少し離れた小高い丘の上にある大きな屋敷。
内容は、そこで警備をしてほしいというものだった。
依頼人は……ボンレス? なんか、美味しそうな名前だな、おい。
「もし受ける気があるのなら、本日の十四時頃に、そこの場所へ来てほしいとのことです」
俺が依頼書に一通り目を通したのを見計らって、パメラさんが話しかけてくる。
十四時か……あと一時間くらいといった所だな。
今から行けば丁度いいな。
「分かりました。受けるかどうかは未定ですけど、とりあえず話だけでも聞きに行ってきます」
俺はそう言うと、まだ若干顔が赤いパメラさんと別れボンレス宅へと向かうのだった。
◆
「ようこそおいでくださいました。ムクロ殿。私が当屋敷の主人で、貴方に依頼をしたボンレスです」
俺達は今、件のボンレス宅へとやってきていた。
入口に立っていた門番に依頼書を見せると、すぐに中へと通されたのだ。
執務室まで案内されると、中には一人の四十代くらいの男が立っており俺を見るなり笑顔で歓迎してくる。
男の身長は、大体ニメートル程だろうか。長年鍛えてきたと分かる筋肉量で、かなりの体格だ。
右目には大きな傷があり、どことなく不自然な髪の毛に目が行ってしまう。
「マスター、あれってカツ……」
「しーっ! そういうのは、バレバレでも言ってはいけません!」
男は、そういう面では結構デリケートなんだぞ!
ほら! ボンレスも表情を引きつらせてるじゃないか!
「申し訳ありません。マスター。あまりにも嘘くさい髪でしたので、つい」
「気持ちはわかるけど、一応依頼主だからね、気を遣おうか」
「おほん!」
俺がレムレスを嗜めていると、ボンレスがわざとらしく咳払いをする。
……風邪かな? 風邪って引きはじめが肝心だからね、早めに治した方が良いと思うよ。
俺とレムレスは病気とは無縁だけど。
「さ、早速だが話をしても良いかな?」
「はい、どうぞ」
「うむ……依頼書に書いていたのだが、君にはこの屋敷の警備をしてもらいたいのだよ」
「それなら、もっと強い冒険者が良いのでは? なぜ、わざわざ八等級である私に指名を?」
「それなんだがね……君は覚えてないかもしれないが、昔私が子供だった頃に命を助けられてね。その恩人と同じ名前の冒険者が来たというので調べてみたら、恩人本人というじゃないか!」
今、四十代くらいだから俺が冒険者をやっていたのが三十年前。
一応、辻褄は合うな。
「ぶっちゃけてしまうと指名依頼は口実でね。君を呼んであの時のお礼をしたかったのだよ。本当にありがとう」
ボンレスはそう言うと深々と頭を下げる。
「いえいえ、冒険者として当然の事をしたまでですよ。もっとも、申し訳ないんですが私は覚えてないんですけどね……」
昔も結構波乱万丈だったしなぁ、細かい事などいちいち覚えてはいない。
「かなり昔だからね、それも当然さ。それで、お礼と言うのは君と……そこのメイドの君に是非ともご馳走したいのだよ。ついでに今夜は我が家に泊まって、色々冒険の話を聞かせて欲しいだ。勿論、依頼書に記載している分の報酬も払おう」
ふむ……飯を食って、冒険の話をするだけで金がもらえるのか。
ハゲの癖に随分気前が良いな。ハゲだけど。
それくらいなら、特に断る理由も無いな。
「……分かりました。折角のご厚意ですし、ありがたく受けたいと思います」
「おお! そう言ってくれるか! では、早速食事を用意させよう!」
ボンレスは嬉しそうに言うと、いそいそと部屋から出ていく。
その後、俺達は豪勢な食事にありつき、様々な話をした。
話をしている間、ボンレスはこれでもかというくらいオーバーなリアクションで聞いていた。
「いやー、どれもこれも楽しいお話ばかりでした」
「いえいえ、気に入っていただけたようで何よりです」
「本当はもう少し聞きたい所ですが、時間も時間です。部屋を用意させていただきましたので、そちらでお泊りください」
ボンレスがそこまで言うと「それと……」と神妙な表情をして話を続ける。
「夜の間は、部屋から出ないようにお願い致します」
「それは何故です?」
「いえね、夜は色々警備が厳しくなるので、迂闊に部屋の外に出られると泥棒か何かと間違えられてしまう可能性があるんですよ。うちの警備、腕は確かなんですがそそっかしい所がありまして」
ボンレスは恥ずかしそうに頬を掻きながら俺の質問に答える。
「そういう事でしたら分かりました。私達は部屋から出ないようにします」
「恩人に失礼な事を言ってすみません」
「いえいえ、気にしてないですよ。それでは、私達はもう眠る事にしますね。食事、“美味しかった”ですよ」
俺はパタパタと軽く手を振りながら、笑顔でそう言う。
「その言葉、コックが聞いたら喜びます。では“良い夜”を」
俺達はボンレスに別れを告げると、今日泊まる事のなる部屋へと案内される。
「お部屋はこちらになります。では、おやすみなさいませ」
この屋敷のメイドがペコリと頭を下げると、静かに出ていきパタリと扉を閉める。
部屋の内装は、
「さて、レムレス。寝る必要は無いとは思うけど、とりあえず寝ようか」
アンデッドである俺達は、基本的に睡眠を必要としない。
だが、眠るという行為自体は出来る。
食事と一緒で嗜好の類だけどな。
「了解しました。では、おやすみなさいマスター」
「ああ、おやすみ」
俺とレムレスは、それぞれベッドに入ると眠りに就くのだった。
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