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「部長」

 桜の下に座り、手元を影にして何かしていた部長は、声を掛けた瞬間、肩を跳ねさせて体勢を崩した。

 そんなに驚かなくても――そんなに、怖がらなくても。

 ああ、わたしが言えることじゃなかった。

「ごめんなさい」

 その言葉はするりとこぼれ落ちてきた。

「今日とか昨日とかじゃなくて、今までずっと、ごめんなさい」

「海原」

「はい」

「これ」

 部長は何も聞いていないかのように、わたしに見えない角度で、手にあったメモ帳からページを剥ぎ取ってこちらに突き出した。

「え」

 訳が分からないまま受け取る。文字が書かれている。

「じゃあ」

 そのまま桜の影から、わたしのいるのと反対の方に抜けようとする部長の袖を掴む方が、その文章を読むよりも先だった。

「待って」

 昨日の別れ際をふと思い出した。あのときと同じ、また部長は、行ってしまうのかと思った。

「部長」

 振り払われた。そこまでは同じだった。

 だけどそのまま踏みとどまってくれるところは、昨日と違っていた。

 わたしは手に紙切れを握ったまま、彼の前に回り込んだ。

「部長」

 部長は何も答えず顔を伏せる。

 でもわたしと部長の身長差と、今日だけは部長にマフラーが無いせいで、紅くなった顔が丸見えだった。

「部長?」

「何でもない」

 部長はわたしの正面を避けて校舎の方に戻ろうとした。

「どこ行くんですか」

 部長はちょっとだけ目を泳がせて、

「部室」

と言った。諦めたような口調だった。

 部長が部室に戻ると決めてくれたのは嬉しいことだけれど、だけど、今は。

「先に、部長にお話があるんですけどいいですか」

 そう言うと、部長は明らかに顔を顰めた。

 わたしの前で、こんなにも表情を出してくれるようになったんだなあ。……嬉しくない表情だとしても、だ。

「今までのこと、全部謝りたいんです」

 わたしはもう一度仕切り直して、真正面からそう言った。

「謝ったって遅いってことは分かってます。過ぎてしまったこの一年はどうにもならない。でも、わたしは謝りたいんです。ちゃんと言葉にしたいんです」

 部長は黙ったままこっちを見ている。

「無理やり聞かせるのは違うかもしれません。それに、わたしの謝罪を受け入れろなんて思いません。許せなくて当たり前ですから。でも、わたしはここで、だったら謝らないなんて逃げ方をして、間違えたくはなかった」

 逃げる、という言葉に部長がわずかに反応する。

「今まですごくすごく間違えました。これ以上間違えるわけにはいきません。でも部長はそんな部員のひとりであるわたしと、仲良くなろうとしてくれて、話し掛けて、誘ってくれました。本当はわたしたちからすべきぐらいなのに」

「……そうでもないだろ」

「そうでもなくないです」

 わたしは手をぎゅっと握り締めて下を向く。

「わたしたちが――」

「お前さあ」

 続けようとしたわたしを、部長が遮った。

「俺が、部員と仲良くなりたいだけで、お前のこと誘ったと思ってんの」

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