第8話
「マスター」
「うん? なんだ、レムレス」
捕まえた盗賊達を衛兵に突き出す為に街へと向かっているとレムレスが話しかけてくる。
ちなみに、盗賊達はオルカも含め俺の魔法により、異次元の中に詰め込んでいる。
『
影を門にした亜空間の倉庫だ。
この中にはいくらでも物を詰められ、尚且つ重さは感じないという便利な収納魔法である。
オンラインゲームのインベントリと思って貰えば良い。
基本的に収納限界は無く、どんなものでも収納する事が出来る。
ただし、中に入れても時間が止まる訳では無いので食べ物を入れて放置すれば腐るし、生物を入れて放置しても死んでしまう。
今回の場合は、街に着いたらすぐに出してやるので特に問題ない。
「盗賊達……特にオルカという鬼人族との戦いの事です」
何か問題でもあっただろうか?
俺がそんな事を考えているとレムレスが話を続ける。
「いくら不死身とはいえ、ああやって無抵抗に何度も殺されるというのは見てて良い気分がしません。今度からは少しくらい抵抗してください」
相変わらず無表情ではあるが、その言葉からは心配している雰囲気が伝わってくる。
普段辛辣なだけに、こうやって普通に心配されると心に刺さる。
「まあ、そこはゴメンな。ただ、俺って手加減苦手なんだよ。今回は、殺さない気でいたから、うっかり殺すのもあれだしさ」
蘇生魔法も使えると言えば使えるが、あれは正直魔力を使うのでかなり面倒だ。
「下手に殺して、蘇生ってのも面倒だしさ。どっちみち、俺を殺せる手段ってのはそんなに無いし、心配する事も無いだろうよ」
この世界には、不死身の存在を殺す手段がいくつかある。
その中でも、一番メジャーなのが不死殺しと呼ばれる魔法が付与された武器だ。
どういった原理の魔法かは分からないが、この武器で殺されれば例え不死身の存在であっても復活できない。
とはいえ、効果が効果だけにそれこそ伝説級の武器でなきゃ、まずそんなものは無い。
たかが盗賊がそんな物を持ってるとは思えないしな。
「……はぁ」
俺の言葉に、レムレスは盛大に溜め息を吐く。
「いくら“アレ”を継承しているからといって、性格までソレに合わせる必要は無いんじゃないんですか? そんな何でもかんでも面倒くさがっていると、いつか痛い目に遭いますよ」
「いやまぁ……これは性格だからなぁ」
好きな事には、アホみたいに熱中できるがそれ以外の事は、極力やりたくないというタイプなのだ俺は。
それが闇属性を極める結果となったのだ。もっとも、極めたら特にやる事も無くなって面倒になって隠遁生活を送っていたという訳だ。
他に目ぼしい目標とか無かったしな。
「……もしかして、実はもう闇属性の地位向上も面倒になってきてるとか無いですよね?」
「ハハハ、ソンナバカナ」
ずばり図星を突かれ、俺は乾いた笑いを浮かべながらも一応否定する。
闇属性の地位向上……もしくは、俺が無害なリッチだと知ってもらわないといけないのだ。
飽きたからと言って投げ出す訳にも行かない。
「っと、そろそろ街だな」
レムレスの疑惑の眼差しに耐えていると、丁度良く街が見えてきたのでこれ幸いと話題を変える。
「……そうですね。では、盗賊達を早く外に出してください」
レムレスはジーッとこちらを見ながらもそう言う。
それもだが、まずは姿を変えないとな。骨のままだと間違いなくモンスター認定されて討伐されてしまう。
俺は人化の秘法を使い、銀髪紅眼のイケメンに変身する。
倉庫から手鏡を取り出して違和感が無いか確認するが、特に問題は無さそうだった。
……うん、やっぱカッコいいよなぁ。自分の中でカッコいいと思う造形にしたのだから当然だが。
「どうよ、レムレス」
「骨の方がイケメンですよ」
レムレスの方を向いて尋ねてみるが、にべもない返事が返ってくる。
骨にイケメンとか不細工とかあんのかよ。……いや、骨格が綺麗とかそういう類か?
どっちにしろ、骨の方を褒められても微妙な気分にしかならんが。
「ま、まあいい。オルカ達を出さなきゃな」
俺は、自身の影を広げるとオルカ達を地上へと出す。
脳内で念じれば、倉庫の中身が分かるので何を入れたか忘れても余裕だ。
そして、指定した物を地上へと出すことができるのだ。
闇属性以外でも、空間を扱った魔法はあるそうだが俺はこの魔法が便利なので気に入っている。
呪いとかマイナスイメージなのは於いといて、こういうプラスというか便利な魔法を広めれば、意外と早く目的の一つが達成できるかもしれないな。
俺の目的は二つ。一つは何度も言っているが、闇属性の地位向上。もう一つは……安住の地を見つける事だ。
人が住めない程の未開の地に住めば、討伐隊とかも来ないじゃんと言われそうなのだが、俺はともかくレムレスは食事が必要なのだ。
俺の魔力で、一応死にはしないが、点滴で生活してるようなものなので、やはり食事は必要になる。
そんなわけだから、最低でもある程度近くに人里が存在する必要がある。
まあ、その結果がどっかで俺を目撃した誰かがモンスター討伐として依頼してくるんだから、世知辛い世の中である。
「さて……」
先程までの思考を隅に追いやって、俺はオルカ達を見下ろす。
「「「……」」」
オルカや目の覚めた盗賊達は、何やら怯えたような表情で蹲って、一言も喋ろうともしない。
他の盗賊ならともかく、オルカまで何で怯えてるのだろうか?
「あのー……」
「ひ、ひぃ⁉ すみませんすみません! もう悪い事はしません! だから、“あそこ”にはもう入れないでくれ! いや、入れないでください!」
俺が声を掛けると、オルカ以外の起きている奴らが一斉にこちらを見て、体を震わせながら土下座をして懇願してくる。
仮にも大人が酷く情けない態度だ。まるで、逆らうと命でも取られるのではというくらいに怯えている。
「…………なぁ、ムクロ」
俺がどうしたもんかと思いながらレムレスと顔を見合わせていると、オルカが憔悴しきった顔で話しかけてくる。
あの豪快なオルカまで、こんなになるなんて一体何があったんだ?
「“あそこ”は……一体、何なんだい?」
「あそこ? 他の奴も言ってたけど、一体何のことだよ」
「さっきまでアタシ達が居た所さ」
「なるほど、そういう事でしたか」
「レムレス、どういう事?」
オルカの言葉で、
「マスター、
「え? いや、中は真っ暗だよ。何にも見えないし外からの音も聞こえないはず」
物を入れるだけなのだから、明りとかも必要ないしな。防音なのは、狙った訳では無く副次的な効果だ。
「人間は、光も無い音も無い空間に長時間居たら精神に異常をきたすものなんですよ。オルカ様は鬼人族なので、普通の人間よりは耐性があるようですが、それでもだいぶ堪えたみたいですけど」
「ああー……」
そういえばそうだったな。
すっかり失念してしまっていた。いくら悪人とはいえ、やりすぎたかもしれない。
「何かごめんな。便利だったもんでつい」
「ひぃっ!」
素直に謝ると、すっかり精神が参ってしまっている盗賊達は、震えながら後ずさる。
自業自得とはいえ、何かクルものがあるな。
まあ、こんだけ怯えてるならもう悪事も働かないだろうし、結果オーライだと信じよう、うん。
いつまでも失敗を悔いてたら前には進めないのだ。失敗という経験を糧にして前に進むからこそ、人間は成長するのだ。
「なんか、自分の中で良い話風に纏めようとてしませんか?」
「気のせいだ」
まったく、レムレスはすーぐ俺の心の中を読むんだから。
さては俺の事好きだろ、こいつ。……なーんて事は言わない。
言った瞬間、絶対に闘技でぶっ飛ばされる。
そんなこんなで、怯える盗賊達を引きつれて、俺は街の入口へとたどり着く。
「待て、そいつらは何だ?」
街へ入ろうとすると、鎧を着たおっちゃん――おそらくは門番だろう――が話しかけてくる。
「えーと、こいつらは道中で捕まえた盗賊団です。衛兵に引き渡そうと思いまして……どちらに連れていけばいいでしょうか?」
「何? お前ら、本当に盗賊団なのか?」
「ああ、そうだよ。アタイらはカイリキランシン盗賊団だ」
そんな名前だったのか。そういえば、シーフォ……じゃなかった、ナナフシからは盗賊団の名前聞いてなかったな。
つーか、随分呼びにくい名前だけど、もっと良いの無かったのかよ。
「カイリキランシンだと? ちょ、ちょっと待ってろ!」
手配されているだけあって聞き覚えがあるのか、おっちゃんは急いで詰所の方へと向かう。
それから少しして他の人達を数人引き連れて戻ってくる。
戻ってきたおっちゃん達は、盗賊達の顔を手に持ってる紙と照らし合わせ、やがて納得したような顔でこちらへと近づいてくる。
「……確かに、こいつらは手配中の盗賊団のようだ。いや、お手柄だったよ」
「いやー、それほどでもないですよ」
「いやいや、充分すぎるほどの働きをしてくれたよ。こいつらには手を焼いてたからね。もしかして、二人で倒したのかい?」
「まぁ、そうですね」
俺がそう答えると、おっちゃんは目を見開いて驚く。
「まさかと思ったが、やっぱりそうか! それが真実なら、本当に凄いぞ。こいつら自体は大した事無かったが、そこのリーダーに苦戦してたからな。見た目からして
「俺はそうですね。こっちは
レムレスの
俺の言葉を聞いて、なるほどとおっちゃんは頷く。
「まぁ、とにかく助かったよ。もし良かったら名前を聞いても良いかい?」
「俺はムクロ。こっちはレムレスです。実は、今日から冒険者を再開するんですよ。ギルドってどこにあるか教えてもらえませんか?」
「ムクロにレムレスだな。覚えておこう。ギルドは、こっから見える大通りをまっすぐ行った所の突き当りにある四階建ての建物だ」
おっちゃんは、街の中を見ながら大きな通りをまっすぐ指差し教えてくれる。
「ありがとうございます。それじゃ、俺らはこれで」
「ああ、待ってくれ! まだこれを渡してなかった」
俺達が街の中へ入ろうとすると、おっちゃんは慌てて何かの紙を渡してくる。
「そいつは、盗賊団を捕まえた証明書だ。ギルドで渡せば報奨金が支払われるはずだ」
ああ、そっか。盗賊団に賞金が掛かってるんだから、当然そういうのがあるな。
すっかり忘れていた。
「分かりました。それでは、改めて失礼しますね」
「おう! 冒険者頑張れよな」
俺達は、盗賊達を引き渡すとおっちゃんと別れて街へと入る。
街は、特に何の特色も無い平凡な街並みだった。
「マスター、どうしてあそこで闇属性をアピールしなかったんですか?」
しばらく歩いていると、レムレスが小声で尋ねてくる。
「……まだ、俺達に地盤が無いからね。ただ、闇魔法で捕まえましたって言っても信じないだろうし、信じたら信じたで色々面倒な事になるんだよ」
アピールするにしても、もう少し有名になってからだ。
「なるほど、マスターにしては考えてたんですね」
「俺にしては、ってまた失礼な」
そんな感じで、いつものように軽口を叩き合いながら俺達は、いよいよギルドへと向かうのだった。
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