第1話

「なぁ、レムレス」

「なんですか? マスター」


 ある日、いつもの望まない日課(冒険者迎撃)を済ませ、紅茶を飲みながらレムレスに話しかける。

 口を開かなければ、美少女なんだけどなぁ……。


「……何か、凄く失礼な事を考えませんでした?」

「ソンナコトナイヨ」


 レムレスの言葉に、俺は首を横に振りながら答える。

 ふう、骸骨で良かったぜ。骨に表情は無いからな。


「……まあ、良いです。それで、何の用ですか」


 レムレスは、ジーッと俺の事を見た後、わざとらしくため息を吐きながら再び尋ねてくる。


「うん、あのさ。俺、考えたんだけどね……どうして、こう何度も冒険者が討伐にやってくるかって」


 実は、何度か移り住んでいるのだが、どこに行ってもどっから噂を聞きつけてくるのか、俺を退治しにくる冒険者が後を絶たない。

 もっとも、百年も生きないような人間では闇魔法を極めた俺には勝てないのだが、それでも鬱陶しいのは鬱陶しい。


「マスターの姿が人外だからじゃないですか? リッチっていうモンスターですし」


 俺の言葉を聞いて、レムレスが首を傾げながら言う。

 確かに、俺の姿は普通では無い。

 見た目骸骨だし、真っ黒なローブ着てるし。

 もし俺が第三者だったら、夜中に出会ったら腰抜かす自信がある。

 ……実はいまだに、不意に自分の姿を見ると少しビビるのは内緒だ。

 特にレムレスには絶対に知られたくない。

 奴の事だ。そんな美味しいネタを知ったら、絶対にからかってくる。

 なので、この事は俺だけの秘密だ。


「いやまぁ、それも一因だろうけど、もっと別の理由があると思うんだ。そう、闇属性が忌避されてるのが一番いけないと思うんだ」


 この世界では、闇属性は禁忌とされている。

 それを使える俺は、人間から見れば脅威でしかないだろう。

 闇属性は、死体を甦らせたり……命と引き換えにする魔法があったりと、普通の魔法とは一線を画している。

 人道に反するという理由で、闇属性は禁忌認定されているというわけだ。


「だからさ、俺考えたんだけど……闇属性の認識を改めさせたら、もう襲われなくなるんじゃないかと思うんだ」


 闇属性を使うリッチ。これだけ聞けば、今の世界ではかなり危険な存在だと思われてしまう。

 ならば、その禁忌と言われている闇属性を禁忌でなくしてしまえば、俺の事も無害なリッチだと思ってくれるのではないだろうか。


「はぁ……それで、具体的に何をなさるんですか?」

「人の役に立つんだよ。この世界にはギルドがあるからな。そこで依頼を受けて、バンバン評価を上げようってわけだ。そこで役立てば、おのずと闇属性の認識も上がるだろ」


 ギルドは、ファンタジー小説では定番なアレだ。

 冒険者と呼ばれる人間が、モンスター討伐や護衛等の依頼を受ける場所だ。

 いつも俺を討伐しに来る冒険者も、ギルドから依頼を受けて来てるという訳だ。

 

「ですがマスター。モンスターって、ギルドに登録出来ましたっけ?」

 

 レムレスの疑問ももっともだ。

 冒険者の登録は、基本的に人間や獣人などが対象だ。

 モンスターや魔族は、登録する事が出来ない。

 魔族というのは、闇属性を得意とする種族であり、北にある魔大陸と呼ばれる地に住んでいる。

 はるか昔、この大陸を支配しようと侵略してきて戦争になったため、魔族は今も嫌われている。

 そこら辺も、闇属性が禁忌とされている理由の一つだったりする。


「ふっふっふ、そこら辺は大丈夫だ。えーっと……確かこの辺に……あ、あったあった。ほれ」


 俺は、引き出しの奥にしまっていたギルドカードを取り出す。

 俺が人間だった頃に登録したカードだ。特に有効期限は無いので、今も普通に使えるはずだ。

 カードには、名前とランクだけ書かれており、顔写真が無いので本人だと証明できれば普通に使える。

 本人の証明方法は、魔力の質だ。

 これは、指紋のようなもので一人一人違うらしい。モンスターになったとはいえ、魔力の質までは変わらないので、充分に証明できるという訳だ。


「確かにギルドカードが元からあるなら、大丈夫ですね。ですが……」

「何? まだ何かあるの?」


 レムレスは、無表情ながらもどこか心配そうな声色で言う。


「いえ……そう、上手くいくものかと思いまして。マスターに何かありましたら、私どうにかなりそうです」

「だーいじょうぶだって! レムレスは心配性だなぁ」


 普段は辛辣な癖に、こうやって時折心配してくるからレムレスの事を嫌いになれない。

 美少女に心配されて嫌な男は居ないからな。


「私はマスターの魔力で動いてるんですよ? 万が一、マスターが消滅したら私だって死んでしまうんです。そこの所理解してください」


 ……前言撤回。こいつ、自分の事しか心配してねぇ。

 くそう! 俺の純情な心返せよ!


「…………まあ、それでもマスターがどうしてもと仰るなら、私はマスターに素直に従いますよ。マスターの事、“愛して”ますから」

「はいはい、ありがとうよ」


 酷く白々しいレムレスの言葉に、俺は軽く答えながら今後の予定について考える。


「……感なんですから」

「何か言った?」


 考え事をしていたため、レムレスが小声で何か言ってたのを聞き逃してしまう。


「なに難聴系主人公みたいな事言ってるんですか。それが許されるのはイケメンだけですよ」

「聞き返しただけなのに酷い言われようだ」


 レムレスは、この世界の住人だが俺と魔力で繋がっており、知識も共有している。

 それゆえに、地球の……特に日本のサブカルには無駄に詳しい。

 いつか、日本のメイド喫茶に行くのが彼女の夢だそうだ。

 ……叶うと良いな。


「で、結局何て言ったのよ」

「何も言ってませんよ。私に劣情ばかり抱いてるから幻聴が聞こえるんです。全く気持ち悪い」

「抱いてねーよ! ていうか、気持ち悪いとか言うな! 傷つくでしょうが! 俺のハートはボロボロだよ?」


 いや、そりゃあレムレスは可愛いよ?

 正直、そういう気持ちも無くは無い。だが、それを素直にはいそうですかと認めるわけにもいかないので、俺は声を大にして否定する。


「それはそれでムカつきますね。というか、全身骨なのにどこにハートがあるんですか?」

「比喩表現だよ。察してよ」


 女心は複雑というが、レムレスはそれに輪を掛けて面倒くさい気がする。

 そんなこんなで、日常の一部となっているレムレスとの会話を楽しみながら今後の計画を練るのだった。

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